まずはスライムの力を借りて3
「分かった。
後で確認はさせてもらうがここは君を信じてみよう」
どの行動も常識的に考えれば怪しすぎる。
しかしうそをつき騙そうとしているとしているにしては嘘が浅く行動も不可解だ。
全てが真実で実行できる自信も能力もある。
そう考える方がつじつまが合ってしまう。
オランゼが自分のデスクから小さい袋を持ってきてジの前に置いた。
「本来は1日、1回あたりでは渡してないが今回は特別だ。
1人1日銅貨6枚、3人分で18枚だが今日は苦情が来ないなら穏やかに過ごせるからな、特別に色をつけて20枚だ」
袋を持ってみるとずっしりと重い。
中身を出して銅貨を確認する。
商人の間ではお金の確認は大切で当然のことなので不愉快に思うこともない。
10枚ひとまとめで2山。
例え子供相手でもオランゼは騙してくる人間でないとジは分かっているけれど確認作業も対等な付き合いであることを示すポーズである。
「また明日来てくれないか。
君が働くつもりならちゃんと契約書を交わそう」
「分かりました。
では今日はこれで帰ります」
文字も書けなさそうな子供と、しかもつい先日来たばかりの子と契約書を交わすなんてオランゼはどこまでも真っ直ぐだ。
「いいんですか?」
ジを見送った後、2階から1人の女性が降りてきた。
黒にも近い濃い紺色の髪を持ち、クールな印象を見る人に残す顔立ちをしている。
「分からん。
メド、1つ頼みがある」
「あの子がやったと言い張っているところ、見てくればいいんですね」
「そうだ。
本当に言い張ってるだけかどうかは見れば分かるだろう」
経理も担当しているメドを説得するのは簡単でなかった。
大口を叩く得体の知れない少年に成果の確認もしないで3人分の日給を渡して、まして今後も雇うなんてメドでなくても反発する話である。
メドの冷たい視線が突き刺さる。
これでゴミも片付いておらず銅貨20枚を持ち逃げされたら大損もいいところである。
言ってしまえば商人の勘。
オランゼはジにその身なりにはそぐわない深みを感じていた。
昔自分の祖父を相手にした時のような相手をそのまま飲み込んでしまう深さ。
それに時折親しみを孕んだ目をしていた。それがどうにも気になった。
「今ごろお金だけ持って貧民街の別の集まりにでも逃げてますよ」
「どうだかな」
オランゼは窓の外を見やる。
父親は商人の勘とやらで大きな事業に失敗して全てを失った。
店を売り貴族街にあった家も引き払い、残ったわずかなお金を元手にオランゼはこの事業を立ち上げた。
商人の勘なんか信じないと決めてやってきたのになぜかあの少年に期待をしてしまう。
絶対に失敗はできない。
かといって慎重になりすぎては年寄りになっても小金を稼ぐ程度しか事業の拡大はできない。
「何としても俺はゴミで経済を支配してみせる」
オランゼの目は静かに野心に燃えている。
余裕があるとオランゼに評されたジとしてもオランゼは知らぬ相手でないことが余裕がある理由の大きい部分を占めた。
実はジは過去にオランゼと一緒に働いたことがあった。
ジが大きくなってから出会ったオランゼはすでに都市の大部分に事業の手を伸ばし、一部ではゴミ王なんて呼ばれてもいた。
ジにとっても恩人。
スライムの消化能力をゴミ処理に活かそうと思いついたのが何を隠そうオランゼなのだから。
そんな恩人が思い付いた方法を使って先回りをして少し稼がせてもらうなんてジも悪い男である。
苦労させられた分返してもらうと考えれば心は痛まないのだが。
何もジは一方的に搾取しようなどと考えているのではない。
多少のお金を稼がせてもらうがお礼はしっかりとするつもりで接触した。
現段階はまだ信頼関係を築いていく時期なので口出しをすることはないけれども後々オランゼの事業を加速させていく。
ジの能力でなく知っている知識とちょっとした話術を用いてオランゼの興味を引ければ可能だろう。
「まあ、とりあえず今は若き時を楽しもうか」
金があり時間がある。
小難しいことはおいおい考えればいい。
ずっしりと手にかかるお金の重みに顔を緩ませながらジは家に帰った。
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