第74話 先輩、遊園地デートです!
74話 先輩、遊園地デートです!
「服、よし。髪、顔……よし」
身だしなみを整えて、鏡の前で最終確認。
今日のために新調した服を着こなし、すうっ、と大きく呼吸して。夏斗は、気合を入れた。
今日はえるとの遊園地デートの日。人生二度目の、愛の告白をする日。
「緊張するな、やっぱり」
楽しみと緊張が混ざり、昨日はあまり寝られなかった。幸い顔に出るほどではなかったものの、若干寝不足になる程には身体が強張ってしまっている。
考えても仕方がないのは分かっているのだが。プラスマイナスとテンションをどうこうするのと、緊張は全く別の話だ。
と、また考え込んでしまう前に自分の頬を手で叩いて気合を入れ直したところで、えるからの連絡でスマホが震える。
メッセージを表示すると、集合五分前にも関わらず既に家の前まで来てくれているのだとか。楽しみすぎて待ちきれず……という文面に喜びを感じつつ、スマホ、財布をデニムのポケットに入れて、家の鍵も手に持ったことを確認して扉を開ける。
「おはようございます、先輩っ」
「おはよう、える。その格好、めちゃくちゃ可愛いな」
「えへへ、先輩もオシャレさんです。私とのデートに気合を入れてきてくれるのは……とっても、嬉しいですね」
えるは白ベースのふりふりワンピースに身を包み、肩から下げた小さな鞄の後ろで両手を合わせてもじもじしながら。嬉しそうに、告げた。
いつもより肌が艶めいて見えるのは、おそらく薄く化粧をしているからか。家の鍵を閉めながら横目に彼女の顔を見つめていると、つい見惚れそうになる。
気合を入れていたのは、お互い様だったらしい。
「じゃあ……行こうか」
「はいっ!」
すっ、と自然にえるの手が伸びてくる。
指先がくいっ、くいっ、と小さく動くのは、早く繋げという意思表示。もはや彼女と歩くときは、手を繋ぐのが恒例であり日常と化していた。
手を握り、指を一本一本絡めて恋人繋ぎを作る。ほんのりと温かい体温を感じると同時に彼女の「ふふっ」という嬉しさ混じりの微笑みが覗いてきて、つい恥ずかしさに目を逸らした。
「先輩、恥ずかしがってるんですか? 恋人繋ぎ……しちゃいましたねっ」
「ぬぐ……お前も顔真っ赤だぞ。何強がってんだっ」
「つ、強がってなんか、ないですもん。先輩のおっきくてゴツゴツした手にドキドキさせられたりなんて……して、ないですもんっ」
ああクソ、可愛いなぁぁぁあ!!!!
夏斗は心の中で叫んだ。横髪を開いた手でいじいじしながらそう言う彼女の耳まで真っ赤な姿に、既に萌え死寸前であった。
えるは、無意識に夏斗の劣情を煽ってくる。自分がどれだけ可愛いのかを自覚せずに、平気で迫ってきて。彼がこの照れ顔にどれほど好きを実感させられたかは、言うまでもない。
「えへへ……先輩と、恋人繋ぎっ。やったぁ」
(聞こえてる。えるさん、心の声が聞こえてる……)
気づけば、二人とも緊張ムードは解れて。いつも通りの甘々バーゲンセールを振り撒きながら、駅に向かっていた。
日曜日の朝八時。朝から熱心に部活へと向かおうとする学生達や、週末という夢の時間を楽しむべくコンビニへ向かう社会人。そういった人達の横を通り過ぎるたびに幸せ砂糖オーラをぶちまけながら、進んでいく。
恋人のいない他人にとっては、もはや毒の散布である。
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