たまには外に飛び出して2

 グルゼイを探すとルシウスと話しているのが見えた。

 いつもは着古した同じような服ばかり着ているのに今日ばかりは綺麗な服を着ていて無精髭も剃っている。


 ルシウスが用意したもので綺麗にしているとグルゼイもそれなりに顔形の整っている方であった。


 グルゼイはジの視線に気づくとウインクを返してきた。

 気が利く師匠だろと本人は思ってのことだったけれど変な配慮はやめてほしかった。


 弟子入りする際にした話を覚えていたのもあるしラについては自然とグルゼイの耳にも話が入ってきていた。

 人付き合いの良い人ではないグルゼイだけどジと出会ってだいぶ丸くなった。


 タとケの双子に会ってまたさらに加速するのだけどその双子に会いに割と子供が訪ねてきたりする。

 昔なら邪険にしていたグルゼイも今では子供相手に強く出れなくなっていた。


 ジは過去においても今でも面倒見が良かった。

 なので子供人気がジは高く、ラやエも未だに人気があった。


 家に来る子供はジと住んでいるならと割とフランクな態度でグルゼイに接してラのことも話していた。

 だからルシウスに話して事前に配慮できないか聞いていた。


 ルシウスもリンデランやウルシュナを気を使って同組にしたのでエやラについてももちろん二つ返事で同組にした。


「恋の三角関係か……」


 いやそれ以上の多角形。

 グルゼイの計らいで顔見知りと同じグループになることになったジと目が合っているがその視線の意味気づいていない。


 甘いものと人の恋愛が好きなグルゼイは頑張れとジに思う。

 恋愛は人を強くするというのもグルゼイの持論であった。


「アイツ……」


 初めて師匠のことをアイツと口に出す。

 こんなことする人じゃなかったのに。


 もっと他人には興味なくて関わり合いを持たない人だったのに。


「なんでここにいるのさ!」


「あなたこそどうしてここにいるんですか!」


「えっ、なに、仲悪いの?」


 なかなか人に対して悪い態度を取らないリンデランの初めて見る姿にウルシュナも動揺している。

 声を荒らげる姿など思い返しても記憶にない。


「35番じゃん!」


「本当ですね、足引っ張らないでくださいよ」


「それはこっちのセリフ!」


 見ているだけで前途多難。

 思わずジは天を仰いだ。


「まーまー、一緒に活動するんだから、そーいがみ合わないでよ」


「どうしたんだよ、エ?


 そんな悪い子には見えないけど……」


「うっさい、黙ってて!」


 ラじゃこの2人を止められる気がしない。

 だからといってジが入っていっても状況が好転するとは思えない。


「あの……」


「はい?」

 

 どう声をかけたらいいのか迷っているとジが誰かに声をかけられた。

 振り返ると美しい金色の髪をした少女が立っていた。


 いかにも貴族令嬢といった見た目で幼いのにとても整った顔をしている。

 リンデランは大人しいといった印象を受けるけどこの少女からは気弱といった感じを受ける。


 なんとなくだけどどことなく誰かを思い出す顔をしている。

 どこの誰なのか思い出すことはできないけど。


 ジッと少女はジの札を確認する。

 手にした札と何回か視線を行ったり来たりさせて、最後にジの顔を見る。


「35番……の方でいいのですよね?」

 

 ジの方から見えないがこの少女も35番らしい。

 てっきり知り合いだけで固められているのかと思っていたけどこの少女には見覚えがない。


 貴族っぽいしリンデランやウルシュナの方の関係だろうと思った。


「そうです」


「良かった。


 35番の人が見つからなくて……


 怖い人じゃなくて良かったです」


 ホッと胸を撫で下ろして優しく微笑む少女。

 おっとりとして穏やかな雰囲気がある。


 あまりジの周りにはいないタイプの人であった。


「おーいー、何やってんだぁー!」


「いでででっ!」


 美少女にデレデレするジ(デレデレしてない)を見つけたラがこっそりとジに忍び寄って頭に腕を回す。

 いるならいると早く言ってくれればいいのに何を女の子と話しているのかけしからん。


 ジも多少身長は伸びたけどラの方がデカく、伸び率もラの方が上だった。

 兵士として鍛えられたラの力は強く、ガッチリと頭をホールドされて抜け出せない。


「はなっ、せ!」


「いっ! お前ぇー!」


「うるせえ、お前の力強すぎるんだよ!」


 思いっきりラの足を踏みつける。

 力が緩んだ隙に抜け出すと少女が驚いたように目を見開いていた。


 こんなやりとり貴族では男子もしない。


「ふふっ、仲がいいんですね」


 そしてクスクスと口に手を添えて笑う。


「エとは大違いだな」


「なんだってー?」


「あっ、いやぁ……久しぶりだな」


 思わずポツリとつぶやいた言葉を聞かれてしまった。

 ラが気づいたということはみんなすぐに気づくと気づくべきだった。


「何が大違いだって?」


「ははっ……髪の色かな?」


「ふーん?」


 何が大違いとは口に出してないから大丈夫なはずだけどわざわざ髪色を大違いなんて言うわけもない。

 じっとりとした目で見られてジは乾いた笑いで誤魔化すしかない。


「ジさん、お久しぶりです。


 頭大丈夫ですか?」


 これは別に高等な皮肉を言っているのではない。

 笑顔で挨拶するリンデランはラにヘッドロックされたジを心配してくれているのだ。


 言葉の言い回しが悪いだけで本人に悪気というものはない。


「久しぶり、リンデラン。


 大丈夫だよ」


「私はそんな久しぶりってわけでもないね」


「そうだな、ルシウスによろしく言っといてよ」


「ん、分かった」


 ウルシュナとは先日ルシウスと食事をした時に同席したのでそんなに久々でもない。


「ちょっと待てよ」

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