第60話 早乙女、打ち上げ行こ?

60話 早乙女、打ち上げ行こ?



 キーンコーンカーンコーン。


「終わっちゃぁぁぁぁ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「叫ぶな柚木ィィィィィィイ!!! 不正で点数無くすぞテメェ!!!!」


 紗奈の所属する陸上部顧問、赤江優菜が叫ぶ。


 今、何故彼女が発狂しながら問題用紙を地面に散らばすに至ったか。


 ズバリ。今受けていた日本史が、この期末テストにおける最後のテストだったからである。たった今、魔の試験が終了したのだ。


「ちょっ、柚木叫ぶなって。先生めちゃくちゃ怒ってるぞ」


「早乙女ぇ! テスト終わったゾォォォイ!! 遊ぶぞゴラァ!!!」


「なんで脅迫気味!?」


 完全にハイになった彼女は、鞄からおしるこを取り出し一気飲みする。もう諦めたのか、赤江は既に消えていた。


 テスト当日は、放課後前のホームルームが存在しない。つまり教師である彼女が教室から消えた今、正式にテストは完全終了したのである。


「って……お前は静かだな? 悠里。スマホで何してんだ?」


「おん? 焼き肉屋の予約。食べ放題三千円だってよ」


「高くね!?」


「大丈夫だ。俺は金を出す気が無いからな」


「何も大丈夫じゃねぇ!!」


 止まる間も無く予約ボタンを押した悠里のしてやったり顔にブチギレそうになりながらも、「じゃあ来週の日曜日の夜なぁ。バックれたら殺す〜」と言い去って逃げていくその背中を、見つめることしかできなかった。


 一人なら全力で追いかけただろう。だが今は、紗奈がその手を引き、全力でブンブンと振っていたから。


「ね、ねっ! これから遊びに行こうぜ早乙女!! 私今日までは部活オフなんだよ!!」


「えぇ……俺今日はえるとお疲れ様会するつもりなんだけど……」


「えるちゃんとは毎日会ってるだるぉ!? 私と遊べる機会は滅多に無いんだぞ! 一日くらい付き合ってくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 まるで酔っぱらいのようなテンションの彼女を振り切れず、夏斗はふと鳴ったスマホを確認する。差出人はタイミングのいいことにえるで、「今日は夕方からお疲れ様会、楽しみですね! お店どこがいいですか!?」と連絡が来ていた。


 そう。今は昼。夏斗はいつも通り一緒に帰り、今日は夕方まで何も食べずに我慢して夜、外食でえると目一杯食べるつもりだったのである。


 つまり夕方までの用事といえば、せいぜいえると一緒に帰路に着くくらい。ほぼ断るために使えるような用事が無いのである。


 そして運悪く。それを悟られる今のメッセージを、見られてしまった。


「ふっふっふ。夕方までは暇なんだね? お昼ご飯とお出かけができるじゃないか!!」


「い、いやそれは……っ」


「ねぇ、お願いっ! たまにはいいでしょ? ねっ!」


「むむむ……」


 夏斗は数秒悩んで。断るに断りきれず、彼女の勉強へのご褒美も兼ねて誘いを飲んだ。


 えるに「おう、実はもうお店予約してあるから、楽しみにしててくれ。あと悪いんだけど、今日はちょっと用事できたから先帰ってて。五時に家の前集まろう」と連絡を入れると、すぐに「了解です!」の返信が来て一安心。今日は夕方前まで、付き合うことにした。


「分かったよ。でも、本当に夕方には帰るからな?」


「やったぁ! 早乙女とデートだぁ!!」


「っ!? あんま大声でそういうこと言うなって!!」


 紗奈の周りを気にしない発言に、周囲がざわつく。


 当たり前だ。夏斗とえるの仲は、周知の事実なのだから。そんな彼が紗奈とデート。これは男子達からすれば大問題である。


「なぁ、アイツ埋めに行かね?」


「ありだな! 盛大にテストの憂さ晴らししようぜ!!」


「柚木、さっさと行くぞ! 俺まだ死にたくない!!」


「ふぇっ!? ちょ、手っ!? 繋……はわっ!?」



 大急ぎで教室を飛び出した二人は、こうして初めての二人きりデートを開始したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る