僕は、君のヒーローでいたい
朝比奈来珠
僕は、君のヒーローでいたい
僕の名前は、
とある私立高校に通っている、高校二年生。
背は百七十センチと標準的だが、体型はマッチョとは程遠くちょいヒョロガリ。
普段は眼鏡をかけているせいか、周りからモブキャラみたいな、大人しい性格と見られている。
「ウッス、弘崎!」
「おはよう」
「弘崎〜、もうちょっとシャキッとしろよ〜。」
「アハハ……」
そんな僕は、陽キャの友人から、バシバシと背中に気合を入れて貰っている感覚で、いつも、からかわれていることが多い。
だけど……。
「おはよう!
「おはよう!」
同じクラスにいる一人の女の子が、
「弘崎くん、おはよう」
僕にとって
その表情を見せながら、彼女が言う。
「お、おはよう……」
そんな弱々しい僕に、挨拶をしてくれたのは、僕の斜め後ろの席である、
大人しめな茶色のゆるふわなロングヘアで、明るくて
まるで学園内のヒロインといった存在だ。
そんな彼女に
しかし、
♪〜キーンコーンカーンコーン
「席につけー!」
チャイムが教室に鳴り
「えー、明日から夏休みに入るが、毎日が休みだからと言って気を緩めないように!」
ホームルームの時間、担任の先生が夏休みの過ごし方に対して、注意喚起を促している。
そう、明日から僕の学校では夏休み。
と同時に、僕のアルバイト生活も始まる。
僕は、一部の友人にはスーパーで働いているとは言っているけど、実は、レジ係や品出しなどの仕事ではない。
確かに、スーパーで働いているのには変わりないが、僕の本当に働いているアルバイトの内容。
--子供が
土日に仕事や
きっかけは、高校入学の時、アルバイトもしてみたいと考えていた頃。
僕は、ヒーローものやアクションが大好きで、どこか働けないかなとネットや求人雑誌で探してみたら、
それが、子供が見たら夢中になれるようなショーでヒーロー姿になり、演技をする仕事だ。
バイト自体も未経験だけど、一度は働いてみたい意欲の方が大きかった。
電話で面接の時間を予約し、初めて書いた履歴書を持って思い切って、いざ面接も受けてみたら即合格。
まさか受かるとは思わなかった。
一応、僕は空手の経験者だからなのか、その能力を買って採用したらしい。
(と言っても、僕は空手は
稽古の練習もあったりと大変だけど楽しいし、やりがいがある。
それに加え、意外にもイベントの責任者から曰く、僕は、子供たちからはともかく、大人の親まで大好評だよと言われた。
今日は夏休み真っ只中のとある日曜日。
学校の最寄り駅から徒歩五分の地域密着型のスーパーで、ヒーローショーと子供との握手&写真撮影会。
土日は毎度ながら、お客さんはいっぱい居るが、夏休みだと更に多い。
今回のヒーローショーは、去年の秋から絶賛放送中の仮面ヒーロー『カインドマン』だ。
内容は、人の心を悪いように
最後は、女性だけでなく男性までもハートを撃ち抜かれるというコンセプトで、子供だけではなく、大人まで釘付けにしている超人気特撮ヒーローもの。
僕は、いつものように、バックヤード内の控え室で着替えを済ませ、アクションの台本を確認していた。
(いつも通りに、演じていれば大丈夫……)
心の中でそう思いながら、緊張をほぐしつつ身体のストレッチをしている。
(演技の仕方もバッチリ覚えた、あとはやるのみ!)
「弘崎くん、そろそろ出番だぞー!」
控室の扉からイベントの男性スタップに、時間の合図で声をかけられた。
「あ、はい!今行きまーす!」
(そろそろショーの時間だ、急ごう!)
僕は急いで、控室にあるバックヤードから出て、小走りにヒーローショーの会場へ向かう。
ところが……。
(ん?何かやたら急いでいる人が……)
しかも、同じ学校の制服を着ている女子高生が、少し早歩きで僕の方に向かって急いでいるではないか。
その通路自体は広くない上、エスカレーターと吹抜けになっているフロアに横は女性の肌着や服を売っているスペースで尚更狭い。
(わっ、ぶつかってしまう!……って、え?たっ、小鳥遊さん……⁈)
僕は彼女の肩にぶつかりそうになった。
「ひゃっ!……ふぇえ⁈」
彼女も肩をぶつかりそうになり、僕を見てびっくりしてしまったみたいだ……。
小鳥遊さんにはその反動があって、少しだけ硬直しちゃったのか立ち止まっている。
(落ち着け……ここはいつものヒーローショーのように冷静に!)
僕にはそう思えるような、少し強みの想いがある。
なぜなら、彼女の瞳から僕の顔が見えないからだ。
(今のヒーロー姿になっている僕なら、彼女を救えるはず!)
