死者の王5
「いやね、別に話を聞いてくれるならいーのよ。
出て行きたいっていうから提案しただけでね……。
4人全員で聞いてくれるならそれが1番いいかな!」
「チッ……全員で話を聞く。
しかし出来るだけ距離は取らせてもらおう」
非常に渋々ながらウダラックの話を聞くことになった。
ジたちは教会の入り口ドア前まで移動し、ウダラックはその反対側に行って距離を取ることになった。
「聞こえるー?」
「大丈夫だ」
「じゃあ話すねー。
私のことを殺してー!」
「なんだって?」
聞こえなかったわけじゃない。
むしろ聞こえたから理解ができなかったのだ。
「今お前のことを殺せと、そう言ったのか?」
「そうだよ。
私は私のことを殺してもらいたいんだ」
リッチなるのは教会や神殿が禁じる中でもかなり上位の禁忌に当たり、当然リッチは見つかれば最優先討伐対象になる。
倒せるなら倒すべき相手。
殺してくれというなら願ってもない提案。
「理由は?」
リッチになる個人的な理由は様々だがリッチになることで得られるのが不死の体と魔物の持つ大きな魔力。
不死の体を手に入れるのにリッチになったのに殺してくれとはおかしなことを言うリッチである。
出会いからおかしいリッチなのだけど自分を殺してほしいなんて言うのはまともとは言えない。
「私は、自分でリッチになったんじゃないんだ」
衝撃的な導入。
暗い、非常に暗い、貴族の裏の顔の話がウダラックの口から語られた。
ユディットはおろかグルゼイやリアーネも顔をしかめてウダラックの話を聞いていた。
悲しい半生。
けれども重要な部分はそこではない。
「――そして私はニグラ・モンバルティにリッチにされたのさ」
自分の意思ではなく人によってウダラックがリッチにされたというとても信じがたい話。
「このままでは私は望まないことをさせられる。
だから助けてほしいんだ。
私を殺してこの永遠に続く地獄から解放してほしい」
軽く言っているような口調だったのだが重たい内容だった。
「お礼はするよ。
私はこの体を自分でどうにかできないか研究してね。
呪いに関してはエキスパートになったのさ。
リッチになってしまったらもう止められはしないけれど呪いを解く魔道具を作り出したから君たちにあげるよ。
どこかの貴族にでも売ればきっと大金になる」
「……どうしますか、師匠」
これはこれで予想外の展開。
想定していた展開とは全くもって異なってしまい、ジ自身もどうしたらいいのか分からない。
「お前はどうしたい?」
逆にジに聞き返すグルゼイ。
冗談、な雰囲気ではない。
グルゼイは思う。ジは不思議な子だと。
大人にも負けない思慮深さを持ち合わせながら何も知らない子供のように鍛錬に必死に挑んでみるみる間に吸収していく。
謀反の時も隠し通路やその戦いの中での咄嗟の機転など自分には見えていない何かを見ている気がしてしょうがないのだ。
ただそれが悪い何かを見てるのではない。
今回のこともジが墓参りに来たいと言わなきゃ遭遇することもなかっただろう。
判断が下せないというならそれでもいい。
ジがどう考えるのかグルゼイは知りたくなった。
「私もお前の判断なら従うぞ?」
「私もです、ジさん」
困ったようにリアーネとユディットを見るがユディットは当然ジに従うといった態度で、リアーネは面白そうといった目をしている。
この場にいる誰よりも年下のジが決して簡単ではない判断を任された。
1つは断ること。
簡単な話だ。
リッチなんて手に負えませんと言ってしまえばいい。
貴族の裏の顔に首を突っ込むこともない。
人を殺すつもりはなさそうで理性的に動いているのでまず命は助かるだろう。
もしこのまま解放されるなら大神殿に報告してしまえばきっとウダラックは聖騎士に討伐される。
逃げおおせる可能性はあるけれどこの先に考えられる悲劇は1つ減らせる可能性がある。
もう1つはお願いを受けること。
この選択肢を取るとどうなるのか、誰にも分からない。
そもそもこんな出会い方もすると思っていないのだからもうジの知っている流れとは異なっている。
話を聞いている限り一筋縄ではいかないお願い。
命の危険に晒される可能性も大きい。
「俺は…………」
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