第59話 後輩、俺は腹を括ったよ

59話 後輩、俺は腹を括ったよ



「えへへぇ、先輩の膝枕だぁ……」


 ソファーに腰掛けた俺の膝に、コトンと倒れ込むえる。軽い頭が膝の上に乗り、じぃっと視線がこちらを向いた。


「頭も、撫でて欲しいです」


「はいはい。早く寝るんだぞ」


 そっと、紫色の綺麗な髪に触れる。


 頭のてっぺん辺りを手のひらで撫でてみたり、耳元の髪の毛を耳の後ろにかけさせてみたり。


 えるは嬉しそうに、膝に頬擦りして甘えていた。「にゃぅ」と猫撫で声をあげながら、ちょっとずつ瞼が閉じていって。やがて、小さな寝息と共に言葉が消えていく。


 どうやら、完全に寝てしまったようだ。


「世話の焼ける奴だな、ほんと」


 甘えん坊で、構ってちゃんで。しばらく放っておくと拗ねたり、ぐずり出してしまう。


 結局のところ彼女は、俺のことをどう思っているのだろうか。


 一緒に登校して、昼ごはんを食べて。部活の後には一緒に帰り、夜には通話したりもする。


 俺とえるの関係は、きっと他人から見れば「異常」とも取れると思う。何せただ家が隣になっただけで、恋人でも昔からの友達でもない二人の関係性が、これなのだから。


(えるは俺が好きだって言ったら、どう思うんだろう……)


 もし奇跡的に両想いだったら。きっと喜んでくれるはずだ。でも彼女にとって、俺がただ甘えたいだけの対象だったとしたら。むしろこれまでのような関係性を続けるわけにはいかなくなる。最悪の場合、俺達の縁はそこで……


『ごめんね。夏斗君のこと、そういう目で見たことないんだ。ただの友達じゃダメ……かな?』


「っ!!」


 過去のトラウマがフィードバックする。


 告白とは、勇気のいるものだ。そして断られたら、心の内を深く抉られるものだ。


 もしえるに、同じ台詞を言われたら。俺は正気でいられるだろうか。


 こんなに好きなのに、この想いは届かない。相手は自分のことなんて何とも思っていなくて、一方的な勘違いとして終着する。


 あんな経験はもう二度とごめんだ。


「しぇん、ぱぃ……胃袋、掴みましゅ……」


 怖い。怖い、けれど……


(えるを他の誰かに取られるなんて……嫌だ)


 えるが俺以外の男と歩いているところを、見たくない。

  

 ずっとこのまま、隣にいて欲しい。


 大好きだ。ずっと、ずっと一緒にいたい。


(なら、いい加減覚悟を決めないとな)


 俺はこのテスト期間に、えるにとあるプレゼントをすることを決めていた。


 それはえるが目標を達成したらそのご褒美として。もし失敗すれば、俺の手にする「何でということを聞いてもらえる権利」を使って。どちらにせよ、絶対に渡す気でいる。


 既に用意は出来ているのだ。あとは、俺が腹を括るだけ。


 いつまでも先輩後輩としての今の状態を平行線で繰り返すのか。それとも、たとえ失敗する危険性があったとしてもそれよりも親密な関係。「恋人」を目指して、告白をするのか。


 選ぶべき未来は、もう決めた。


「胃袋どころか、俺は心まで全部お前に掴まれてるよ。本当にいつもいつも……ドキドキさせやがって」




 俺は、このテストが終わったら告白する。

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