たまには外に飛び出して4

 折れた枝とか足跡とかまずは分かりやすい特徴な痕跡を見つけては解説していく。

 ラのような勉強が好きでない感覚派は暇そうにしているがこれは大事なことだ。


 魔物と戦う上で大事なことは常に先手をとり、状況や相手を正しく把握することだとジは思っている。


 冒険者でもなかったけれどその手の話は山ほど聞いてきた。

 酒を飲むと講釈を垂れたくなる冒険者は多かった。


 有利に魔物との戦いに挑むのは当然で奇襲されたり先手を取られないようにすることが冒険者として大事だとみな口を揃えて言った。

 こんな風に基本的な知識を教えてもらったことはないのでジも真面目に話を聞いていた。


 リアーネも当然だよねみたいな顔をして聞いているけど本当に分かっているのか疑わしい。

 

 とりあえず痕跡を辿って森の中を行く。


「静かに」


 先頭を行く老年兵士の男性が手で後ろのみんなを静止する。


「5匹……多いですね」


 少し先に見えるのはゴブリン。

 先日ユディットと狩りにも行ったお馴染みの魔物である。


 ゾロゾロと5匹で徒党を組んで歩いているゴブリンを見てみんな体勢を低くする。


「どうでしょうか、グルゼイさんとリアーネさんにお手本を見せてもらいましょうか」


「おっ、私の出番かい?」


 やっと出番が回ってきてリアーネは手を鳴らす。

 グルゼイは面倒くさそうな表情を見せるが仕事なので割り切って剣を抜く。


「みなさんお2人の戦いを見ていてください。


 参考にするのは難しいと思いますがいつかそうした戦い方もできるように覚えておいてください」


 2人は少し距離を空けてゴブリンに接近する。

 極力音は出さないように気配を殺しながらも素早くゴブリンに近づく。


 グルゼイが音もなく1番後ろにいたゴブリンの首を刎ねる。

 この時点ではまだゴブリンは攻撃されたことに気づいていない。


 次にリアーネの剣がゴブリンの胴を真っ二つに切り裂いた。

 ここでようやくゴブリンも攻撃されていることに気づいた。


 けれどゴブリンは敵がどれぐらいいて、どこから攻撃されているとか何一つ把握できていない。


「こっちだ!」


 声を出しながらリアーネが剣をもう一振り。

 もう1匹のゴブリンが切り倒され、残った2匹のゴブリンの視線が声を出したリアーネに向く。


 訳もわからないけど敵なことは確かなのでゴブリンがリアーネに襲いかかる。


「こっちにもいるぞ」


 先に声を出したリアーネに完全に気を持ってかれてしまった。

 リアーネの方に向かい、背中がガラ空きになったゴブリンをグルゼイが切り捨てる。


 ゴブリンは最後の1匹になったことにも気づかずリアーネを持っていた木の棒で殴りつける。

 リアーネはそれを丁寧に受けると軽くゴブリンを押し返して簡単に胴を薙いでみせた。


「どうでしたか?」


 あっという間の出来事。

 危なげもなくゴブリン5匹を2人で倒してみせた。


「おやおや……」


 予想よりも平気そうな子が多いと老年兵士の男性は思った。

 首だったり胴体だったりを切られて転がるゴブリンの死体は見ていて気持ちのいいものじゃない。


 特にこれまで魔物と無縁だった子供たちにとってこの光景はグロテスクでスッと受け入れるには難しい。

 アカデミーの子たちだろう数人がゴブリンの死体を見て吐いてしまい、頑張って我慢していたアユインもつられるように吐いてしまった。


 ウルシュナやラは不快そうな顔をしながらなんとか吐くのだけは耐えきった。

 リンデランはもっと衝撃的なことを経験したせいなのか光景は気持ち悪いと思っても吐き気を催すほどではなかった。


「平気そうだな?」


「ジこそ」


 ケロッとしているのは魔物を倒したことがあるジとなぜかエも平気そうな顔をしていた。

 なぜかというと大神殿での仕事があったからである。


 大神殿での仕事は意外とスパルタでなかなかな状態の人も見ることがあった。

 ちょっと見たくないような傷の人も時折来たことがあったのでグロテスク耐性がついていたのである。

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