訓練に忍び寄る闇1

 その後もウルフドッグこそいなかったもののゴブリンやホーンラビットといった比較的倒しやすい魔物を見つけては交代交代で戦った。

 他の子が戦っている様子を見ているし2回目ともなるとみんなそれぞれ少しずつでも動けるようになってくる。


 想定よりも早いペースで魔物が見つかったので単に戦うだけでなく魔獣を呼び出しての戦いも始めた。

 森の中でも目立ちすぎないように大きな魔獣は小さくして戦闘に加えた。


 単純に戦う数が倍になるわけであるし魔物との戦闘は慣れも出てきてより楽になった。


 再び魔獣を戻して、一度休憩を取る。

 老年兵士の男性は子供たちに1個ずつお菓子を配る。


 かじるとほんのりとした甘みが口に広がり、疲れた体に優しい。


「なあ、あん時どうしたらよかったかな?」


「うーんあの時はもっと一気に行っちゃってもよかったんじゃないかな?」


「今度は行った方がいいかぁー。


 難しいな、実戦って」


 ラは戦いが終わるとジに意見を求めるようになった。

 1番動けて周りを見ているのはジだということを素直に認めてより強くなるために意見を問うことも厭わない。


 過去に若くして周りの信頼を得て貧民ながら地位を得ただけはあるとジは感心した。


「おや、人がいますね」


 休憩を終えてまた魔物を探していると森の中に人を見つけた。

 森を貸し切りになんて出来ないので他に冒険者がいることは普通にある話。


 一応森の浅いところを教習訓練することは冒険者ギルドに伝えてあるので今日森の浅いところにくる冒険者は少ないけれどそれでもいることはあるし、通過する途中なんてこともある。


「みなさん、もし他の冒険者の方にあったら挨拶しましょう。


 出来るならどのような依頼を受けているですとか狩場などの確認をして無用な衝突を避けるようにしましょう。

 危険などがあったら情報共有も出来ますし声をかけることはとても大事なことです」


 そうして声を掛け合うから冒険者同士は知り合いになりやすく情報を教え、教えられるので知識も増えていく。

 危険が伴う職業なのでみな協力的で助け合いが常なのである。


 また声をかけておけば怪しい人や危ない人なんかを事前に察知することもできる。

 人の獲物を横取りするような奴はされた質問に咄嗟に答えられないようなケースもあるからだ。


 挨拶をしようと言っておいてスルーするはずもない。

 老年兵士の男性が森にたたずむローブの人物に近づいて行く。


 人が森の中にいることはおかしいことではない。

 なのになぜなのか嫌な予感がした。


 森の浅いところとはいえ、1人で、フードを深く被って顔を隠している。

 格好からして魔法使いだけど魔法を使う人間が接近戦を担う者もなしに単独で行動することは少ない。


 老年兵士の男性が近づいていく程に、ジの中に疑問が湧いてきて、ますます怪しく見えてくる。


「すいません、冒険者の方ですか?


 私……」


 低く鈍い音がした。

 何が起きたか子供たちは全く分からない中リアーネが動いた。


 空中を低く飛んでくる老年兵士の男性をリアーネが受け止めた。

 気を失っている老年兵士の男性の甲冑の胸の部分は大きく凹んでいて、ローブの人物は拳を突き出した体勢でいる。


 いきなりローブの人物が老年兵士の男性を殴りつけたのだ。

 しかも成人の男性がぶっ飛ぶほどの強烈な一撃。


「あんた何のつもりだ!」


 剣を抜いたグルゼイが前に出る。


「……のために」


 ローブの人物が顔を上げた。

 やたらとギラついた、怪しい光を秘めた目が印象的な男性。


 ローブの男がスッと手をあげると男の後方から男と同じ黒いローブを身にまとった怪しい男たちが2人出てくる。


 最初の男も含めて3人。

 フードによって薄暗く見える顔の中で3人が3人ともヤバい目をしている。


 子供たちが異様な雰囲気に怯え出す。


「ジさん……」


 リンデランがジの後ろに回って裾を掴む。


「リンデラン、しっかり……」


 明らかな異常事態。

 その時甲高い音が聞こえて空に赤い光が打ち上がった。


 信号弾。しかも危険や緊急事態を表す赤色。


 何かがあった時にすぐに連絡を送れるように各グループ信号弾を持っていた。

 すぐさま他にも赤色の信号弾が空に上がってグルゼイは内心舌打ちする。


 同じく自分も信号弾を上げようと思っていたのに他のグループでも同じようなことが起きているとグルゼイにも分かった。


「リアーネ、さっさと片付けるぞ!


 ジ、子供たちはお前に任せた!」


 老年兵士の男性に攻撃をしてきた時点で敵なことは確定している。

 時折気に入らないなんて理由で暴力を振るう人間もいるので対話を試みようとしたけれど状況はもうそんな段階をとっくに過ぎていた。


 他のところにいるグループも危機的状況にある。

 早く倒して状況把握と手助けに行かなきゃいけない。


「ビクエム、ダダル、やれ」


 グルゼイは老年兵士の男性を殴りつけた男にまっすぐ向かった。

 するとローブの男の左後方にいた男がグルゼイとローブの男の間に割り込み、グルゼイを殴りつけた。


「いいだろう、お前から片付けてやる」


 風を切る音が聞こえる拳をかわしてグルゼイが腕を切り付けた。

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