訓練に忍び寄る闇3

 ローブの男の手はラを貫かなかった。

 むしろローブの男の手の方が矢に貫かれていた。


「やれやれ……どいつもこいつも…………」


 飛んできた矢を放ったのはアユイン。

 ローブの男の手に横から刺さった矢は手の軌道を逸らし、ラの胸に手が突き刺さることを防いだ。


「ジ、動かないで!」


 ジにエが駆け寄り回復魔法をかける。

 顔の痛みが取れていき、気分が少し落ち着く。


「くらえ!」


「な、何だこれは!」


 みんなが危ないので時間を稼がなきゃいけない。

 ジはフィオスを召喚してローブの男の顔面に投げつけた。


 フィオスがローブの男の顔面に絡みついて視界を奪う。


「エ、ありがとう」


 痛みも和らいだジが回復もそこそこに立ち上がりローブの男にかけ出す。


「ふざけたマネを!」


 ローブの男がフィオスを顔面から引き剥がして怒りに任せて投げつける。


「はっ!」


 ジはローブの男の懐に入り込み、剣を振り上げる。

 ローブの男が上半身を逸らしてかわそうとするけれどかわしきれない。


 ローブの男の胸が切り裂かれて血が飛ぶが倒すにはまだ浅い傷であった。


「この……!」


 ローブの男の黒目が赤くなり、白目が黒くなる。

 大きくローブの男が手を振りジは距離をとって回避する。


「ああ、もう!


 このままでは全員殺してしまう……


 しょうがないですね!」


 頭を振って怒りを振り払う。

 こんな子供たちごとき本気を出せば簡単に殺すことが出来るけれど今はそんなことが目的ではない。


「眠りなさい」


 ローブの男の手から黒いオーラが放たれる。

 黒いオーラが子供たちに当たると次々と子供たちが倒れていく。


「これ……は!」


 精神に作用する魔法。

 強制的に眠気を誘い、意識が朦朧とする。


 精神に攻撃する魔法は扱いが難しく大きな魔力を必要とする。

 こんなに多くの子供をいっぺんに眠らせるなんてかなりの魔力を必要とするはずなのに。


 体が重くなり、まぶたが勝手に落ちてこようとする。


 剣を支えに倒れはしていないけれど猛烈な眠気に襲われてぎりぎりの状態だった。


「これに耐えるとは面白いガキだな」


 褒めるような言葉とは裏腹にローブの男はジを殴りつける。

 痛みと魔法のためにジは完全に意識を手放した。


「ん、ん〜……連れて行ける人数はそう多くない……」


 ローブの男は自分の爪で親指を浅く切る。


「こいつとこいつ……神性を感じるこいつも連れて行きましょうか」


 滲む血を何人かの子供達に落としていく。

 血をかけられた中にはリンデランやエ、そしてジも含まれている。


「もうそろそろ時間でしょうか?」


 思いの外時間が取られてしまった。


「あちらもまだ終わっていないですし……」


 みるとまだグルゼイとリアーネも戦っている。

 しかし戦いはもう終わりかけていた。


「あ、来ましたね」


 ローブの男を中心にして足元に紫の怪しい光を放つ魔法陣が広がる。


「くっ、貴様何をするつもりだ!」


 グルゼイがカエル男を切り捨ててローブの男の方に走る。


「もう遅いですよ」


 魔法陣が強く輝き、グルゼイが目を覆う。


「…………くそっ!」


 ローブの男はいなくなっていた。


 それだけではなく、ジを含めた数人の子供たちも一緒にその場から消えてしまっていたのであった。

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