その時の戦い
「グオオオオ!」
ビクエムはやたらめったらと腕を振り回してグルゼイを攻撃する。
当たれば終わりだけどめちゃくちゃに繰り出されるパンチはグルゼイに当たるはずもない。
けれどグルゼイもビクエムを倒すには決め手に欠けていた。
隙を見て切りつけるが硬い表面を剣が滑るだけで刃が入っていかない。
切ることは不可能ではないと思う。
しっかり魔力を込めてきっちりと切りつければいける。
しかしその先を考えると深く踏み込んで攻撃ができない。
なぜならビクエムは切りつけられることを一切恐れていないからである。
硬くて刃が通らないことを分かっているのか、あるいは痛みにも鈍くて切られることも平気なのか。
ビクエムは愚直に攻撃を続けている。
切る自信はあるけれど切られた上でもそのまま攻撃を続けてきそうな気配がある。
一発食らえばグルゼイはやられてしまうので攻撃してもいい確信が持てないでいた。
そうしている間にジが殴られて吹き飛んでいくのが見えた。
焦りが胸の中に湧き起こるがここでビクエムを放置しては行けない。
「やかましいんだよ!」
リアーネが一瞬の隙をついてダダルを押し返して剣を振る。
ダダルはそれを分かっていたかのようにさらに大きく退いてリアーネの剣をかわす。
雄叫びを上げ続けるビクエムも大概うるさいが、ダダルもブツブツと言葉を口に出しながら戦う。
少し高い声をしているダダルの声は非常に耳についてうるさい。
イライラとしてくるとうっすらと浮かべた笑みや緑色の肌など色々と目についてくる。
リアーネの反撃を封じ、あるいは読んでいるかのように回避してくるのもまた腹が立つ。
「けけっ、死ね!」
上半身を屈めるような体勢をとっては素早く接近してくるダダル。
接近されることを嫌がり横薙ぎに剣を振るうがダダルは低く跳びあがり、空中で横に一回転しながらかわしてそのままリアーネの懐に飛び込む。
着地するとすぐさまナイフを突き出し、リアーネが顔を逸らしてかわす。
続いて逆の手のナイフで切りつけるが剣でそれを防ぎ、再びリアーネが防戦を強いられる。
面倒な相手だ。
グルゼイもリアーネもそれぞれ思っていた。
どうしても戦いには相性というものがある。
相性で考えるとグルゼイに対するビクエムとリアーネに対するダダルはあまり良くない相性であった。
そんな2人の思惑は一致した。
「リアーネ、交代だ!」
後退したグルゼイとリアーネの背中がぶつかりグルリと場所を入れ替える。
「思い切りいくぞ!」
「グアアアア!」
リアーネはビクエムの拳をかわして剣を振り下ろす。
肩にめり込んだ剣がビクエムの肩を破壊してそのまま右腕を砕き落とす。
鬱憤がたまったリアーネの一撃は重く、ビクエムを鋭く切るよりも鈍く引き裂いた。
重たい一撃はビクエムの体を後ろに押し、反撃も防ぐことができた。
「死ね!」
「お前がな」
ダダルは完全に失敗した。
リアーネと戦うのと同じようにグルゼイに手を出した。
長剣で取り回しにくいために防御の回転を重視していたリアーネと違ってグルゼイははるかに手が早く、簡単にナイフを防ぎ、弾いてみせた。
ダダルの方も速さを重視していたためにナイフが軽く、両腕が弾かれて大きな隙を見せる。
「ぐっ……」
リアーネの時と同じように後ろに下がってグルゼイの攻撃をかわそうとするダダル。
「遅い」
しかしグルゼイは素早く足を踏み出しダダルを逃すまいとする。
わずかにダダルの方が速かったのだがグルゼイの剣をかわせるほどの距離を取ることができなかった。
グルゼイは縦に剣を振り切る。
ほんの少しの抵抗を手に感じつつも止まることがない剣に自分の腕が悪くなったのではないと安心すら覚えた。
ダダルを切り捨てて振り返るとローブの男の足元に魔法陣が展開していた。
あれが何の魔法のものなのかは分からないけれど不吉で嫌な予感がした。
「くっ、貴様何をするつもりだ!」
すぐさまグルゼイは駆け出した。
「もう遅いですよ」
魔法陣が強く光を放ち、グルゼイは腕で目を覆った。
「…………くそっ!」
光が収まった時にはローブの男とジを含めた数人の子供たちがいなくなっていた。
「グルゼイ!」
リアーネもビクエムを倒して子供たちの方に来た。
子供たちが無事かどうか見回して顔を青くする。
ジがいないことに気づいたのだ。
「おい、起きろ」
「うぅ……何が……一体」
グルゼイは気絶していた老年兵士の男性を起こす。
頭を振って老年兵士の男性は意識をはっきりさせようとする。
「子供たちを頼む。
もう敵は来ないだろう」
「グルゼイさんは何をするつもりですか?」
「他のところに手助けに行く。
もう遅いかもしれないがな」
「グルゼイ、ジはどうするつもりだ!」
まさか弟子より先に他のところを助けに行くなんて思っても見なかった。
リアーネが若干の苛立ちを含めた声を出す。
「見たらわかるだろ、ジはここにはいない。
まずは状況把握が大切だ」
グルゼイも苛立ちや焦りを覚えないわけじゃない。
「それにあいつは俺の弟子だからな」
しかしグルゼイはジならと思う。
ジであるならば何とかしてくれるのではないかと信じている。
まずは目の前の問題を片付けて、いつでも助けに行ける準備をする。
どこでもない遠くを見つめる。
グルゼイが自分に言い聞かせるように言葉を呟いたのを見てリアーネも何も言えなくなった。
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