第十九話:ロコイサ王救出作戦当日・どうしたんだトゥーチョ

 ロコイサ王救出作戦当日─────


 昨日のトゥーチョの話を聞いた上でも正直、今日に対する緊張感は俺にはあまりない。ただ寝て起きて、昨夜あんなに張り切っていたトゥーチョのあの姿を見た時には少し驚いた……。


 まぁ少しすれば復活しているだろうと一旦身支度を済まし終えてきてリンロが再び戻ると、トゥーチョは未だ変わらず地面に顔を張り付け伏せて続けたままだった。


 (え)

 

 呆然ぼうぜんと立ち尽くすリンロに見向きもせずトゥーチョが話しかける。

 

 「チョッ、チョハッ、実に良い快晴ッ……すっ、素晴らしい逃走日和とうそうびよりィ~~……だっチョなぁ~~ッ! リンロぉ~~ッ!」


 そう言われたリンロは一瞬黙り空を見上げた。


 (うん……確かに快晴なことは快晴なんだよな……)


 「でもそっちに空はないぞっトゥーチョ。昨日あんだけ張り切ってたのに一体どうしたっていうんだ?」


 「チョハッ? そっちに空はないだチョ? じゃーっ今見てるこのオレ様の目の前に広がっている景色は一体何だって言うんだっチョかァ~~ッ!! チョアァッ!? まさかオレ様の脳が天変地異てんぺんちいを引き起こしてるとでも思ってバカにしてるっチョ……あれっ?  空がいつの間にか茶色くなっているっチョっ! 何でだっチョかッ!? どこに行ったっチョかっオレ様の空はァ~っ! オレ様の快晴はどこだッチョかァ~~っ!!」


 グリグリグリグリッ!!

 

 そしてトゥーチョは【オレ様の快晴】を探すべく、突如として顔面で地面を堀始めた。


 (ヤバい……何でかは分からんがトゥーチョがとてもヤバい状態だっ……どうにかしねえとっ)

 

 そう思い立ってすぐリンロは少し地面に埋もれ始めていたトゥーチョの頭を急いで引っ張り出すと、トゥーチョが落ち着きを取り戻せるまでトゥーチョに空が見えるよう仰向けに抱え上げてひたすら高い高いを繰り返した。


 バッ  バッッ   バッッッ    バッッッッ      バッッッッッ!       バッハァァンッッ!!!

 

 時間が経つに連れて高い高いの高さは増していき。

 そして高く投げ上げられたトゥーチョは同じ高さ飛んで来たはがねのような筋肉と硬い羽を持った鳥【ムキヤジンチョウ】の大群に激突されまくりフルボッコ横転おうてんの最中、ようやく我に返った。


 「チョッッたぁッッッ!!!! 何だッチョかお前らッ!! 痛ッ!! 痛ッ!! 痛ッ!! チョやめッ──チョベッ!!」

 

 ムキヤジン鳥のトンネルを抜け、トゥーチョが別の異変に気が付く。


 「てかッ!! 何か熱いチョっなッ! アッツッッ!! 何でこんなに身体が熱くなっているんだっチョかーーッ!!? チョぐッ!! しかもメチャクチョまぶぶしすぎて目が開けられないッチョしぃ~~ッ!!」


 トゥーチョが直射日光から逃れようと下に目を向けると、下で待ち受けていたのはリンロの軽蔑けいべつの眼差しだった。

 

 「チョぼふぁッッ!! こんなはさちは嫌だっチョォぉ~~ッ!!」


 (おっ、戻った)


 ぱしッ


 リンロの腕に納まったトゥーチョは泡を吹き気を失っていた。


 「…………」


 それから少ししてトゥーチョの意識が戻り、二人の会話は通じ合うようになっていた。


 「さっきの拷問ごうもんをオレ様は一体どれくらい受けてたっチョか?」


 「んーー、多分1時間くらい」


 「…………そうだっチョか…………チョアァァァァ~~~~ッ!!時間差で拷問アレルギーのアレルギー反応で全身からガジリンキャベチョテ出てきたァァァァ~~~~ッッ!!!!」

 ※【ガジリンキャベチョテ】は野菜の一種です。


 「出てないから落ち着くんだ」


 そんなこんなの会話の中で俺は、トゥーチョからああなっていた理由を聞き出してみたのだが。

 

 (どうやら昨夜見たロコイサ王救出シミュレーションの夢の中でモチャオーチさん(あの老夫)にことごとく返り討ちにい、自信を完全に失い心が折れてしまっていたらしい………)

 

 「でも、夢の事なんだからそこまで気にしなくてもいいんじゃないかっ?」


 「……正夢になったらどうするんだっチョか?」


 「まぁ~そうなったらそうなったでそん時は、そん時の俺が多分なんとかしようとすると思うから問題ないと思う………はず」


 「【何だっチョかっその不安げなカバーはっ! はっきり断言してオレ様を安心させてくれッチョ!】と本来なら突っ込んでやりたいところだっチョが、正夢になった時点で真っ先にリンロがやられていなくなるっチョから特別に今の発言は慈悲じひを込めて聞かなかったことにしてやるっチョ」


