第48話 後輩、匂いを嗅がないでくれ
48話 後輩、匂いを嗅がないでくれ
六日が経過した。今日はテスト前日である。
今回の期末テストの教科は「現代文•古文•数学•化学•生物•日本史(選択によっては世界史)•公民•英語•保険」の九教科である。二年生の夏斗と一年生のえるで教科に多少のズレはあるものの、こちらも同じように九教科。それを水曜、木曜、金曜の三日間に分けて期末テストとする。
そして一日目、明日の教科は現代文、数学、英語。紗奈にとっての問題である数学が含まれており、夏斗は不安に駆られていた。
「むむむ。先輩、今また柚木先輩のことを考えていましたね?」
「うっ。相変わらずなんで分かるんだ……」
「先輩が分かりやすすぎるんです。明日、柚木先輩に教えてた数学があるからですよね?」
「まあ、な」
授業中の自習時間や休み時間を使い、できる限りは教えてきた。手応え的にも、まずまず赤点を取ることはないと思えるほどに彼女は成長していた。
しかしテストというものは何が起こるか分からない。どれだけ万全の準備で望んでも、アクシデント一つで結果が変わってしまうものだ。
「……えいっ」
「おわっ!? な、なんだよ急に!?」
ぎゅう。頭を悩ませ視界が狭くなったところに、えるが隣から優しく抱擁する。腰元に回された手は体温を噛み締めるように巻き付き、幸せを感じながらも顔だけは不満全開だった。
「ナツ先輩が優しくて、かっこよくて。だから柚木先輩を心配しちゃうのは分かります。でも……今隣にいるのは、私なんですよ?」
「っ……す、すまん」
「許しません。私のことを一番に見てるって言ってくれたのに、堂々と目の前で浮気をしていた罰です。もう少しぎゅっさせてください」
くんくん、と制服に花を近づけて匂いをも堪能しながら、えるは微笑む。
「先輩の匂い……落ち着く」
「っっ!? や、やめ! 匂いとか言うな!」
「ふふっ、温かい匂いです。ナツ先輩を体内摂取するの、クセになっちゃいそうですぅ……」
「や、め、ろォォ!!」
そうして、テスト前日の勉強会は終了した。
えるは全教科五十点が目標。どこか不安はありそうに思わせながらも、その目標に向けてしっかりと勉強していたと思う(休憩の時はとことん甘えられて大変だったが)。
となると、やはり心配なのは紗奈の動向。家でもキチンと勉強をしていると本人は言っており、実際にその成果も出ていた。
大丈夫だと、思いたいが。
「先輩、ではまた明日に! 先輩はお寝坊さんなんですから、今日は無理せずちゃんと早く寝てくださいね!」
「ああ、善処するよ。じゃあな」
「はーい!」
家に戻り、教材の詰まった重い鞄を下ろす。外はもうすっかり夏で、ボディシートで押さえていた汗がじわりと額を濡らすのを感じながらシャワーを浴びた。
「俺も、人の心配ばっかりしてられないか。悠里は本気で挑んでくるだろうし……負けてお小遣いを失うわけにもいかないし、な」
温まり、回る頭。寝巻きに着替えてから夜ご飯を食べ、最後の確認をするために自室に入った。
数学は今更詰め込んだらしても仕方ないので、するのは現代文の漢字暗記と英語の単語暗記。散々繰り返しはしたものの、何か抜け落ちている箇所があれば勿体ない減点となってしまう。
「よし、じゃあサクッと一時間くらい復習して……ん?」
その時。時計代わりに置いていたスマートフォンが鳴る。
長いバイブ音。どうやらメッセージではなく、電話のようだった。
『もしもーし。やっほー』
相手は、例のクラスメイトだ。
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