第47話 先輩、私決意しました

47話 先輩、私決意しました



 柚木先輩が、ついに動き出した。


 何をしたのかは分からない。けれど、あの人は私からナツ先輩を奪い取る気だ。


「どう、しよう……」


 先輩は言ってくれた。私を一番に見ていると。抽象的な言い方で、私のことをどう思ってくれているのかまでは判断できなくても、少なくとも悪くは思われていない……はず。


 ただ、安心はできない。このままグズグズしていてはいつか、本気を出した柚木先輩に何もかもを奪われてしまう。


 怖い。ナツ先輩の隣に立てなくなる日を想像するだけで、涙が溢れそうになる。


 私はナツ先輩のことが好き。世界一、大好き。離れたくない。誰にも渡したくない。


 この好きを、邪魔されたくない。


「このままじゃ、ダメなんだ」


 柚木先輩はナツ先輩のクラスメイト。私がいない時間にいくらでも接触することができて、そのうえあの性格。積極的にアタックしてすぐにナツ先輩を陥落させるなんてことも、して来かねない。


 柚木先輩は、本当に美人なのだ。なんでも出来て、私にないものをたくさん持ってる。正面から正々堂々やり合っても私なんかじゃ、絶対に勝てない。


 だから────先手を打つ。


 一番有効でかつ確実な方法。それは柚木先輩が勢力を拡大する前に私が、完全にナツ先輩を自分のものにすること。


 つまり、告白だ。


 この好きを伝える。考えただけで恐ろしくて、もし失敗したらと思うと胸がズキズキと痛む。


 でも、私はこの三ヶ月アプローチを自分なりに続けてきたつもりだ。登下校も、お昼も。必死に努力して手に入れた、私とナツ先輩だけの時間。それを何度も繰り返して少なからず成功率は上昇したと信じている。


「告白……するなら、やっぱり″アレ″を使うしかないよね」


 そして幸いにも、私は告白するための口実を手に入れかけている。


 それは今回のテストで私が目標を達成した時に発動する「先輩が私の言うことを一つ聞いてくれる」という切り札。柚木先輩も恐らくタイミング的に今回のテストで何かしらの仕掛けをしたのだろうが、関係ない。


 私はこの切り札を手に、告白する。


 強制力を持って付き合って欲しいと頼むわけじゃない。あくまでこれはきっかけ。告白という重い話に火をつけるための導火線にすぎない。


「先輩……私のことを、受け入れてくれるのかな……」


 いつも優しくて、私のために動いてくれるかっこいい先輩。私が嫌がりそうなことからは遠巻きから守ってくれて、王子様みたいに愛を撫でてくれた。


 でも、そんなナツ先輩が相手だとしてもこの告白は、成功するのか全く予想ができない。例えどれだけ優しい人だとしても、善意を好意に変えることなど出来ないのだから。


 これは、先輩が私のことを好いていてくれなければ成功しない告白。きっとどれだけ最善を尽くしても、成功率をこれ以上上げることはできない。


 好きになってもらえるよう、努力はしてきた。柚木先輩の侵略を考えれば、もうそろそろここが限界。あとは成功することを祈りながら、想いをぶつけるだけだ。


「好きです……先輩。もう、ただのお隣さんの後輩じゃなくて、彼女として……あなたと……」


 寝転がっていたベッドから、白い天井に手を伸ばす。そして一度空気を掴んでから、起き上がった。


「……よし。勉強、もうひと頑張りしなきゃ!」



 告白のための前提条件。テストの目標ボーダーラインを確実に越えるための勉強を、再開するために。

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