そして、僕の取った行動は……。
--ポンッ。
僕は、彼女の肩を優しく手を置いた。
彼女の不安を払うかのように……。
(本当は「好きだ」と言いたいけど、ここでは言えない)
伝えられなくても、僕の心の中にある「大丈夫だよ」という安心感が伝われたら……。
そんな想いの込めた行動を僕は取った。
そして、僕はテレビ映像でのカインドマンのように、何も振り返らずに手を少し上げ、ヒラヒラと手を軽く振って、そのままその場から会場へあとにした。
次の日、夏休み内の登校日だ。
「おはよう、弘崎くん」
「あ、おはよ……」
夏休みの合間でも、いつも通りに、小鳥遊さんは僕に挨拶をしてくれる。
ただ、挨拶はいつも通りだけど、今日は何故か、機嫌が物凄く良い感じに見えた。
彼女が席に着くと、すごく嬉しそうな顔をしている。
(昨日起こったこと……僕だということに、気付かれてないよなぁ……。)
「ふっふふ〜ん♪」
「明里、おはよう。なんか嬉しそうね」
小鳥遊さんと一緒に会話している、いつもの友人達が小鳥遊さんの席で集まっている。
「うん、おはよう!良いことあったの。聞いて聞いて!」
「わかったから、どうしたのよ?」
その友人が、落ち着いてと暴走しそうになるのを止め、とりあえず聞くことに。
僕も何気に、小鳥遊さんの嬉しいことが気になってお茶を飲みながら聞き耳を立ててみた。
(小鳥遊さんの良いことって何だろう?)
すると、彼女が語り始めた。
「実はね……私、昨日、『カインドマン』に肩ポンされたの!」
(うわっ⁉︎昨日のことって……)
僕はすぐに、昨日のことを思い返してしまった。
振り返ってみると、あの時は
「え〜、マジで!」
「凄いじゃん!なんで?」
「たまたまだけど、私、あの日……」
小鳥遊さんがいうには、あの日は同じスーパーの横にあり、連絡通路で通り抜けられる小さな講堂ホールで、小さい頃から習い事で通っているピアノ教室の合同発表会だったらしい。
会場に早く着いて、時間が余ったのは良かったものの、本屋さんに行って夢中に立ち読みしてしまって、集合時間に遅刻しそうになったと。
(だから、あの時、小鳥遊さんも急いでホールへ向かっていたのね)
ちなみに、小鳥遊さんは『カインドマン』のことは、たまに遊びに来る親戚の子供が見ているからと、存在は知っていたみたいだ。
「それでね、私が相手の肩にぶつかりそうで、ビックリしたのはしたんだけど……、その手がなんとなく優しい感じかしたの」
「え?どういうこと……?」
「なんだろう……励ましというか、温かいような。でも、小さい頃にどこかで触れたことある感じで」
彼女の感覚だと、佇んだまま、思わず、ほわっ……というような温かい感覚に包まれたらしい。
(小鳥遊さん……それを言われると、僕、ますます恥ずかしくなるよ)
「しかも最後はね、後ろ姿だけど、私に手をヒラヒラと振ってくれたの」
聞いている女の子は、ドラマのようなロマンチックだなぁとばかり聞いている。
しかし、小鳥遊さんの次のセリフで、衝撃を受けた。
「私……また会えたら、告白しようかな。あの時のヒーローショーで演じていた中の人と付き合ってみたい」
(ぶはっ‼︎)
「えぇ?マジで⁈」
「それ、本気で言ってる⁉︎」
聞いている僕を含め、友人達も、小鳥遊さんの発言に思わず吹きそうになる。
「ちょっと、声が大きいよぉ!恥ずかしいんだから!」
「いやいや、いくら何でも!」
と、小鳥遊さんは、彼女の友人達と更にヒートアップするかように盛り上がり、恋バナを繰り広げている。
「まーた、女子達の恋バナが始まったよ」
僕の友人である二人の内、一人が僕の席のところへやって来ながら言う。
けれど、僕はそんな友人のセリフが聞こえていなかった。
いや、どちらかというと聞く余裕もない。
「って、おーい、弘崎?」
もう一人の友人が、意識を確認するためなのか、僕の顔の前に手を振る。
僕の反応がないし、僕の身体が固まって見えたかのようで、僕の顔を覗き込んできた。
けれど、僕にそんなことされても反応が出来ない。
今は、それどころじゃないんだ。
むしろ、余計に顔を真っ赤になりながら、更にドキドキして心臓が止まりそうになる。
「なんだ?顔が赤いぞ。どうした?」
「何かあったのか?」
いや、聞かないでくれと心の中で念じている。
(小鳥遊さんに、『カインドマン』の正体は僕だなんて言えない……)
だって、僕はあの時だけ、君のヒーローだから……。
僕は、君のヒーローでいたい 朝比奈来珠 @raise_asahina
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