第5.5話 三角関係はテトラの距離で?

「はぁ〜……はぁ〜〜〜〜」


海緒みおちゃんいつまでそんな長いため息ついてんのよ」


「ひなた先輩〜だってぇ……」


 水族館で月城つきしろ君とその妹さんにあった日の後、私は熱帯魚コーナーの水槽を掃除しながら、恥ずかしさと嬉しさと自分のおろかさにもだえ苦しんでいた。脳内で別れ際のシーンが永遠にリピート再生される。


『そういえば鯨井さん、何か急いでたんじゃなかった?』


『ん……!ごめんなさい、私もう行かないと……!じゃ、じゃぁね!』


「律くん……律くんって……!!あぁぁぁぁ」


 自分で言った言葉が、今になって恥ずかしくなってくる。普段ならあんなこと絶対に言わないのに、焦っていたせいでつい口から出てしまった。


「お〜い、お〜い、海緒みおちゃん、聞こえてる?」


「明日どんな顔して会えばいいの……」


 明日の学校で、普段通り顔を合わせることが出来る自信がない。


「何、恋?」


「ち、違いますよ!!!」


「でも完全にの顔だったわよ」


「第一、まだそんなに話したことも」


「なんだ、やっぱり恋話じゃない」


「もう、違いますってばっ」


「ちゃんとやらないとバイト代引いてもらうわよ〜」


「そ、それだけはご勘弁を……」


 バイト代を引かれたくはないので、仕方なく仕事に取り組むことにした。ただ、まだどこかに引っかかる何かがある。月城つきしろ君とはまだ数回しか話したこともないのに、なぜだか気になってしまう。今までこんなことは無かったのに、あの日からずっとだ。今日たまたま会えたことも、恥ずかしさより嬉しさの方が大きかった。でも妹ちゃんには何故だか敵視されているような……。


「妹ちゃん、お兄ちゃんっ子なのかなぁ」


 まぁわからなくもない。私もあんな人が兄だったら、懐いてしまうと思う。それ以上にになんてことも……。


「……どうしよう、これってってやつ?」


「あんたまだ考えてるでしょ……いいかげん働きないさいな」


 いつの間にか考えていた事が口かられていたみたい。ひなた先輩に怒られてしまった。ふと目の前に、私のお世話する子が寄ってきた。見た目は金魚に近くて、綺麗な銀色のうろこを持った、小さくてかわいい熱帯魚さん。私の担当でもあり、お気に入りの子。


「私どうすればいいかな……?」


「勝手に名前付けるのやめなさい」


「だって“’’なんて長すぎません?」


「まぁそれはそうだけど」


「だったらあだ名があった方がいいもんね〜。 ね、とらしば!」


 にこっととらしばに笑顔を向けるも、今度はサーっと離れていってしまった。え。


「でも、私も前からその子、気になってたのよね」


「え? 食欲ないですか? もしかして病気とか……」


 水族館の魚達の病気は、只事ではない。軽い症状だとしても同じ水槽内の魚に伝染したり、それが悪化したり、最悪死んでしまうこともある。だから、普段から泳ぎ方や食欲などをしっかり観察することが大切。これは飼育スタッフになる時に一番初めに教わったことだ。


「違うわよ。 もしそうなら担当であるあなたにもっと早く伝えてるわ。」


「なんだ〜違うんですね。 びっくりしちゃいました」


「ごめんなさいね。 それに、この子達のことなら海緒みおちゃんの方が気づくでしょ」


「えへへ、そうですかね」


 憧れの先輩から褒められた。嬉しい。


「私が気になるのは、この子の名前よ」


「名前? とらしばの?」


「……ええ、子のこ“トライアングルシルバーテトラ”でしょ?」


「はい、そうですけど?」


「トライアングルは“3”なのに、テトラは“4”って意味なのよね」


「え、そうなんですか」


 知らなかった。


「まぁそれが本当に名前の由来かはわからないけど」


ぐらい面白い名前ですね」


「そうねぇ、どちらかというと、くらい矛盾してるわね」


「どっちなんですかそれ……そもそもそんな名前の子いましたっけ?」


「その子は昆虫よ」


「なんで水族館の飼育員が昆虫に詳しいんですか……」


 この人なんでも知ってそうでちょっと怖い時あるんだよね。


「まぁいいじゃない、話のネタになるんだし」


「それはそうですけど」


「とらしば、三角関係の海緒みおちゃんにピッタリね」


「なっ、聞いてたんですか!?」


 どうやら聞かれていたみたいだ。恥ずかしすぎる。


「ふふふ、彼も魚好きなの?」


「なんでそう思うんです?」


「海緒ちゃん、魚ばかだから、共通点はそこかなって。」


「……まぁ月城君と話は合いますけど」


「へぇ、月城君っていうんだ」


「うわぁ」


 引っかかった。罠だ……この人、誘導尋問してる……。


「もしかするとかもね」


「どういうことです?」


「彼と魚は相思相愛かもしれないから」


「?」


ってことよ」


「……!もう、縁起の悪いこと言わないでくださいっ」


 いつの間にか、とらしばも私の方へ寄ってきて、なぐさめるようにゆっくりとヒレを振っていた。


「あ、先輩、もうすぐショーの時間が!」

「うわ、急がなきゃ」


 まだまだやることあるのに……!今日のバイトは、なんだか普段より長いように感じた。



 ______________________________

【あとがき】

 皆様お久しぶりです、おしずまきです。すごい久々です。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。第5.5話「三角関係はテトラの距離で?」いかがだったでしょうか。鯨井くじらいさんのお話です。題名まで矛盾している……(笑)


 第6話を書こうとしていたのに、いつの間にか番外編になってしまいました。2人が学校で出会うのは次回かな、、、。はよ挙げろよって話なんですけどね(笑)


 今回登場の子「」は、小さな熱帯魚。

 他の魚たちと比べ、少し地味ではありますが、銀色に輝く美しい子です。

 僕は好き。ちなみに、情報が少なすぎて、名前の由来が本当に数字なのかは詳しくはわかりませんでした。諸説ありってやつです。(詳しい方いたら是非教えてください)


 今まで妹ちゃんである琴音ことねばかり可愛くかきすぎたので、鯨井さんがヒロインなんだぞ……!という意味を込めて、今回のお話。気が変わらない限り次も続くかな!(多分!)


 日本が異常気象で40度近いことに日々驚いています。生態系が壊れましまわないか心配。私がいるオタキという街はとても小さく、朝は氷点下まで下がります。赤道より下、南半球なので日本と四季は真逆ですね。英語とマオリ語(先住民族の言語)を勉強中。これが意外と面白い。


 それではまた6話で!

[鯨井さんはお魚がお好き]−おしずまきでした!


 ※次回更新は<8月13日5時>予定

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