第一歩2
「魔獣にはちょっと負担かかるかもしれないけどとりあえず今日はこの棒の間に糸を張っていって欲しいんだ」
今回部屋に用意したのは長い2本の棒。
適当な台の上に固定して同じ高さになるようにし、部屋の反対側に設置してある。
その棒から棒へと糸を張ってもらう。
それだけなら何も苦労することはないのだけどそこから一工夫ある。
「そして糸同士が重なるように隙間なく糸を張っていくんだ。
そうすると最終的にはクモの糸が1枚の板みたいになるだろ?」
「なるだろってそんな……」
簡単に言ってくれる。そうニックスは思った。
糸を張るだけなら全く難しいことではない。
クモの生態だし特別なことは必要としない。
しかし糸同士を少し重ねて1枚の板のようにするなんて大変すぎる。
そんな繊細なコントロールで糸を出しているとは思えなく実現できるか不安がある。
「やり方は自由だしもっといいやり方が思いついたら教えてほしいんだけど、とりあえずは隙間なく糸を張っていけるように練習してほしい」
突如そんなこと言われても上手くいくはずもない。
クモたちにも慣れが必要な作業なので長い目で見ていくつもりである。
「お任せください。そのようなこと、このユディットとジョーリオにお任せください」
どうしたらいいのか不安げな2人をよそにユディットが不敵に笑う。
「いけジョーリオ、お前の力を主人に見せつけてやるのです」
ジョーリオが糸を飛ばして棒に張っていく。
端から端までやるのは大変なのである程度のところで切り上げさせる。
「うん、初めてにしては上出来だね」
「慰めはいりません……」
これを商品にすることはできない。
初めてにしては頑張った方だとは思う。
そもそも横方向に棒に対して真っ直ぐ垂直に糸を飛ばすのも大変そうだ。
斜めになった糸は隙間ができていたり重なり方も均一でなく厚いところ薄いところができてデコボコしている。
超大型のクモであるジョーリオの糸は幅も太く厚みもあるのでデコボコ加減が目立ってしまう。
ニックスとワもチャレンジしてみるけど結果は似たようなもの。
小さいチバサでは棒の距離がありすぎて上手くいかず、ニックスの魔獣であるストンも綺麗に糸を縦に張り続けることはできなかった。
初日はこんなもの。
ユディットだけがやたらと落ち込んでいたけれど思っていたよりも出来ている。
ユディットは自信満々だったから悔しさも感じていた。
「ふぅむ、難しいですね」
自分の作り出した糸を見ながら何か方法はないかと顎に手を当てて考える。
言葉で聞くと単純で簡単そうなのだがやってみるととても難しい。
ジの言う通りにやろうと思うと相当繊細なコントロールがいる。
「うーん……」
そんなはずはない。
過去ではこの事業は出始めてからずっと安定的な供給が出来ていた。
この商品を発明販売したのは潰れかけた小さい商会だった。
そんなに大規模に人を集めることもできず設備だって用意出来たはずはない。
こんな風に手間と時間が必要でクモの熟練待ちしなきゃいけない方法に頼っていたとは到底想像できない。
何か別の方法があるはず。
お手軽とは言わなくてももっと簡単に出来る方法が。
とりあえず質や量を均一に出してもらうことは必要になる。
方法はみんなで考えていくとしてクモたちに慣れていってもらうことは前提である。
「本当に大丈夫か?」
商人のところを去ったのは間違いだったかもしれない。
ニックスはまたちょっとだけ不安を覚え始めた。
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