第75話 先輩、遊園地デートです!2
75話 先輩、遊園地デートです!2
駅に着いた二人は切符を購入すると、十ニ駅先まで特急で移動した。
日曜日の朝ということもあり、周りには家族連れや学生なんかの姿が多く見られる。混み合っているというほどではなかったが、そのほとんどが同じ駅で電車から降りることとなった。
アミューズメントランド、フィッシュパーク。他府県からも数多くの客が来園するそこは、名前の通り魚を題材とした遊園地である。
およそ三十種類のアトラクションに加え、飲食店にお化け屋敷。そして何よりも目玉なのが、内蔵された大型水族館の存在だ。
ジンベエザメ、イルカ、アシカにベルーガ、チンアナゴなどなど。有名水族館と同様レベルの規模を含んだそこは、正に圧巻。イベントも数多く行われており幻想的な空間が広がるそこで愛の告白を、という客も決して珍しくはない。実際に夏斗とえるも、そこに含まれるのだから。
そんな大型施設フィッシュパークの開場時間は十時。移動にかけた時間がおよそ三十分ほどで、残り一時間半は列に並ぶための時間である。
「早めに出てきて正解だったな。俺たちの後ろ、まだまだ人が増えてきてる」
「ですね! 前にまだ三十人くらいしかお客さんいませんし、これならすぐに入れそうです!!」
「よしよし。さて、えるさんや。ここから一時間半、何を致します?」
「ふっふっふ、勿論決まってます。こんな時の暇つぶしと言えば!!」
「Smitch!!」
「猫収集Z!!!」
シーン。お互いに自信を持って相手と同じ答えを言ったつもりが、見事な解釈の相違。二人は黙り込んだ。
そして夏斗が、口を開く。
「いや、いやいやいや。猫収集で一時間半は無理だって! 潰せて五分が限界だろ!?」
「先輩は私の猫愛をナメすぎです! 私なら二時間は画面を眺め続けられますから!!」
「却下だ! それは絵面的にもなんか外でしていいことじゃない!!」
頬をでろでろに緩ませ、スマホを眺めながらニヤニヤし続けるえるの姿を頭の中で思い浮かべて。夏斗はぶんぶんと首を横に振ると、鼻息荒くスマホを取り出そうとしていた彼女を静止する。
そしてそれと同時に。えるによって気付かされた。
「というか先輩。Smitchなんて持ってきてるんですか? 手ぶらですけど……」
「へっ? ……あ」
そう、夏斗は鞄を持ってきていないのである。幸い財布やら家の鍵やらは元々鞄の中に入れないので持ってきているが、Smitchは見事に家の中。
つまり、今二人が暇を潰すために取れる行動は、たった一つであった。
もう一度、小さな鞄からスマホを取り出したえるが、ニヤニヤと笑う。
「先輩? これはもう、猫収集Zをするしかないですよねぇ? ふふっ、ふふふっ、やっとです。やっと先輩にこのアプリを布教することができます……!!」
「お、俺ちょっとトイレに……」
「逃しませんよっ! さぁ、ダウンロードしてください!!」
ガシッと腕を掴まれ、抱きつかれるようにして引き留められた夏斗は冷や汗をかきながら、必死で目を逸らす。
猫収集Z。えるが没頭し続けるゲームで、その熱意にはもはや何か洗脳の類があるのではないかというほど。怖い。自分も同じになってしまうのが、凄く怖い。
そしてなんだZって。猫を集めるだけのゲームの後ろについていていいアルファベットじゃない。戦闘マシーンでも出てくるのか?
が、心の中の葛藤も、申し訳程度の抵抗も虚しく。その場で猫収集Zをダウンロードさせられた夏斗は、泣く泣くゲームを始めることとなった。
予想通り、と言うべきか。案の定面白くて、結局並んでいた一時間半もの間永遠と猫缶で猫を家に引き寄せ、猫タワーや猫ソファー、猫お布団でゴロゴロさせてからなつき度を上げることで猫を撫で回し、可愛いタイミングでスクリーンショットを撮る。
気づけば五十枚ほどフォルダに猫画像が増える結果となっていた。
「ねえ、ねえ見て前の子たち。高校生かな? カップルで猫集めてる。可愛い〜!」
「いいカップルだなぁ。もう一時間以上は肩寄せ合ってああしてる。特に女の子の方……めちゃくちゃ楽しそうだ」
後ろに並ぶ客達に見られ、ひそひそ話で盛り上がられているなんて思いもせずに。
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