たまには外に飛び出して6

「んな落ち込むなって」


「だってぇ……」


 戦いが終わった後ウルシュナは落ち込んでしまっていた。

 ゴブリンを切ることを躊躇ってジに助けられた。


 みんなの足を引っ張ってしまった。

 ジには負けたことがあるけれど他の子には負けないぐらいに剣の腕には自信があったのに体が動かなくなった。


「最初は誰だってあんなもんだって。


 その後の動きも悪くなかったし次頑張れよ」


「うわー、余裕の慰め。


 カッコよく助けたからって上級者ぶんないでよね」


「なんだ、カッコいいとは思ってくれたんだ」


「あっ、いや、それは……カッコよかったよ。


 助けてくれてあんがと……」


 軽く頬を赤くしてウルシュナがジから顔を背ける。

 思ったほど落ち込んでもなさそうだ。


 初めての戦いにみんなはそれぞれ思いがある。


 ウルシュナにとっては苦い初戦となってしまった。

 これをバネにして次を頑張れる子だからもうこんな失態は犯さないはずだ。


「ジさん、私どうでしたか?」


「リンデランは魔法が上達したな。


 今ならただ捕まってるだけじゃ済まなさそうだな」


「えへへっ」


 ただ怯えて何もできないだけだったリンデランは短い間にかなり成長していた。

 魔法はあの時点でも習っていたけれどとても使おうなんて思えないほどだった。


 ジと一緒ならあの時のトレントの男も倒せるのではないかと思うほどに自信を付けていた。

 リンデランはゴブリンも1匹倒したしジに褒めてもらえて嬉しそうにしていた。


 普段の性格から考えると戦いを終えた後の反応が逆のようにも思えた。

 こういったところでも何があるのか分からないのも実戦というものだ。


 それにしても1番意外だったのはアユインだ。

 ゴブリンの死体を見て真っ先に吐いていたのに見事な射撃を見せてくれた。


 まだ子供で力が弱いがためにゴブリン相手でも致命傷に至る攻撃を放つのは厳しそうだけどサポーターとしては十分な立ち回りだった。

 例え弓でもゴブリンの死体を見て吐いたぐらいだから戦いに参加することは出来ないかと思ったのに。


 ただ見た目通りの可憐な少女なだけではなさそうだ。


 名前を聞いただけでアユインの正体は分からない。

 リンデランやウルシュナと仲良く出来るということはそれなりに地位の高い貴族の令嬢なことは予想できる。


 ウルシュナが気さくなのでそこら辺もあまり当てにならないけれど低い地位にある貴族が高い地位にある貴族に近づくのは縦社会のルールがキツイ貴族の中では難しい。

 子供であってもだ。


 ずっと思っているけれどアユインはどこかで見たことがあるような顔をしている。

 記憶力に自信があるジだけど子供の顔から親を思い出すのは簡単ではない。


 おそらく過去の記憶であると思うしチラッとどこかで見ただけの貴族かもしれない。


「私は何もしてないぞ」


「そう怒んなよ。


 次はエに期待してるからさ」


 次の魔物を探しながらエは非常に不満げだった。

 なんせさっきの役回りとしては回復役だから誰か怪我でもしなきゃ大きな活躍の場面はない。


 本職の神官なら味方を魔法で強化するなり出来るのだけどエはまだそこまで習っていないのでただ杖を構えて突っ立っているだけになった。

 リンデランはちゃんと活躍するしジは褒めるしでエは不満たらたらだったのである。


 一応魔法でもエは参加できるから次はエに攻撃してもらおうとジは思った。


 ただ次に見つけたゴブリンは他のグループがやることになった。

 ジのグループばかりやるわけにはいかない。


 同じく3匹のゴブリン相手だったのだけどジのグループほど上手くいかず、前に出過ぎてゴブリンに殴られてケガをする子も出た。

 ケガぐらいするものだけど流石にそのままにしておけずエが治癒魔法で治療してやっていた。


「どうよ、ジ。


 ちゃんとケガも治すことが出来るんだよ」


「うん、早いし傷も綺麗に治ってる。


 ケガしてもエがいてくれたら安心だね」


「ふふん、そうでしょ?


 ケガなんかしないのが1番だけど何かあったらちゃんと治してあげるからね!」


 なんでリンデランもエも自分に感想を求めにくるのだ。

 ちゃんと褒められたことをしているから褒めるけどジは理由が分からなかった。


 1番ちゃんと周りを見ているから褒めてくれそうとかそんなことなのだろうかと首を傾げていた。


「ジ、俺はどうだった!」


「お前のせいでゴブリンにバレた。


 0点、以上」


「評価きびしー!」


「動きは悪くなかったので次回以降に期待です」


「そうか、ならいいや」


 ラもそれを見てジに評価を求めた。

 0点はちょっとした冗談だけどゴブリンを一人で相手取って倒したし良い方だったと思う。


「でも実際魔物を切ったのは初めてだけどなんかこう、切った感触がまだ手に残ってる感じがするよ……」


 魔物であっても生き物。

 それを殺した事実や倒す時に感じる感触、倒した後の死体の光景なんか全ては経験として残る。


 それを受け入れ乗り越えて成長していくのだ。


「もう何体か切りゃ嫌でも慣れるさ」


 魔物は待ってくれない。

 戦っていればそのうちに魔物に対してあまり何も思わなくなってくる。


 それが正しいことなのか分からないけれどいつまでも魔物を切ることに悩んではいられないのが現実だ。

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