訓練に忍び寄る闇2

「なんだと!」


 硬い。

 スパっと腕を切り落とすつもりだったグルゼイの剣は男の腕の表面を撫でただけに終わった。


 岩でも切り付けたような感覚。

 切った側のグルゼイの手が反動で痺れる。


 しかしグルゼイは怯むことなく男の体を連続して切り付ける。

 男は拳を振り切った体勢のままされるがままにグルゼイに切り付けられた。


 しかし男の体も腕同様に硬く、切ることができたのは着ているローブだけであった。

 ボロボロに切り裂かれたローブの中から男の体が見えた。


「気色が悪いな」


 切れない時点で嫌な感じはしていた。


 男の肌は普通の人間のものではなかった。

 明るくまるで土ででも出来たかのような黄色い肌。


 これが普通の色だっていうのなら間違いなく病気だとグルゼイは答える。


 よくよくみると体の作りもなんだかおかしい。

 やたらと角張っていて全体的に四角いフォルムに見えた。


 何かに例えるならゴーレムのような男だった。


 グルゼイはなぜなのかジが誘拐された事件のことを思い出した。

 あの時の異常者もまるで魔物のような容貌をしていた。


「グアアアア!」


 ゴーレム男は雄叫びをあげてグルゼイに迫る。

 ゴツゴツとした拳を振り下ろしグルゼイを攻撃する。


 動きは早くないのに風切り音が聞こえ、その拳の威力の高さをグルゼイに伝える。

 一発でも食らったらヤバい。


 しっかりと回避したグルゼイはリアーネの様子を横目に確認した。

 リアーネの方もグルゼイ同様にローブの男の後ろから出てきた奴と戦っていた。


「死ね死ね死ね!」


「気持ち悪いんだよ!」


 一瞬の隙をついてリアーネが剣を振る。

 決して遅くないはずのリアーネの攻撃なのだが相手には当たらない。


 ゴーレム男はまだ人といえば人なのにこちらの方はより人からかけ離れていた。

 緑色の肌にやたらと離れた目、指と指の間には水掻きまである。


 人間というにはあまりにも異様な姿をしている。


「素晴らしいだろ?


 こいつらは……」


「グオオオオッ!」


「ビクエム、少し静かにしてくれ」


 ゴーレム男が雄叫びをあげたせいでセリフを邪魔されたローブの男が眉を寄せる。

 言葉ではなくただの雄叫びに、本当に知能のないゴーレムになってしまったかのようだ。


「ま、いいです。


 さっさと邪魔者を片づけてください」


「グオオオオ!」


 ビクエムの拳が空を切り地面にめり込む。

 単純で力が強く、非常に硬い。


 グルゼイとはやや相性の悪い相手。


「オラァー!」


 一方でリアーネの相手、カエルみたいな男ダダルは素早く手数が多い。

 水掻きの生えた両手にナイフを持って絶え間なくリアーネを切りつけ続けている。


 リアーネは大きな剣を巧みに使ってナイフを防いでいるけれど反撃にまで手が回らず防戦を強いられている。


「目的はなんだ」


 残されたローブの男が子供たちに近づいてくる。

 ジが剣を向けて立ちはだかるとローブの男は少し目を細めた。


「ふむ、魔力は取るにたらないが、神性を少し感じる……


 他の子供は神性はないが魔力は強いのが何人もいるな。


 ふふっ、私のところはあたりのようだ」


 訳の分からないことをぶつぶつと呟いてローブの男がジに左手を伸ばした。

 ぞくりとする気味の悪さを感じたジはローブの男の手を剣でないだ。


 血が飛び、ローブの男の目がくわっと見開かれる。


「この、クソガキ!」


「ジ!」


 体が本能的に動いた。

 一歩下がったジの目前をローブの男の逆の手が通り過ぎ、ジの頬が裂けて血が流れ落ちる。


 ローブの男の右手が黒く変色し、爪が伸びて鋭くなっている。

 下がっていなければ顔面がズタズタになっていた。


 普通の子供なら回避できなかったか、または回避できても怯んでしまって行動できなかった。

 ジは普通の子供ではない。


 これはヤバい相手であると判断したジはすぐさま反撃に出た。


「ほほう……中々見上げた根性のガキだな。


 だが俺は俺に従わないガキは嫌いなんだよ!」


 切り付けた剣をローブの男は素手で受け止めた。

 剣の刃を握りしめて思いっきりジを引き寄せたローブの男はパッと剣を放すとジを殴りつけた。


 容赦のない一撃にジが簡単に吹き飛ぶ。

 地面に転がり二転三転とする。


「ジ! ……このヤロー!」


「ラ……ダメだ……」


 ジがやられたのを見て逆上したラがローブの男にかかっていく。

 ラでは敵わないと止めようと思ったジだがダメージが大きく体が動かない。


「大人しくさせるのに1人ぐらいは見せしめにする必要がありそうですね」


「うおおおお!」


「所詮は子供のお遊戯。


 魔力は少なかったですが先ほどの子供の方がマシでしたね」

 

 ローブの男が手を振って爪でラの剣を弾く。

 振り上げるようにして弾かれたラは両手を上げるようにして胸がガラ空きの体勢になる。


 ジには時間がゆっくりと動いているように見えた。

 ローブの男が剣を弾いた手を引き戻し、伸ばした指をピタリとくっつける。


 そのままガラ空きになったラの胸に鋭い爪を突き出した。


「やめろー!」

 

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