他力本願4
ただヘギウス家の者が知っているといっても一般使用人はジの家を知らず、知っているのはそれこそヘレンゼールぐらいであった。
誰かに教えて呼びに行かせるとか、ゼレンティガム家に場所教えるとかあったのだけれど双子が気になったヘレンゼールは自分から直接会いに行くことにした。
決してパージヴェルが残した書類仕事が嫌になったわけではない。
役目は終えたはずなのに何故か端に座ってお菓子を食べている。
「今日君たちを呼んだのは頼みがあるからだ」
「断る」
「……返事が早くはないかい?」
「前何させられたか考えてみろ」
ルシウスが念のためといった頼みはガッツリ謀反に巻き込まれた。
絶体絶命のピンチだったし外出制限までかけられた。
やることもないのだ、ルシウスや国から貰った金の使い道もない。
それに今は厄介な頭痛の種を1つかかえている。
自分にジュースも出さない。
「あんなことになったのは謝罪しよう。
けれどもどうしようもないことであっただろう?」
「とりあえず話だけでも聞きましょうよ、師匠」
あまり似ていないと思っていたのだけど困った顔をするとルシウスとウルシュナはちょっと似ている。
それで情に訴えられたつもりもないけどわざわざ呼び出された理由ぐらいは知りたい。
ようやくユディットも貴族の家の雰囲気にも慣れてきたしもう少し経験させてやりたい。
「ありがとう、ジ君。
そう言えば娘が君に会いたがっていたよ」
「ウルシュナがですか?」
「そうだ、よければこの後食事でも共にしないか?」
「分かりました」
「俺は話を聞いてから判断する」
「師匠は誘われてませんよ」
「なんだと!」
「いえいえ、グルゼイも誘ってますよ」
先程イジってくれたお返しに軽い冗談。
話を聞いてからと言う割に食事する気満々だったグルゼイ。
貴族のご飯がタダで食えるのだからこちらは断る理由がないのだ。
「……リアーネとユディットも一緒にいいですか?」
キラキラとした視線をジに向けるリアーネ。
ここで私もいいかと自分で聞かないあたりに頭の良い強かさを感じる。
「わ、私もですか!?」
少し緊張も緩んできたユディットがまた背筋をピンと伸ばす。
「俺の護衛なんだから一緒にいないとだろ?」
「護衛が一緒に食事しちゃダメでは……?」
「そんなもんどっかに書いてあるルールでもないんだから構わないさ。
でしょ、ルシウスさん」
「そうだね、君がよければうちのシェフが腕によりをかけて料理を作ってくれるさ」
「……でも」
「それにユディット君だったかな?
自分の仕える人に恥をかかせてはいけないよ」
「あっ……じゃあ」
ルシウスの助け船。
確かに一線を引くことは大事だけどここはそんなに意地を張ることではない。
ニコリと笑うルシウスに諭されて、ユディットは控えめにうなずいた。
きっと理想の騎士像がユディットの中にあるのだとルシウスは勘づいている。
ただおそらくそれは騎士としての1面からしか見えていないもので騎士にも色々な面がある。
初々しくて良い。
今どきでは新しく入ってくる騎士もしっかりと教育されているのでこんな風に理想の騎士像を追いかけているような様を見られる若者は滅多にいない。
(いい子を従えているな)
本来騎士とはこうあるべきだ。
心から仕えたい相手に仕えて、精一杯を尽くす。
こういった若者は強くなる。
ジが貴族でないので騎士としては見られないかもしれないがユディットが研鑽を続ければ強者として名を馳せるかもしれないとルシウスは思った。
「本題に入ろうか。
君たちに頼みというのはね、近々魔物の討伐と訓練を兼ねて騎士団とアカデミー合同で演習を行うことになったんだ」
「それは立派なことだな」
「そうなんだけど今年は勝手が違ってね。
いつもなら騎士団とアカデミーは合同じゃないんだけど、今年は騎士団にも若い部隊が出来たことと戦争の準備で同行するはずだった騎士やアカデミーの先生も足りなくてね。
だから騎士団の若い部隊とアカデミーの子供たちを合同で訓練することになったんだ。
それに今ある戦力で魔物の数も減らさなきゃいけないなんて事情も絡んでね」
ルシウスはため息をつく。
訓練することはいい。
魔物と戦う経験は子供たちにとっても貴重な時間となる。
若いうちにこうした経験をしないとユディットみたいにそこらで吐いてしまうことになる。
しかしそんな訓練を利用して人手不足となっている魔物の討伐も行ってしまおうというのはリスクが伴う。
訓練で魔物を倒すから討伐も兼ねているといえばそうなのだけど、少数の魔物を狙い効率的に訓練をしていくだけじゃなく積極的に魔物を探して倒していくことになる。
騎士団の子たちならある程度しょうがないと自分を納得させることが出来る。
若くても騎士だ、そうした仕事もこなさなきゃいけない。
けれどもアカデミーの子たちまで参加させるのは違うのではないかとルシウスは思う。
アカデミーを利用しようとする悪い考えじゃなく現場を知らない人間が考えたこと。
タチの悪い無知が故にやることになってしまった合同での訓練である。
アカデミーの子たちは現場の騎士に教えを説いてもらえ、騎士団の子たちはアカデミーの子たちに刺激を受ける。
実際そんな簡単な問題ではないと思うのだがこの合同の訓練は教習訓練と名付けられ、もうアカデミーにも騎士団にも話は通ってしまっていた。
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