たまには外に飛び出して3

 ラがジの肩を掴む。

 力が入っていてジの顔が痛みにゆがむ。


「お前……まだあそこに住んでんだよな?」


「ラ、痛いぞ……」


「答えろ!」


「住んでるに決まってるだろ。


 他にどこ行くってんだよ」


「じゃあなんであんな子たちと知り合いなんだよ!


 アカデミーってことは貴族だろ!


 俺は毎日毎日イカツイオッサンにしごかれてるってのにお前1人で何いい思いしてんだよ!」


「いい思いなんかしてるか!」


「ぶっ! むぐっ!」


 ラの顔面にフィオスを呼び出して押し付ける。

 息が出来なくてラの手が肩から離れる。


「こちとら毎日生きるのに必死じゃ!」


 いや、もう日常にはだいぶゆとりがあったりしている。


 ただ人が誰のために頑張ってるのか。

 それはジ自身のためであり、ラのためでもある。


 リンデランやウルシュナと会ったのはその副産物でしかない。


 別に貧民を脱した訳ではない。

 リンデランやウルシュナも特別用事がなければジには会うことも難しい相手なのだ。


 確かに知り合いといえば知り合いだけどそれ以上の関係にはなり得ない。

 貴族と貧民の壁がそこには存在するから。


 考えるだけ悲しくなってきた。


「プハッ、死ぬわ!」


「ともあれ知り合いだけど知り合いってだけだよ」


「ふーん……それでその子は?」


「この子は……知らない。


 同じ組の子で今初めて話したんだ」


「その子はね、アユインって言う子だよ」


 そう言えばまだ自己紹介もしていないと困った顔をするジの代わりにウルシュナが答えてくれた。

 どうやら知り合いなようでウルシュナが手を振ると控えめにアユインが手を振り返す。


「友達?」


「うん、アカデミーで知り合って私とリーデとアユインの3人は仲良しなんだ。


 あっ、あんた35じゃん。

 ってことはアユインも……」


「はい、35番です」


 嬉しそうにウルシュナに35の札を見せるアユイン。


「やった!


 知らない奴がいると気まずいだろうなんて思ってたけどこの2人もジの知り合いなら大丈夫そうだね!」


 アユインの手を取り喜び合う。


「ジさん!」


「ど、どうしたリンデラン?」


 グイッと距離を詰めてくるリンデラン。

 ラの視線が冷たい。


「わ、私、魔法の練習頑張りました」


「そうなんだ」


 リンデランは魔力も強く、魔法に対しての才能もあると思う。

 過去では惜しくも若くして亡くなってしまっていたがそうでなければ名の知れた実力者になっていた可能性も高い。


 性格が積極的でないので少し戦いの方面の心配はしていたのだけど何かきっかけがあって魔法を練習しているようだ。


 何回も襲われることがあったし身を守るためだろうとジは思っている。

 真面目なリンデランが真面目に魔法の練習に取り組めば伸びていくのも早い。


 それを自分に報告する意味はわからないけれど。


「だから、ジさんの背中は私に任せてください!」


「おっ、それは心強いな。


 リンデランなら安心して……」


「ちょぉぉっと待ちなさいよ!


 なんでいきなりあんたとジがペアで戦うみたいになってんのよ。

 みんなで協力して戦うし私がジのこと守ってあげるからあんたは引っ込んでなさいよ!」


「神殿でお世話をするのと魔物と戦うのは違いますよ?」


 こんなに2人の仲は悪かっただろうか?

 大神殿で入院中も散々いがみあってたけど何が原因でこんな風に反目しあうのかジには分からず困り顔でウルシュナを見る。


 失敗だった。

 ジと目が合ったウルシュナはニタァと笑ってジの腕に自分の腕を絡ませた。


「そういえばこの間一緒に食べた時に出たデザート、美味しかったね」


 2人に聞こえるようにわざと大きめな声を出す。


 今どうしてそんなことを言う。


「う、ウルシュナ!?」


「はぁ? ちょっとそれどういう……


 なに、腕なんて組んでるのよ!」


「ウシシ……こりゃ面白いな」


 いがみあっていた2人が同じような表情をウルシュナに向ける。


 その様子を見てウルシュナは意地悪く笑い、ジは辟易とした。


 知り合いとかじゃなくても1番問題ありそうだから自分がここに入れられたのかも知れないとジはそう思った。


 ーーーーー


 実はこの教習訓練は2回目である。

 1回目はアカデミー主導で行われたもので今回は1回目と別の子が参加する兵士主導の2回目になる。


 もちろん1回目にも兵士は関わっているし、2回目にもアカデミーは関わっている。


 35番だからといって35組も一気にいるわけではない。

 それでも結構な人数になる。


 なのでそれをさらに分けて兵士やアカデミーの先生が連れて行くことになっている。


 ジの組の引率者は老年の男性兵士。

 ルシウスが信頼を置く兵士のようでウルシュナも顔を知っている人だった。


 補助として付いてきているのがグルゼイとリアーネ。

 知り合い率が高すぎてゲンナリする思いのジであった。


 ルシウス本人は流石に娘の引率として本人が付くわけに行かなかったのか別の組の引率をしている。


 ジたちは町の南側にある森に来ていた。

 浅いところには弱い魔物が多く、初心者が狩りをするには悪くない場所である。


「それではまず魔物を探すことから始めましょうか」


 魔物がいなきゃ何も始まらない。

 森の入り口付近まで来て老年の男性兵士は一度全員の顔を見渡した。


 何が起こるのか分からない程よい緊張感を、ジ以外の子供たちは持っている。

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