たまには外に飛び出して8

「今度は数も多いしサッと仕留めたい。


 だから今度はエにも攻撃してもらって素早く倒そうと思う」


 敵が強くなるので回復役も大事だけど素早く仕留めることも大事になる。

 早く仕留めた方が危険が少ないとジは判断した。


 グルゼイとリアーネも付いていてくれるし総攻撃で挑んでも問題はない。


 バレるギリギリを見極めてゆっくりと草むらに隠れながらウルフドッグに近づいていく。

 ウルフドッグの1匹が顔を上げて鼻をヒクヒクと動かす。


 緊張が走り、より体勢を低くして息をひそめる。

 何でもないように顔を下げたウルフドッグはジたちに気づいた様子はない。


 ちゃんと風向きも確認して風上にならないように気もつけているし音でも立てなきゃ気づかれることはない。


「いいか?


 じゃあ1番最初の攻撃は……エ、任せていいか?」


 草も途切れているし距離が近すぎて見つかってしまうので後はもう飛び込んでいくしかない。

 これ以上エに拗ねられても困ってしまうので一番槍をエに任せる。


 回復の役割を果たしてもらう可能性もあるのでまず攻撃してもらって次の行動に備えてもらう意味合いもある。


「オッケ!」


「エが攻撃したらラとウルシュナで素早く接近して戦闘開始だ。


 油断ならない相手だから気をつけろよ」


「おうっ!」


「分かった!」


「リンデランとアユインもフォロー頼むぞ」


「任せてください」


「頑張ります」


 見ているだけのつもりぐらいだったのにいつの間にかガッツリとリーダー的な役割を果たしてしまっている。

 みんな経験不足がゆえにリーダーの役割をうまく果たせそうな人がいない。


 確かラなんかは部隊を率いる副隊長ぐらいまでになっていたので慣れてくれば指示を出しながら戦えるようになるはずだ。


「それじゃあいくぞ、3、2、1……」


「ファイヤーボール!」


 エの杖の先から炎の玉が真っ直ぐに飛んでいく。

 それと同時にラとウルシュナも草むらから飛び出す。


 ジは2人からほんの少しだけ遅れるように後ろに続く。


 気を抜いていたウルフドッグにエの魔法が当たって全身が炎に包まれる。

 仲間がいきなり燃え出したことにウルフドッグに動揺が広がる。


 知能が低い獣系の魔物は特に火に耐性がなく火を恐れる傾向にある。

 仲間が燃えたことと燃えたことによる火がウルフドッグの注目を集める。


 しかしウルフドッグはゴブリンとは一味違う。


「おらっ! ……あれ?」


 動揺しながらもゴブリンのようにただ呆然としているだけではない。

 ウルフドッグは近づいてきたラの大ぶりの一撃をかわした。


 やる気満々なのはいいけれどラは基本を忘れて戦ってしまっている。


「今度こそっ!」


「ギャン!」


 対してウルシュナは日頃からの訓練を感じさせた。

 基本に忠実で素早くコンパクトな剣の振りはしっかりとウルフドッグに当たって片目を鋭く切り裂いた。


「はっ!」


「アイスアロー!」


 アユインが矢を放ち、リンデランも続いて魔法で攻撃する。

 アユインの矢はラの攻撃を避けた直後のウルフドッグの胴体に突き刺さる。


 痛みはあっても致命傷ではない。

 動きに影響がなくて、すぐさまウルフドッグが反撃に出た。


「うっ!」


 飛びついて噛みつこうとするウルフドッグの牙を剣で防ぐラ。


「ラ!」


「ウルシュナ!」


 体勢を崩してウルフドッグに押し倒されたラにウルシュナが気を取られた。

 背中に何本かの氷の矢が刺さりながらも接近してきたウルフドッグがウルシュナに飛びかかっていた。


「ほっ!


 アユイン、エ、ラのフォローを頼む!


 ウルシュナはその目が潰れたウルフドッグにトドメをさすんだ!」


 ウルシュナの服を引っ張って体を入れ替えるとウルフドッグを切り付けるジ。

 試しに魔力を込めないで切ってみたけれどやはり子供の力では深く切れない。


 燃えたウルフドッグはそのまま倒れてしまったので残るウルフドッグは3匹。

 前に出られる3人がそれぞれ1人1匹ウルフドッグを担当すればちょうど良い。


 ジは状況を見極めて指示を飛ばす。


「リンデランはウルシュナの方を先にやるんだ!」


 ウルフドッグならジは1人で相手に出来る。

 周りを気にしつつもジは1人で背中に氷の矢が刺さったウルフドッグと対峙する。


 アユインはジの指示を聞いて矢をつがえてラに覆いかぶさるウルフドッグに向かって放っていた。

 一瞬早くそれに気づいたウルフドッグは矢を避けようとして頭への直撃は避けたけれど足の根元に突き刺さる。


「この、どけ!」


 押さえつける力が弱くなったウルフドッグの腹を蹴り上げる。

 鈍い痛みにウルフドッグがラの上から飛び退いた。


「ファイヤーボール!」


 怯んだウルフドッグの隙を狙ってエが魔法を放った。

 咄嗟に飛び退いたウルフドッグを狙ったけれど若干狙いがズレてしまい、腰の上を通り過ぎていった。


「こんにゃろー!」


 当たりはしなかったけれど火の魔法に怯んだウルフドッグの意識は魔法の方に向いて、動きは完全に止まった。

 素早く立ち上がってウルフドッグに駆け寄ったラは首に剣を振り下ろした。


 体が硬直してしまっているウルフドッグはラの剣をかわすことができず首をズバッと切り裂かれた。

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