他力本願2

 第一にどうやってビッケルンまで行くか。

 戦争地帯を抜けて王弟側の貴族領地に向かうことは自殺行為にも等しい。


 王様側の監視の目もある。

 勝手に戦争地帯に行ったら反逆者扱いされかねない。


 戦争地帯を抜けることは当然に大きな危険を伴う。

 どちら側にも所属していないということはどちらからも攻撃される可能性がある。


 戦争地帯を抜けてビッケルンの領地に着くまでも気は抜けない。

 戦争地帯から離れたビッケルンの領地までをうろちょろしている奴がいたらどう思うか。


 きっと間諜やなんかだと思われる。

 直接戦地で傭兵として志願するならまだしも戦争地帯を離れたところをウロウロしていたら怪しいだろう。


 第ニにどうライフベッセルを探したらいいのか。

 ガムシャラに逃げたウダラックはビッケルンの領地のどこでリッチにされたのか覚えていなかった。


 自分のライフベッセルがあるので近づけば分かるけど相手にも分かるので操られてしまう。

 今も同じ場所にあるとは限らず、隠し施設ならまだ襲撃できても領主であるビッケルンの館なんかに保管されていたら手の出しようもない。


「何してるのー」


「のー!」


 いいアイデアが出てこないで大人たちが頭をひねっているとタとケが部屋に入ってきた。

 タはリアーネに飛びつき、ケはジに飛びつく。


 ほんの少しだけ飛びつかれる準備をしていたグルゼイが悲しい。


「どうした、何かあったか?」


 大人の会話を邪魔するような子たちではない。

 部屋に来たからには何かがあると思った。


「お客さん」


「ホソメのおじちゃん」


「細目のおじちゃん?」


 線の細いおじさんの知り合いなんていただろうか。

 グルゼイやリアーネも心当たりがなさそうだ。


 タとケが警戒心もなくおじちゃんと言うからには2人には知り合いなことは分かる。


 これ以上は良いアイディアも出る気がせず会議も行き詰まってしまったので一度お開きということになった。

 ケをリアーネに任せてジとグルゼイが玄関に向かうとそこにはホソメの人物がいた。


「なるほどな」


「言葉だけじゃ分かりにくいですね」


「何ですか、人の顔見て」


 そこにいたのはヘレンゼールであった。

 確かに細目のおじちゃんである。


 ヘレンゼールはまだ若いのだがタとケから見ればもうおじさんになってしまう。

 ジもわきまえているからいわないけど過去だったらおじさんと呼んでいたと思う。


「また貴族の秘書がこんなところに何の用だ?」


 ヘレンゼールを招き入れる。

 ヘギウス家のパージヴェルの秘書を務めているヘレンゼールは優秀な文官でありこんなところに遊びに来る暇がないはずである。


 パージヴェルがもっとペンを使った仕事が得意ならいいのだけれどそうではないのでヘレンゼールにしわ寄せが来ている。


 なおかつ今は王弟との戦争を控えている。

 まだ直接戦闘は起きていなくてももうすでに兵を集めていて、パージヴェルの性格なら戦場入りしている。


「まあ頼まれましてね」


「誰に何をだ?」


「ある方にあなたたちに頼みがあることを伝えるようにです」


 暇では無いのに、とぶつぶつと文句を言うヘレンゼール。

 少し休憩を入れたかったが貧民街に来たいとは言っていない。


「おじちゃーん!」


「おおっ、相変わらず元気そうですね」


 イスにドサリと座り不満げだったヘレンゼールも双子の前ではパッと笑顔になる。

 結婚に興味もなかったヘレンゼールだけどこんな子供が出来るならしてもいいような気がしてくるのだから不思議なものである。


 細腕に見えるヘレンゼールは飛び掛かってくるタとケを受け止めて片腕につき1人抱きかかえる。

 軽々とタとケを持ち上げている姿に驚くのはジぐらいだった。


 グルゼイはどうして自分には来てくれないのだとヘレンゼールにすら嫉妬をしていた。

 ヘレンゼールはタとケをヘギウス家で預かってくれている間に結構甘やかしていた。


 仕事のために甘いものをよく食べるヘレンゼールはこっそりと双子に甘いものをあげていたりしたのでタとケはヘレンゼールに懐いていた。

 こんな風にタとケを軽々持ち上げることもできたので度々抱っこしてもらっていたりもして、ヘギウス家ではヘレンゼールが双子に落ちたなんて言われていた。


「ほら、これをあげましょう。


 仲良く食べるのですよ」


 貧民街には来たくないけどタとケに会えるのは楽しみだった。

 ヘレンゼールはタとケのために買ってきたお菓子を2人に渡す。


「ありがとう、おじちゃん」


「ありがとう!」


「はーい」


 もはやおじちゃんと言われてもニコニコしている。

 最初はおじちゃんではないですよと言っていたのに。


「……気に入ってるし気に入られてるな」


 予想外の溺愛ぶりにグルゼイも驚いている。

 もっと強かで堅物なイメージだったヘレンゼールの変わり様はパージヴェルですらも驚くものであった。


「それでは本題に入りましょうか」


 タとケがいなくなるとピッと態度が変わるヘレンゼール。

 改めて双子の人に愛され魔力の凄まじさを思い知る。


 グルゼイがヘレンゼールの前に座り、ジもその横の席に着く。

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