第61話 早乙女、打ち上げ行こ?2
61話 早乙女、打ち上げ行こ?2
ショッピングモールに来た。
二人で、手を繋いだまま。
「さ、早乙女……あの、手……」
「っ!? す、すまん! 命の危機でテンパってて!!」
かあぁ、と頬を紅潮させながら小さな声で呟く彼女の手を、夏斗は焦って離した。
ここは、学校からおよそ五分で着く、三階建てのそこそこ大きく有名なショッピングモールだ。フードコートに専門店街、ゲーセンに映画館。高校生なら「とりあえずあそこ行くか」のノリで行ける、素晴らしい場所。
夏斗は無意識的に、そこに逃げ込んでいた。
学校からの距離を考えればとても安全とは言えないが。来てしまったものは仕方ない。
少し安心すると鳴ったお腹の音に従って、ひとまずは昼ご飯のお店を探すことになった。
「あ、あはは……どうしよう。今になってちょっと恥ずかしくなってきた。はしゃぎすぎたかなぁ……」
「なっ……おま、急にしおらしくなるなよ。こっちまで照れるだろ……」
デート。そう、今二人は、デートをしているのである。
テストの打ち上げなんて名目で来たはいいものの、男女が二人きりでモールに遊びに来ているのだ。デートだと認識するには充分すぎるだろう。
紗奈は激しく赤面し、心臓を高鳴らせた。
好きな人と……初恋の人と、デートする機会がやってきたのだ。いつもは可愛い後輩に奪われている夏斗を、この数時間だけは自分のものにできる。
嬉しい反面、そういったことには慣れていなくて。緊張で胸が張り裂けそうだ。
(早乙女と、私は……っうぅぅ!!)
「と、とりあえずご飯探しに行きたいけど、なんか食べたいものってあるか? フードコートってのも……なんか味気ないしな。合わせるから、二人で同じもの食べようか」
「お、おぅ! そうだね! えっと、えっと……」
フロアマップを見ながら、飲食店街にそれっぽい店を探す。
お腹は空いていた。けれど、夏斗の前で『女の子らしくない』と思われるようなお店は選びたくなかった。
出来るだけ、女の子っぽく。それでいて夏斗も満足できるような場所。
「あ、ここなんてどう?」
「んー? あっ……オムライス、か」
「? 苦手だった?」
「いや、大好物なんだけどな。二日前に食べちゃってて」
「そうなんだ?」
何故か少し顔を赤くする夏斗を不思議そうに思いながらも、それなら別のところにしようと紗奈は他の店を探す。
このモールに来るのは、何気に久しぶりだった。部活が忙しくて寄り道する機会もあまり無く、前に来た時と比べて随分とお店が入れ替わっている。
そんな中。もう一箇所、オムライスと同じくらい惹かれる場所を見つけた。
見つけた、のだが。
(こ、ここは絶対ダメ! 流石に女の子が、これは……ッ!!)
トンカツ定食屋、結蘭。ご飯とお味噌汁、キャベツがおかわりし放題で、トンカツの量も中々。ボリューム満点なカツの写真を見てひさしぶりにガッツリ食べたいと思ってしまったが、あまりにもそれは女の子らしくない。
好きな人とモールデートしているのだ。ここだけは絶対に選ぶべきじゃない。
目線を逸らした。けど……他の店を探すたびに、チラチラとトンカツを目で追ってしまう。
そのせいか。夏斗に肩を叩かれて、少し笑われた。
「柚木、分かりやすいな。トンカツ食べに行くか?」
「へっ!? い、いや……でも……」
「でも?」
「……女の子っぽく、ないし」
ぷふっ。紗奈の呟きと共に、夏斗が吹き出す。
「な、なんで笑うのさ!?」
「いやいや、だって柚木がいきなり女の子らしさとか言い出すからさ。ははっ」
「ぬぬぬ……私だって女の子なんだぞ!?」
「分かってる、分かってるよ。ごめんって」
そう言いながらもまだ笑みを我慢しているのが目に見えて、胸ぐらを掴んで揺すってやろうかと思った。
こっちは真剣に考えてたのに。まるであっちは、自分のことをなんとも意識してないみたいで。
「でもさ、食べたいもの我慢する必要なんてないんじゃないか? いっぱい食べてる柚木の幸せそうな顔、俺は好きだけどな」
「……え? 好っ────!?」
ぽりぽりと顔を掻きながら、なんの恥ずかしげもなく言う彼の姿に。
ムカつきながらも、身体が熱くなった。
(ずるい……なんで、私だけこんな……っ!!)
「もう! 隠してたのが馬鹿みたいだよ!! ほら、早く行こ!! 山ほど食ってやる!!!」
「へいへい。分かったよ〜」
この、鈍感男め。
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