他力本願1
「無理だな」
「無理っぽいよな」
「厳しいと思います」
「そうだよなぁ……」
ジは頭を抱えた。
受けなきゃいけない気がしたのでウダラックのお願いを受けた。
ウダラックは約束を守って4人を解放してくれ、家に帰ってきて早速作戦会議が行われることになった。
ジ以外の3人が口々にお願いを遂行することに悲観的な意見を述べる。
お願いの内容とはウダラックを殺すことなのだがリッチを殺すとはそう簡単なことではない。
リッチを殺す方法はとても限られたものである。
大きく2つの方法があるのだがどちらも面倒なものになる。
リッチは魔力で生きている存在であり、そのために魔力がなくならない限りは永遠に生きられる。
魔力の元はライフベッセルと呼ばれる物に封印してあり、基本的にはリッチの活動する場所の近くに隠してある。
これを破壊することがリッチを倒すことである。
もう1つは神聖力を使って無理矢理殺す方法。
聖騎士や聖職者の助けを借りて神聖力を持った攻撃でリッチを攻撃する。
回復には魔力を消費するのでライフベッセルの魔力がなくなるまで攻撃し続ければリッチは最終的に回復することができなくなってやられるのである。
どっちが現実的な戦い方かというと、当然ライフベッセルを探し出す方が現実的である。
リッチを圧倒し続けられるほどの神聖力を持った存在なんてまずいない。
回復して反撃もしてくるリッチに消耗戦を挑むことは単なる自殺行為にも等しい。
その昔強い神聖力を持ち合わせて実力だけで教皇になった人がリッチを正面から捻り潰したなんて話もあるけれどもはや童話のようなものである。
そしてまさしくウダラックのお願いの殺してほしいとはウダラックのライフベッセルを破壊してほしいということであった。
これが問題なのである。
ウダラックにはライフベッセルが2つ存在していた。
1つはウダラック本人が保有して、もう1つは別の場所に。
ウダラックが破壊してほしいライフベッセルは当然別の場所にあるライフベッセルの方である。
「ビッケルン家か……」
「しかし信じられるか、あんな話?」
「信じるしかないだろう。
俺たちを騙して貴族を襲わせて何の得がある?
リッチなら自分で襲った方がはるかに簡単だ」
ライフベッセルは通常1つしかない。
それも当然で人間で言えば心臓のような物で2つ持つことなんてできるはずのない物なのだから。
ウダラックは自らで望んでリッチになったのではない。
他者によって無理矢理リッチにさせられた。
生まれた時はムチムチとして顔立ちが整い、女の子ではないかと周辺で噂が立つ赤ん坊だった。
から始まるウダラックの人生物語は長く、臨場感たっぷり、心理描写たっぷりの一大ストーリーで肝心の内容が分かりにくすぎた。
誠に勝手ながら主要な点を要約するとウダラックはビッケルンという貴族によってリッチにされたのだった。
ビッケルンは人をアンデッドにしてしかもそれを操る技術を持っていた。
ウダラックはリッチにされることは避けられなかったのだが操られることは避けようとウダラックは抵抗を見せた。
リッチを操るにはライフベッセルが必要であったことを聞いたウダラックはライフベッセルをもう1つ作り出すことに成功し、それを持って逃げ出した。
しかしウダラックは感じていた。
ライフベッセルを通してウダラックの精神に干渉をしてきていることを。
ライフベッセルが2つあり、1つが手元にないために不完全な干渉で操られることはないのだが精神はじわじわと蝕まれていた。
近い将来自分は完全に魔物になってしまう。
そう確信したウダラックは焦っていた。
単に魔物として暴れ回るだけでもよろしくない。
ライフベッセルが1つビッケルンの手元にあるのでライフベッセルを破壊してウダラックを倒すことは困難である。
ライフベッセルが離れていて魔力の供給が弱いので弱体化は受けるだろうがリッチはリッチである。
もしウダラックの抱えているライフベッセルが破壊されてしまったらもう終わりだ。
ウダラックはビッケルンに操られたリッチになってしまう。
何をさせられるのか。
させられるがままに道具のように人を殺すのなんて絶対に嫌である。
だからビッケルン家にあるライフベッセルを破壊しなきゃいけないのだがそのためにビッケルン家に行かなきゃいけないのである。
「破壊するとかの前によ、行くことすら無理だろ?」
ビッケルンはちょっとそこらにいる貴族ではない。
今この場にいる人はユディットを除いて外出制限をかけられている。
しかもビッケルンという貴族、ジたちにとって厄介なのである。
西の方に所領を持つ貴族であって、今回の戦争にも直接参加はしていなくても支援をしている。
参戦している陣営は王弟側。
ジたちは別にどちらの側についているものでもないけれど王弟側の貴族のところに出入りするのはまず許された行為ではない。
もちろんここから遠いということもある。
安請け合いしたつもりはない。
でも考えれば考えるほど難しい頼みであった。
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