第11話 先生、落ち着いてください
11話 先生、落ち着いてください
「バ、カな……ッッ」
「いや先輩単純です。ちょっとフェイントかけたらすぐに引っかかりますよね」
十分制ミニゲーム。その勝敗は、二十対三という悲惨な結果に終わった。
ただでさえ普段から夏斗のドリブルに翻弄されている者達が、激昂して迫ってくるのだ。当然いつもより動きは単調になるし、落ち着いて対処すれば躱しやすい。おかげで二十点のうち十六点は夏斗が入れたもので、スリーポイントも二本決めていた。ちなみにAチーム側の三点を決めたのは悠里。隙をついた完璧なカウンターからのスリーポイントだった。
「先輩……先輩先輩先輩っ! かっこいい!! 好き!」
その果敢な姿にはえるもこの有様。もはや周りで自分と同じように部活を観戦している人がいることも忘れ、自分の世界に入って好きを叫んでいた。大声ではないしそれがプレーしている部員達に届くことはなかったけれど、周りからは
(何この子。は? 可愛すぎてキレそう)
(よくこれで早乙女に好きなことバレてないな。何か特別な力でも働いてるのか?)
(多分神様に愛されてるんだろうなぁ。さっさと結ばれちまえ)
こんな感じで注目を浴びる始末。もう好きが溢れ出て身震いを始めるほどに興奮したえるは気づいていないけれど。
「くっそ、先輩方しっかりしてくださいよ。なんか俺まで負けたみたいじゃないっすか」
「天音貴様……いや、すまない。言い訳も思いつかん」
「オイオイ悠里、負けを認めないのはよくないな。実際負けただろ?」
「ああん!? テメェあんな極大バフ貰っといて平等に勝負してた気なのか!? ふざけんなよ、通常パラメータで戦った俺とは平等な勝負になってねぇっての!!」
茶色い髪をかき揚げ不満を露わにする悠里だが、夏斗は知らぬ存ぜぬで一貫して価値を主張する。
この二人は親友であり、ライバルである。中学からこうして切磋琢磨して技術を磨いてきたのだ。現在も戦力は拮抗しており、勝負を続けるように部活中はいがみ合っている。
「ああもう、みんなまた喧嘩? 鎌田君、キャプテンの君が止めなきゃ駄目だよ?」
「せ、先生。だけどコイツ、我が校の天使を……!」
「はぁ。まあ確かに? 早乙女君いつもより張り切ってプレーしてた感じはあるけど。それでも先輩としてあそこまでやられて、恥ずかしくないの?」
「グサッ」
主将にトドメの一撃を刺す茶柱。バタッ、と力尽きてその場に倒れるのをため息混じりに眺めながら、次はギャイギャイと騒いでいる二人の元へ向かう。
「天音君、落ち着いて。悔しかったのは分かるけど」
「先生に何が分かるんすか! コイツは女の応援っていう男にとって最高最大級のバフを使って勝ちやがったんだ! それでも漢かァァ!!」
「お、女の子の応援って。確かに夢崎さんは可愛いけれど……そんなにプレーが上手くなるもの? たまたま早乙女君の調子が良かったとか────」
「独身の茶柱先生には分かんないッスよ! 異性から応援されるのがどれだけ力になることか!!」
「……あ゛? テメェ今なんつったコラ」
(あ、やっべ)
そそくさ、と早乙女はその場から距離を取る。幸いにも一瞬矛先が先生に向いた悠里から逃げ、後輩の背に隠れると。火のついた導火線を、そこからチラリと覗くことにした。
「天音クン? 私が独身なことと、異性から応援されることの力が分からないことになんの因果関係があるのかしら。ねぇ、なあ、オイ。答えろや」
「へっ? せ、先生? なんか顔怖────」
「オメェ、表出ろや。ひん剥いて金玉握り潰してからそのスカした面歪めてやるよ」
「ちょっ、茶柱先生どう! どうどう!! 落ち着いて!!!」
「離せ鎌田ァァァァァ!!! コイツは私に言っちゃいけねぇことを言った!! なぶり殺さなきゃ気が治まらねえんだよォ!!!」
茶柱鳴子、二十五歳独身。彼女の独身をイジるのは、生徒なら誰もが知っているタブーである。
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