 (どんな夢見てくれてんだ……。それじゃあ俺にはもう、正夢論に対しての発言の余地は無い)


 「でもロコイサ王を助けるんなら避けては通れない道だろっ? 正夢にならないことにかけて行くしかないんじゃないかっ?」


 「…………そのとおりだっチョけど……。でもリンロっ……オレ様っ……自信を取り戻さないと不安すぎて、足からオレ様の動きを止めるアイツがっ……不動のエースが出てきてしまうんだっチョ!!」


 その言葉にリンロが無意識にトゥーチョの足元へと視線を落とすと───。


 (何かいるっ!!)


 トゥーチョの足元には全身ダンボールでできた子どものラクガキ顔の中年肥満体のおじさんダンボールが、コアラのようにしがみついていた。胸元辺りには【不動のエース】と書かれている。

 

 「…………分かった……。

 じゃあ……意気込み対決なんてのはどうだろうか?」


 「なんだっチョか……それ」


 「…………ルールはただ、これからロコイサ王を助けに行くにあたっての意気込みを語るだけ。どっちがロコイサ王に対してより強い忠誠心ちゅうせいしんを持っているかの真剣勝負だ」


 「分かったっチョ。それで受けてたつっチョ」


 「よしっ、んじゃあ……あっ。ごめんトゥーチョっ、俺から先に言わせてもらってもいいか?」


 「好きにしてくれっチョ」


 「こ……この度俺は~ロコイサ王を~何となく助けたいな~なんて思ったりもして~それで~できる限りの力を尽くして~ロコイサ王を助けられればいいのですが~~とりあえず頑張ろうかな~とは思っていま~すっ! 以上だっ」


 (どうだっ!これぞ必要最低限の意気込みっ! 只でさえロコイサ王への忠誠心が強いトゥーチョなんだ、これなら絶対に下回れないだろうっ!!)


 「チョキぃーッ!! 何だっチョかッ……その御無礼極まりないクチョみたいな気の抜けた生ぬるい意気込みはッ!……」


 (よしっ! もうこの時点で大丈夫そうだなっ!)


 「それじゃあオレ様ッ言わせてもらうっチョが……。オレ様はあの時ッ!ロコイサ王様に一生の忠誠を誓ったんだっチョッ!!」


 (おぉっ!)


 「でもダブルホワイトコットンキャンディーが恐いッチョォォ~~ッ!!」


 (え?)


 「ロコイサ王様と共に過ごさせて頂く中お近くでお見せ頂くその神々こうごうしいお姿に、日々憧れと尊敬の気持ちを積み重ねてきたんだッチョ!!」


 (おぉっ)


 「でもやっぱりダブルホワイトコットンキャンディーが恐いッチョォォ~~ッ!!」

 

 (何か葛藤かっとうしてるなっ!)

 

 その後トゥーチョのプラス思考とマイナス思考の押収おうしゅうは続き。


 ++++----+++----++-++++-+----───────


 この時トゥーチョの中では、ロコイサ王への忠誠の言葉を抱く度に昨夜の夢が彼の自信をかき消していた。


 「思い出せっ! トゥーチョっ! お前にとってロコイサ王は誰よりも偉大な存在なんだろっ!?」


 リンロがトゥーチョを勝たせたい一心に必死に訴え掛ける。


 「うぅ~~~~っチョうだっチョけどォォォォ~~~~ッ!!─────────」


 激しい葛藤の末、ゲッソリと疲れ果てた表情のトゥーチョの口から溢れ出たのはプラマイゼロの意気込みだった……。


 「…………頑張るっチョ」

 

 (あぶねぇっ!! いやっ!! 微妙だなっ!!!)


 …………仕方ない……もうこれしかない。


 「あの、トゥーチョ。さっき言い忘れていたんだけど、これで勝った方には副賞として朝御飯ちょっと増やすために【敗者を食糧調達に行かせる権】が与えられるんだが……。そういえばこの勝負には審判がいないし正直今の勝負どっちが勝ったのかも分からないんだよなぁ………」


 「ッ!!!」 


 トゥーチョは副賞に対して強く反応を見せて、直ぐに口を開いた。


 「チョほんッ。ならッ……しょうがないっチョからオレ様が特別に審判になってやるっチョ。

 チョれじゃあ今から責任を持って厳正且げんせいか公正こうせいなジャッジを下させてもらうっチョ!

 今の勝負っ!!────オレ様の圧勝だッチョッ!!!! さぁっ!! たった今オレ様の対戦相手から副賞の食糧しょくりょう調達男ちょうたつおとこへと成り下がったリンロよっ!! オレ様を満腹にするため出動するッチョォォーーッ!!」


 (………うん。そうなってほしかった訳だけど………やっぱそうなるんだよなっ……)


 

 

 

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