嵐の前2

 こんな風に大人の女性に頭を撫でられる経験がなかったので照れてしまう。


「あ、ありがとう」


「なんだ、照れてるのか。

 可愛いな〜!」


 リアーネは照れるジを見て気分を良くしている。

 子供好きなのに体が大きく威圧感のあるリアーネは近づくと泣かれてしまったり逃げられたりするのであまり子供に近づかないようにしてきた。


 綺麗なお姉さんと言われて、自分に撫でられて照れている少年がどうしようもなく可愛く思えてきた。


「つまらなそうな仕事だと思ったけど悪くないな!」


 笑いながらリアーネは階段を上がって自分に割り当てられた部屋に行ってしまった。


「ふっ、お前は女性にモテるようだな?」


「やめてくださいよ、師匠」


「強い冒険者というのはどいつもこいつも癖が強い。


 あのリアーネという冒険者も中々の実力者だろうな。

 別に癖が強いと言いたいんじゃなく立ち振る舞いやなんかで判断したんだがな」


「申し訳ございません。


 ルシウス様の指示で手練れの冒険者を集めたのですが素直にいうことを聞く人たちばかりでなく……」


 ジラムが申し訳なさそうに頭を下げるが別にジラムのせいではない。

 時間もないし強い冒険者を優先して雇えば自然とこんなことになるのは分かっていた。


 ジやグルゼイもこれしきのことで気分は悪くしない。


 他にも何人か冒険者が来て、ジやグルゼイを含めて10人ほどが裏部隊として待機することになった。


「師匠、もうちょっと外で歩いてもいいですか?」


「魔物の心配もなさそうだし大丈夫だろうから好きにしなさい。


 何もないからと言って警戒は怠るなよ」


「はい、分かりました」


 ジは家を出て先ほど見た監視塔跡に行く。


 正確には監視塔跡の横にある廃墟に来ていた。


「ええと……」


 キョロキョロと周りを見回して誰もいないことを確認する。


「どこにあるのかな……?」


 ジは足で地面を叩くようにしながら家があったと思わしきところを歩く。

 すっかり草が生えてしまって分かりにくいけれど意識すると草の下に床板があることが分かる。


 コンコンと鳴る床板の音に気をつけてグルグルと歩き回る。


「ここ……かな?」


 特別聴覚に優れたわけでもないので同じことを何回か繰り返してようやく見つけた。

 ほんのちょっとだけ足で叩いた時に音が違う場所。


「フィオス、お願い」


 フィオスを魔石から召喚する。

 邪魔になるものでもないが旅先では何が起こるか分からないので魔石になってもらっていた。


 軽く撫でた後フィオスを地面に置く。

 フィオスが地面の草を溶かしながら転がっていく。


 床板があらわになる。


「んん?」


 四つん這いになって床をよく見る。

 かなり分かりにくいけれど床板に細い切れ目がある。


 床板と床板の間ではないところにある不自然な隙間。


 目を凝らしてそのあたりの床を調べると指先が差し込めそうなくぼみがあった。


「うっ……」


 くぼみに手を入れて力を入れて引き上げようとするけれど全く持ち上がらない。


「原因はこれかな」


 くぼみから2歩ほど行ったところに家の柱が倒れている。

 子供の力では動かせない。


 フィオスに少し負担がかかるけど仕方ない。

 柱をフィオスに溶かしてもらう。


 どこまで柱が邪魔しているのか分からないので大きめに真ん中ら辺を溶かしてもらい、再チャレンジする。


「ふっ、ぐっ……!」


 ギギッと軋む音こそするものの全く動かない。


「くぅ……柱のせいじゃなくて古くなってるからダメなのか」


 手を差し込むくぼみもちょっとだけなので力も入りにくい。

 確か内側からでも破壊して開けていた気がする。


「もっかい頼む、フィオス!」


 不自然にはなってしまうけれどこの際時間もないし文句も言ってられない。

 くぼみのところにフィオスが向かいペタッと少し床に広がるようにくっつく。


 じわじわと床が溶けていき、やがて丸い穴ができる。

 床の下は地面ではなく暗い空間が広がっている。


 やっぱりか。


 そのまま穴を広げるようにフィオスに溶かしてもらって、ある程度穴を広げてもらう。

 広げた穴に手をかけて引っ張り開けようとしたけれど開かない。


 今度は切れ目を中心に縁を溶かしてもらう。


 半分ぐらい溶かしてもらったところで三度目の正直。


「今度こそ!」


 ゆっくりと持ち上がる床板。

 手を滑らさないように気をつけながら少しずつズラしていく。


 じっとりと汗をかきながらようやく外すことができた。

 キャスパン城の秘密通路に繋がる通路の出口がどれほどぶりぐらいだろうか、開かれた。


 中を覗き込むけれど日の光が当たっているところ以外は見えない。

 石造りの通路のようだ。


「ふう……」


 汗を拭う。

 気がつけば日も傾いてきたし帰らなきゃいけない。


 こんなところにある穴を誰かが見つけるとは思いにくいけど、見つけられたり落ちて怪我でもしたら大変だ。


 朽ちかけたテーブルを移動させて穴を隠す。

 移動させる途中でテーブルの足が折れてしまったがそのおかげで上手く隠せたと思う。


「遅かったな」


「ここらの子かな? と仲良くなりまして」


 少しばかり遅くなってしまったので帰る道すがら言い訳を考えておいた。


「そうか」


 少し帰ってくるのが遅いかと思うだけで特に何か問題があったわけでもない。

 グルゼイはそれ以外ジに追及してはこなかった。

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