謀反1
2日後、ルシウスが護衛する国王様がキャスパン城に到着した。
国王様は善政を行なっているので国民の評判が良くこのような田舎町でも歓迎されている。
国王を迎え入れるために開かれたキャスパン城の門が閉ざされて宴が始まった。
何かが起こるならこのタイミング。
裏部隊のみんなは借りた家でひっそりと時を待つ。
そんな時が来なきゃいいのにと思いながらそれぞれ集中力を保つ。
「お前は偉いな」
そんな中で武器の手入れをしながらリアーネがジに笑いかける。
町中は人で溢れかえっている。
王弟がお金を出して人を呼び、町には屋台などが立ち並んでいる。
宿に泊められる人数は遥かに超えているので町の外は今テントなどが多く設置されている。
非常に明るい雰囲気。
それとは裏腹に待機場所である家の中はピリついていて重たい雰囲気。
子供なら外のお祭り状態を見にいきたいとだだをこねるか、大の大人たちが険しい表情をする空気に耐えられないものだ。
それなのにジは平然としてリアーネと同じく武器の手入れをしている。
落ち着いていて外への興味もあまり示さない。
出来すぎなぐらいで心の底からジを称賛する。
リアーネはジを目にかけてくれている。
非常にむず痒くどうリアクションしてよいのか困ってしまう。
「ははっ、そう緊張しなくてもそうそう問題なんて……」
問題なんて起こるはずがない。
笑い飛ばそうとしたリアーネの後ろで空に火の玉が上がって破裂する。
道ゆく人々は花火かな?なんて思って空を見上げるが続いて火の玉は上がらない。
家にいたみんなに緊張が走り、顔つきが変わる。
「皆さん、何かが起きたようです」
「どうするんだ?」
「リアーネさんやグルゼイさんなどは私と共に、事前にお伝えしていた人はそのまま行動に移ってください」
3人ほどがジラムの指示に従って家を出て行く。
彼らは戦闘要員ではなく諜報要員。
残りは武器を持って立ち上がる。
「まずは門の見えるところに行きましょう」
わずかに声色に焦りの見えるジラムについて町中を移動する。
人々は何かが起きているなんて思わない。
喧騒の最中を抜けながら丘上に見える城には異常があるようには見えていない。
歩いていると城の見える角度が変わって来て門が見えてくる。
固く閉ざされた門。なんの変哲もなく見えるあの中でなにが起きているのか。
「これは……マズイですね」
城の一部が爆発して黒い煙が上がる。
城の上に弓を持った人が現れ始め、人々も異変に気づく。
何があったのかと城に近づこうした人が弓で射られる。
警告もなしで最初から当てに行った弓は肩に当たったが死んではいないようで這うようにして城から離れていく。
「ジラムさん」
先に出た諜報要員の1人が戻ってくる。
「ここに兵士が迫って来ているようです。
旗印は王弟の物でした」
「くっ……」
恐れていた事態が現実になった。
「城に接近する方法は?」
「ご覧の通りです。
近づくことはできません」
「分かった。
お前はバレないよう馬を走らせて知らせるんだ」
「はっ!」
諜報要員が走り去る。
「これからどうするつもりだ?」
打つ手がないように思われる。
「元々この裏部隊に過度な期待は置かれておりません。
急拵えで大きな人数も用意できないのでその場その場で対応していくしかありません。
今はこの町を脱出しましょう。
おそらく近く、兵士に包囲されるはずです」
ジたちはまた移動を開始する。
しかしどこへ行こうというのか、とりあえず歩き出したジラムにみんなついていくが目的地も口にしない。
「あの、ジラムさん」
「なんですか?」
あまり目立って首を突っ込むのはダメだと分かりつつもここまできて放ってもおけない。
「ここらの子供と遊んだ時に教えてもらったんですけど、キャスパン城に繋がる隠し通路の入り口が近くにあるみたいです」
「なに! それは本当か!」
「痛いです……」
興奮したようなジラムに肩を強く掴まれてジが顔を歪ませる。
「おっと子供相手に大人げないぞ」
「……申し訳ございません」
リアーネがジラムを引き剥がしてくれたが食い込んだ指の痛みはもう少し残りそう。
「それでその話は本当なのか?」
グルゼイがジに聞く。
こんな時に嘘をつく子ではないと分かっているけれど周りの冒険者たちは疑いの眼差しをジに向けている。
リアーネがジを守るように前に立つ。
「行ってみましょう。
中にまでは入っていないので本当に城に繋がっているかは知りませんけれど入り口は見ました」
「そうだな。
どうせ他にあてはない。
見に行っても構わない、だろ?」
グルゼイがジラムを見る。
この町から脱して移動するつもりだが多少寄り道してもすぐに兵士に包囲されることもないだろう。
「行ってみますか」
「その隠し通路とやらはどこにあるんだ?」
「少し前に師匠といった監視塔跡のところです」
「あんなところに……」
「いえ、おかしな話ではないでしょう。
キャスパン城は元々防衛のために作られた城で見晴らしがいい。
なのにわざわざ監視塔を設けた理由があったはずです」
監視塔を建てた目的が隠し通路の出入り口のカモフラージュ。
もう関係者や城を建てた職人はいないので確かめようもない話なのだけれど、他にも例がある話なので否定はできない。
「急いで行きましょう」
この選択が正しかったのかジには分からない。
なるようにしかならないけどジは自分が探し出した隠し通路の出入り口にみんなを案内することになった。
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