死者の王2

「ユディットは実力はいいが慣れが必要だな。


 ジは問題ないから次の段階に進んでもいいな」


 依頼の数のゴブリンを倒してグルゼイが軽く総評をまとめる。

 ゴブリン程度ならジもユディットも遅れを取ることはない。


 ユディットはもっと魔物に慣れてくればそれなりに動けるようになるだろう。


「今日はあっさりとゴブリンが見つかったから時間があるな。


 これぐらいにして早めに終わらせるか」


「師匠、なら1つお願い、いいですか?」


「んっ? なんだ?」


「行きたいところがあります」


 ーーーーー


 ジが行きたい場所とは町の郊外にある墓地であった。

 町を囲む城壁の外にあって、今はほとんど人も来ることがない忘れられた墓地である。


 ちょっと遠いところにあるので段々と利用者がいなくなって今ではすっかり寂れてしまっている。

 まず子供が1人で行く場所ではない。


 こんなところに墓地があったのかとグルゼイは思う。

 墓を見参りにくる知り合いもいないので墓地がどこにあるのかも知りもしなかった。


 気づかないほどの緩やかな丘の上にあって晴れやかで雰囲気は良い。


「ここに誰が眠っているんだ?」


 墓地に来るのに単純に遊びにきたなんてことはない。

 特別な用事があるのでなければ墓参りにきたと考えるのが自然。


 となると何で来たか問うよりも誰の墓参りに来たかを問う方が普通である。


 妥当なところでいえばジの両親。

 孤児であるから両親はいないのでどこかにお墓があるのは当然に考えられる話だ。


「おじいさんがここの共同墓地に眠っています」


「おじいさん……お前の祖父が?」


「おじいさんといっても俺の本当のおじいさんではありません。


 俺を拾って育ててくれた、今住んでいる家に住んでいたおじいさんです」


 ウソだ。

 全部が全部ウソではなくて、おじいさんと呼ぶジを育ててくれた老人はいた。


 ジが住んでいる家にいたのだが、そのおじいさんは今はいないことは間違いない。

 しかしおじいさんはここの墓地の共同墓地になんかはいないのである。


 なら本物のおじいさんは、と聞かれるとジは知らない。

 いつだったか、あの家をやると言っていきなりいなくなってしまったのだ。


 年端もいかない子供に家だけ押し付けて消えてしまった。

 誰も行方を知らずおじいさんは他に親しい人もいなかったのでジは探すことも諦めた。


 そのタイミングでおじいさんに入れ替わるようにラが来たのであった。

 

 ジを拾った時点で相当高齢だったし、もしかしたら共同墓地にいるなんて可能性もなくはないがいても目的はおじいさんではない。


「そうか……」


 名も知らぬ人が入る墓にとりあえず頭を下げる。


 ジの目的が誰かの墓参りでないなら何であるのか。

 問題はそこである。


 来たはいいけど目的までどうやってみんなを誘導したらいいのだろうかとジは墓に頭を下げながら考えた。

 けれども目的を果たすには目的を正直に打ち明ける他に方法が思いつかない。


「……死のにおいがする」


「死のにおいだと?


 ここは墓地なんだから当然の話だろ?」


 不自然でも無理矢理連れていくしかないと思っていたらリアーネが怪訝そうな顔をして呟いた。


 グルゼイがリアーネの言葉を聞いて不思議そうな顔をする。

 死のにおいなるものが何なのかグルゼイには理解できないが墓地は死者の集まる場所なので死に関する気配があっても不思議なことではない。


「違うんだ……何つーか、アンデッドが近くにいる。

 そんなにおいがするってーか……」


 これは驚いた。


「何を言って……」


 昼間の墓地。

 アンデッドが出そうな場所にも思えるのだがちゃんとした墓地ほどアンデッドと無縁な場所はない。


 本当は墓地なんてアンデッドが出てもおかしくない場所なのだがそのために墓地の管理は教会や神殿などの聖職者が行う。

 だから墓地には神聖力が漂っているし異変があれば聖職者が飛んでくる。


 墓地は死者にとって安らかに眠れる地でアンデッドなんかいるはずがない。


「でもここ誰かが管理しているようには見えないですね……」


 良いところにユディットが気づいた。

 この墓地はぱっと見開放感があって綺麗なのだけれどよく見ると草は生え放題で墓石には劣化が見え始めているものもある。


 全員の視線が近くに立つ教会に向く。

 この時間なら教会のドアが開いていてもおかしくはないのに閉め切られ、人の気配がない


 壁には蔦が伸びていて窓は汚れなのか曇っていて中は暗く見えている。


 1度目につき出すと不自然なところや違和感が続々と気になってくる。


「ケフべロス」


 リアーネが魔獣であるヘルハウンドを呼び出す。

 アンデッドではないがアンデッドに近い魔物。


 リアーネが死のにおいを感じたのも魔獣であるヘルハウンドの影響である。

 リアーネとケフべロスの親和性が高く両者の絆が深いのだろう、ヘルハウンドの死を感じる能力の一部がリアーネにも感じられている。


 もしくは本当にリアーネが嗅覚的に優れていて、死のにおいという何かの香りを感じることができるかだ。


 呼び出されたケフべロスは教会の方を向いて低く唸る。

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