両手に花を抱えて1

 人生2度目だろうと分からないものは分からない。

 その代表は女心である。


 ジはリンデランに招かれてヘギウス家の邸宅にお邪魔していた。

 天気が良いからと綺麗な花が咲く庭園を前に丸い真っ白なテーブルの上にお茶とお菓子が並んでいる。


 せっかくのお茶とお菓子なのだがジにはその味が感じられないでいた。

 なぜなら隣に座るリンデランの機嫌がすこぶる悪いから。


 何が原因なのか、思い返してみてもジには思い当たる節がなく訳がわからない。

 こうして家に招かれることになったのはリンデランにあるお願いをしたからである。


 快く引き受けてもらえる簡単なお願いだと思ったのにどうにもリンデランの機嫌が悪くなった。

 お願い自体は聞いてくれたもののムスッとした顔をして優雅にお茶を飲んでいる。


 それに加えて窓からずっと監視するように見下ろしているパージヴェルもまた落ち着かない原因の1つである。

 いつまで見てるつもりだと思ったらいつまでも見てる。


 仕事があるのか後ろから声をかけられている様子も見えるのに視線を外そうともしない。


「どうしてウルシュナに会いたいんですか?」


 やや強めにカップを置いてリンデランが口を開く。


「だからちょっと物を渡して話をしたいだけだって……」


「渡したい物って何ですか? ラブレターですか?」


「違うって……」


「お嬢様、ウルシュナ様が来られました」


 してもないことを白状してしまいそうな雰囲気の中、メイドが1人の少女を連れてきた。

 助かったと思った。


「リーデ、久しぶりー!

 元気でよかったよ。


 まあ入院してたんだから元気ってわけじゃないかもだけど、でも今は元気そうでよかった!」


 満開の笑みでリンデランに抱きつくこの少女はウルシュナ。

 ゼレンティガム家のご令嬢でヘギウス家と並び立つ4大貴族の1人、ルシウス・ゼレンティガムの娘である。


 リンデランが白ならウルシュナは黒。

 いかにも貴族っぽく透き通るような清純感があり髪色も真っ白であるリンデラン。


 ウルシュナは元々地黒なこともあるが浅く日焼けをしていて髪や瞳が黒いこともあってリンデランと並ぶと余計に対照的である。

 瞳は真っ黒というよりも暗い茶色っぽくはあるがどの道貴族としては珍しい感じであり健康的で好感が持てる。


 方向性というかタイプの違う2人だがどちらも美少女という言葉で形容して然るべき容姿はしている。


 過去にリンデランはいなかったのでこんな話はなく、貴族間の話だったのでジが知りもしないことなのだがリンデランやウルシュナはもう1人を含めてこの国における3大美少女と呼ばれていた。

 三花なんても言われていたりこの2人は実は貴族の間では有名であった。


 そして元々武の家門であったゼレンティガム家と戦争で名を上げたヘギウス家は同じ戦争でも共に戦い、家同士の付き合いがあった。

 リンデランとウルシュナは同い年なこともあって幼い頃から交流もあって仲が良かった。


 それを知ったジはウルシュナに会わせてくれるようにリンデランに頼んだのであった。


 ムッとしていたリンデランも親友に会えて笑顔になる。

 久々に会えたウルシュナの抱擁に応じるとウルシュナはリンデランが苦しくなるほど抱きしめる。


 仲の良さそうな2人を見ているとラやエを思い出す。

 なんだか急に親友に会いたくなったジであった。


「苦しいよ〜」


 苦しいとは言いつつリンデランは自分の友人の中で唯一遠慮のない付き合いができる親友にニコニコしている。


「相変わらずいい匂いしてるねぇ」


「もう、おじさんくさいよ」


 キャッキャッと笑い合う。

 リンデランのプレッシャーから解放されてようやくジはお菓子の美味しさを感じ始めた。


 こんなお菓子食べる機会この先もあるか分からないのでどうせならと腹に詰め込んでおく。


「これが噂の?」


「噂のってなんだ?」


「会いたいって手紙が来た時に君のことを書いててね。


 なんて書いてあったかと言うと……」


「わーわー! ウーちゃんにジ君が会いたいって言ってたって書いただけだよ!」


「あははっ、リーデが怒った〜!」


「もー!」


「ごめんごめん、本当に元気そうで良かったよ」


 ウルシュナは笑いすぎで出た涙を拭う。

 サッパリとした性格をしているようでとても貴族っぽくない。


 お高くとまった貴族よりもよっぽど好ましい性格をしている。


「ふーん……」


 ウルシュナはジの周りを回りながらジの様子をジロジロと観察する。


「じゃあ行こうか!」


「行くってどこに?」


「決まってるでしょ、デート!」


「ウウ、ウーちゃん!?」


「リーデも行くの、ほら!」


 ウルシュナはジの手を掴んで立ち上がらせるとリンデランの手も掴み引っ張っていく。


「どういうつもりだ?」


「ウーちゃんの行動は私にも分かりません」


 怪訝そうな表情を浮かべるジに困り顔のリンデランが答える。


 楽しそうなのは2人を引っ張るウルシュナだけである。


 こんなことするつもりもなかったのにどうしてこうなったのか。

 1日フリーではあるので問題はないけど何をさせられるのか不安を覚えるジであった。


「むっ! あいつらどこへ行くつもりだ!」


「ご当主様、働いてください……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る