第一歩1
なんとユディットはジの家の隣に引っ越してきた。
隣にももちろん人が住んでいたのだが気づいたら家を交換していたのだった。
隣の家よりもユディットの家の方がきれいだったので二つ返事で隣人は家の交換に応じた。
驚いたけどジの家に居候し出すなんて言われなくてホッとした。
近いところに前例があるから下手すると、なんて考えていた。
隣人とは特に交流もなかったのでいなくなったところで問題にはならなかった。
ついでなので隣の家も交渉して手に入れた。
どう使うのか悩んだ。
結局最初の計画から変更して先に雇っていた2人を住まわせることにした。
ちょうどよく固定の家がなかったようで2人で使うことになっても喜んでいた。
こんな風に従業員を近くに集めるつもりはなかった。
ユディットが近くに来てしまったことを皮切りにちょっとした事情から逆の家も買って、他の2人も生活圏が遠めだったので住まわせることになってしまった。
仕方のない処置である。
シハラはタとケの双子と仲良くしている。
近所の子供グループにも馴染んでいるようでよかった。
「それじゃ仕事しようか」
作業場はユディット邸の2階の一室。
最初は逆隣の家を作業場にするつもりだったのだが誰も入らないように管理したりするのが面倒で逆隣の家を丸々作業場にすることは諦めた。
管理を任せる都合から信用できる人と思ってユディットの家でやることになった。
だから逆隣は空き家になってしまったので2人を住まわせることにしたのである。
仮に見られたところで何をしているのか分からないはずだし、見られても問題にはならないと思う。
分からないが故に悪戯でもされることの方が怖い。
3人の従業員は一室に集まり姿勢を正してジの言葉を待つ。
ユディットが圧をかけるから仕方なく2人もビシッとしているが正しい。
「ニックスとワも魔獣を出してくれるか?」
「俺たちの魔獣はこんな強そうなのとは違うぞ。
それでも良いのか?」
ニックスが不安げにユディットの魔獣のジョーリオを見る。
ユディットよりも年上のニックスは既に大人から名前をもらっている。
平民の商人の元で下働きをしているのだが生きてはいけてもこれ以上人生が上向くことは難しいと考えていた。
そこでジの提案に乗っかってみた。
提示された金額も商人よりも多かったし虐げられるのにも飽き飽きしていた。
貧民の子供の提案なんて普段は蹴るところだけど一部で神童なんて呼ばれるジの提案だったので一か八か乗ってみた。
同じ貧民街出身なら馬鹿にされることもないと思ってきたのだがジョーリオを見てニックスは自信を失っていた。
すでに同僚と比べて自分の魔獣は見劣りしてしまっている。
「別に魔獣の強さで雇ったわけじゃないから大丈夫だよ」
「はい、これが僕の魔獣のチバサだよ」
そんな中ワは自分の魔獣を出していた。
ジと同じ一文字名前の少年。
年はジよりも少し上だろうがふんわりとした雰囲気があって幼くも見える。
ワの頭の上に乗っているクモがチバサでワの魔獣。
胴体が小さく手足の長い大人の手のひらほどのクモ。
よく頭に乗せられるものだとジは思う。
こんなところに住んでいるので虫が苦手なんて言ってられないが頭に乗せることなんて考えた事もない。
能天気なワの様子をみてニックスも魔獣を出す。
渋るより自分も流れに乗っかる方が良い。
チバサより大きくジョーリオよりも小さいクモ。
一般的なサイズで行けばデカいクモである。
人の胴体ほどの大きさのクモ、それがニックスの魔獣である。
三者三様、綺麗に大中小と揃っている。
クモが立ち並ぶ光景はジにとって気分のいいものではないのに3人にとってはなんてことはないようだ。
平気だからクモの魔獣が出たのか、クモの魔獣が出たから平気になったのか。
「まず君たちには色々と試してもらう必要がある」
「試すって何を?」
クモの魔獣というスタートと揺れの少ない馬車というゴールは見えているがそこに至るためのルートはジには分からない。
そういう技術で作ったことは知っていてもどう作るとか最終的な形とか細かいところは知らないのである。
だから試していって方法や商品がどんな感じのものがいいかなど試行錯誤していく必要がある。
「試す内容はこれから色々考えていかなきゃいけない」
「そもそも俺たちは何をさせられるんだ?
見るとクモの魔獣ばかり集めたようだけど……」
当然の疑問。だからニックスを睨みつけるのはやめてほしいとユディットに思う。
「うん、君たちにやってほしいのはクモの糸で板を作ってほしいんだ」
「クモの糸で板ぁ?」
ジが何を言っているのかニックスには分からない。
上手い表現が見つからずジとしても困っている。
過去にもあったこの商品、名前は単純であって板みたいな名前で呼ばれていたことは記憶している。
使ったことがないので商品名もおぼろげでどんな商品なのかまでは思い出せない。
とりあえず商品名に板とあったので説明に使ってみたけれど訳がわからないことも当然の話である。
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