両手に花を抱えて3
「………………分かった」
渋々、ウルシュナはうなずいた。
他でもない親友を救ってくれた相手からのお願いなのだから1度だけ聞いてやろう。
きっとこんなことを伝えたらまた怒られるだろうな。
また変な友達を作ってと。
「ありがとう。
今は分からないかもしれないが、きっと後々俺に感謝するさ」
図面を畳んでウルシュナに渡す。
これで変化が訪れる可能性はまだ低いけど希望はある。
「告白……じゃなかったんですね」
「だからそう言ってるだろ?」
この期に及んで何を言っているのか。
最初から告白ではないと何度も言っている。
ホッとしたようなリンデランがどうしてそんなに告白にこだわるのかジは分からない。
「お嬢様!」
用は済んだしさっさと2人を家に帰して自分も帰ろう。
そう思ってウルシュナに帰るように提案しようとした時、護衛の1人が慌てた様子でこちらに来るのが見えた。
「どうしたの、ペクト?」
「襲撃でございます!」
ウルシュナの前に跪き、ウルシュナに報告する。
「早くお逃げください」
「分かったわ。
2人とも、行こう」
リンデランはともかく自分は関係ないのではないかとジは思ったけれどそんなこと言って1人離れていける雰囲気ではない。
護衛の先導で貴族街の方に向かう。
平民を巻き込むわけにいかないので人通りのある方には行かない。
前をペクトと呼ばれた護衛が、後ろをもう1人の護衛が守り、3人を挟み込むようにして移動する。
ペクトから焦りが感じられる。
何か状況が良くないのかもしれない。
「巻き込んじゃってごめんね」
「ううん、私が目的かもしれないし、分からないよ」
少なくとも目的は自分ではない。
これだけはジは自信を持って言える。
「敵は何者ですか?」
「分かりません。
いきなり何名か刺されまして、そのまま戦闘になりました」
まずは状況の把握と思うがペクトも状況を把握できていない。
目的はリンデランか、ウルシュナか、はたまた両方か。
ウルシュナが突発的に外出したのだから計画されていたなんてこともないと思うけど、こういうことをするウルシュナの性格を読んだ上で待ち伏せでもしていたのか。
そもそもリンデランのところに行くことが漏れていたのか。
「何者だ!」
ペクトが止まる。前方に怪しい人影。
「あれは……」
1人ジだけが相手を見て驚愕した。
目元まで覆う白いヘルムを身につけた鎧の男性。
抜き身の剣を手に持って青い瞳でターゲットを確認する。
「道を開けてもらおう!」
後ろを守っていた護衛が飛び出した。
「ダメだ!」
遅かった。いや相手が早かった。
「フィオス!」
「うぎゃっ!」
「わっ!」
ジはフィオスを後ろに投げつけた。
横に広がったフィオスがリンデランとウルシュナの顔に張り付く。
ずしゃりと音を立てて護衛の上半身が地面に落ちる。
子供には刺激の強すぎる光景。
「セーラン!」
ペクトが魔獣を呼ぶ。
大きな2本のツノが生えた牡牛。
セーランが足を地面に打ち鳴らすと男との間に石の壁がせり上がる。
「私が時間を稼ぎますのでお嬢様方はお逃げくださ……」
「どこへ行く?」
石の壁も時間稼ぎにならない。
男はいとも簡単に壁を切り裂く。
「アースニードル!」
ペクトがすぐさま次の魔法を使う。
地面から岩のトゲが突き出て男に襲いかかる。
「ムダだ」
振るう剣すら見えない。
その場から動くこともなくアースニードルを全て切り裂いて防いでしまった。
「クッ……」
「邪魔をするな」
「ファイヤーボール!」
次の瞬間ペクトの前に瞬間移動するように現れた男にジは魔法を、放たなかった。
男は横からの魔法に警戒して体をジの方に向けたがジは何もせずただ立っているだけ。
そんな攻撃魔法使えるほど魔力なんてございません。
「貴様……ぬっ!」
振り返るとただ子供が立っているだけ。
確かに魔法の詠唱が聞こえたのに何も起きていない。
魔法がきたら対処すれば良いが何も来ないなら対処のしようもない。
動きは早くても思考の処理能力は所詮は人間。
騙されたと思い至った瞬間セーランが男に体当たりをかました。
「今のうちに早く!」
「ぷはぁっ! 死ぬかと思った!」
「2人とも行くぞ!」
ちょうどフィオスを顔から外した2人の手を引っ張って逃げる。
申し訳ないがペクトという護衛もそう長くは持たない。
ジには今回の襲撃の犯人が誰なのか予想がついていた。
予想通りの相手なら人通りの多いところに出れば安易には襲撃してこない。
効果はないと分かりつつもムダな足掻き。
道中にある物を道にばら撒いたり倒したりする。
「ねえ、どこに逃げるの?」
「さっきの出店通りに行くぞ!」
「ヒィ、ちょっと待ってください……」
ウルシュナはまだまだ体力がありそうだが生粋の箱入り娘のリンデランはもう息切れを起こしている。
「あと少しだから早く!」
後1本路地を行って曲がれば人通りがある。
「逃がさないよ」
光がジたちの上を通り過ぎていった。
道の先に男が立っている。
男の剣先からは血が滴り、今さっき何かを切ってきたことが分かる。
「よく騙してくれたな。
頭の回る子供だ」
男はジのことを誉めた。
攻撃されたことによる怒りよりも咄嗟にあんな判断が出来たことに驚いた。
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