第10話 先輩、かっこいいです!

10話 先輩、かっこいいです!



「じゃあまずは軽くアップから! その後はいつも通り基礎練して、今週末の試合に向けて実践的な練習をしましょう!」


「「「おう!!」」」


 バスケ部顧問、茶柱鳴子(バスケ経験一切無し、二十五歳独身)の掛け声と共に、夏斗を含むバスケ部部員は体育館を軽いランニングで回る。


 それから柔軟、パス練習などの基礎練をおよそ三十分ほどで終え、早速ミニゲームの準備を始めた。


(先輩、かっこいいよぉ。走ってるだけで好き。ああ、レイアップ! しゅき!!)


 そしてそんな様子を、体育館二階に数多く設置されたベンチの一番端っこで隠れるように見つめる彼女。内心湧き立ちながら小さくぶんぶんと腕を上下させて喜んでいる姿は、さながらヒーローショーを見に来た子供のよう。


「あ、おいおい夏斗。見ろあれ」


「ん? なんだよ」


「お前の愛しのえるちゃん、応援に来てくれてるぜ」


 一番端っこ。本人はそれで遠慮気味に見ているつもりだが、ただそこにいるだけで目立つ彼女が桃色のオーラを出して小さく声援を送っている姿が目立たないわけもなく。簡単にバスケ部男子達に見つかると、その情報は悠里によってすぐに夏斗まで伝播した。


「手くらい振ってやれよ。きっと喜ぶぜ?」


「茶化すなよ。……ったく」


(はわっ!? せ、先輩がこっち見────手振ってくれた!?)


 悠里に背を押され、夏斗は恥ずかしいながらも小さく手を振る。それを見て完全に目がハートマークになったえるは、キョロキョロと周囲を見渡して。わざわざドキドキを治めてからここに来たというのに、簡単に引き出されて顔を赤くし、手を振り返す。


 ヒーローショーというのは間違った例えだったかもしれない。こらではアイドルのライブだ。そのうち夏斗の名前が書かれたうちわを用意しかねない。


「色男め。自分でけしかけておいてなんかむかついてきた」


「なんでだよ。……クッソ、えるのやつめちゃくちゃ可愛いな」


「そういうとこだよ」


 ぶつぶつと憎まれ口を叩きながらビブスを着る悠里は、夏斗とは別チーム。このバスケ部において唯一の経験者二人は分けておかないと試合が成立しないからである。


 だが、その他が全員初心者ゆえに下手くそなのかと言われれば、決してそんなことはない。入ったばかりの一年なんかは置いておいて、少なくともここで二年以上練習を繰り返してきた三年生は。二人程とはいかなくとも、最上級生としてそれなりの実力は兼ね備えている。


「オイ早乙女貴様。今……女に、それも我が校の天使、夢崎えるに手を振って振られていたのか?」


「へっ? 先輩? な、何ですか急に。そんな殺気だって……」


 そして今。そんな三年生連中全員から、夏斗は殺意の念を浴びていた。いや、三年だけではない。二年生も、もっと言えば後輩にあたる一年生にまで。


 アイドル的な存在の高嶺の花と仲良く来ているのが羨ましい者、普段から見せつけられ嫉妬している者、入学してわずか三ヶ月で初恋と失恋を経験させられた者。夏斗は全員から、見事に批判の的にされている。まあ本気で虐められたりしているわけではなく、イジりなどのレベルだが。


「三年主将、鎌田秀治! 俺の名にかけて早乙女夏斗、お前に天誅を下すッッ!! 行くぞお前らァァァァァ!!!!」


「えー、では十分制ミニゲーム、開始!」



 悪ノリした悠里含め殺気によって力が底上げされたAチーム対、夏斗をキャプテンとし背後から殺気を向けながらもなんとか自分を抑え、えるに良いところを見せるという即席の自分への言い訳で協力し合うBチーム。戦力差こそ均等に分けられたチームではあるものの、あまりのモチベーションの違いに夏斗はため息を吐いた。

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