両手に花を抱えて2
ウルシュナに連れられて、貴族街を抜けて平民街。
一年中で店が立ち並ぶ出店通りにやってきた。
「ほい」
1本を口に咥えて、両手に1本ずつもってジとリンデランにそれぞれ差し出す。
「はやふふけとってひょ。たれひゃうでしょ」
咥えたままなのでちゃんと喋れていない。
ジとリンデランは一度顔を見合わせてジが串を1本受け取る。
リンデランもそれを見ておずおずと串焼きを手に取る。
「それでね、私がどうしてリンデランをリーデって呼ぶのかっていうと、小さい頃どうしてもリンデランの名前をうまく発音出来なくてリーデラーリーデラーって呼んでたの。
今ではちゃんと呼べるんだけどずっとリンデランのことをリーデって呼んでたから今でもリーデって呼んでるんだ」
通りに設置されているベンチに腰掛けて串を食べながらウルシュナはリンデランとのことを話してくれる。
目的外の行動だけど不快でもないので付き合う。
なんだか食べ物もくれるし。
なんでリンデランが誘拐されるようなところに出かけていたのかわかる気がした。
ウルシュナの影響が絶対にあるに違いない。
なんだかんだとウロウロと店を回って色々と食べていく。
とは言っても子供なのでそれほど量は食べられない。
「はぁ〜お腹いっぱい」
「私もです」
と言いながら2人はデザートに甘い物を食べている。
歩き回っていると分かるがウルシュナの護衛なのか、リンデランの護衛なのかずっとついて回っている人がいる。
手慣れている感じがするのでウルシュナの方の護衛だろう。
ニコニコとする2人は幸せそう。
美少女2人と華やかさがすごいので周りの目を引いているが2人は気にする様子もない。
「そう言えば私に何か話があるんだっけ?」
ペロリと指を舐めながら思い出したようにウルシュナがジの方を向く。
「ああ、そうなんだけど……」
「ああー、ここじゃ人が多いかな?」
またしても少しリンデランがムッとした顔をし出す。
「じゃああっち行こ!」
ウルシュナに付いていくとそこは真ん中に噴水のある広場。
少し早めの昼を取って、今がちょうど昼の時間なので休んでいる人も少ない。
「それで、話って?」
平然として見えるウルシュナだけど少しだけドキドキしていた。
告白されることもあったけどどいつもこいつも高飛車に付き合ってやるみたいな奴か花束にメッセージカードを添えて直接伝える勇気もない奴しかいない。
自分に恋してる目つきには見えないけれどこんな風に呼び出されて、告白されるなんてこともなかったのでちょっぴり期待していた。
ただ告白されても断るつもりではあった。
何処の馬の骨か分からない男より親友の方が大事である。
リンデランも気配を消してことの成り行きを見守っている。
「お願いが1つあるんだ」
「お願い?」
予想していなかった言葉。
ウルシュナは首を傾げる。
「これを見てほしい」
ジは懐から1枚の紙を取り出して広げて見せた。
「何これ?」
ウルシュナか不思議そうな顔をしたのでリンデランもそれを覗き込む。
ラブレターにしては紙が大きすぎる。
何なのか理解するには2人はまだ幼すぎる。
「これはキャスパンという城の図面だ」
「お城?」
「いきなり何それ?
お城あげるから結婚してください、とか?」
2人の頭にハテナマークが浮かぶ。
お城の図面を見せられて一体どうしろというのか。
全く予想だにしていない話の展開に理解が追いつかない。
「ウルシュナは父親が好きか?」
「えっ? まあ、好きだけど……」
ウルシュナの父親であるルシウスはソードマスターであり、この国の守護者と呼ばれる。
実際の戦力になるだけでなく、精神的支柱の役割も果たしている。
まだまだ戦える年で過去でも子煩悩で愛妻家、家族のために国を守っているなんて話も聞こえてくるほどの人であったと聞いたことがあった。
家族もそんな父親のことが大好きであったとも聞いた。
そんな話をジが聞いた時にはルシウスはこの世の人ではなかったのだが。
近い将来この国は守護者を失う。
国王を守り奮戦した結果、ルシウスは帰らぬ人となってしまう出来事が起きるのだ。
この出来事が与えた後々の影響は大きい。
「きっと信じられない話かもしれないけれどこの話を君の父親にしてほしいんだ」
少し照れたように父親が好きと答えるウルシュナにしたいお願い。
「ここ。赤い印を付けておいたところ。
壁が古くなってひび割れているはずのところの下に隠し通路がある。
これをルシウス様に伝えてほしい」
ジは地図のある場所を指差す。
そこは赤く丸で囲ってある。
「……?」
怪訝そうな顔をするウルシュナ。
なんて言ったらいいのか言葉が見つからない。
父親に会わせてほしいなんてお願いも時々ある。
騎士の中でも憧れの存在でもあって一目お目にかかりたい人もごまんと居る。
父親の話が出た時点でそんな話かと思ったのにどうにも目的が理解できない。
「事情は話せない。
ただこの赤丸のところに隠し通路があるってことを伝えてくれればいいんだ」
「そんな話をいきなりお父様にできるわけないでしょ?
……言ってあげてもいいけど訳を話してもらえる?」
「ウルシュナには分からなくてもキャスパンの地図だと言えば嫌でも耳を傾けると思う」
「訳わかんない……」
すまないが何も説明できないんだ。
心の中でウルシュナに謝る。
説明してもいいが証拠も出せないのでただの頭のおかしい奴になる。
今でも相当おかしい奴だがまだおかしい度合いが低いので話を聞いてもらえる。
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