第十八話:ロコイサ王への忠誠

 ロコイサ王と対峙していたのは短パンを履き、短パン同士を縫い合わせ作られたT短パンシャツに短パン製の帽を被った短パンフル装備の4歳の少年【丹喜鉢たんきばち 当九郎アタクロウ】。彼はビャコイヤの西側に隣接する区域【ポヨチャン】から大人の手のひらサイズ程の甲虫型モンスター【ダゴラッゴビートル】を採集するべくやってきていた─────── 


 「はぁっ はぁっ はぁっ ちぃ~~ッ、お前っ……ダゴラッゴビートルのエサの分際ぶんざいでなかなかやるなぁっ! この角砂糖めっ!!」


 「…………」


 (ああ……もう終わりだっチョ……)


 トゥーチョがそう思った時だった。


 ツンッ!!!!!!

 

 ロコイサ王の顎を上げ上半身を反らせながらの【小さい子供がギリ痛みを感じるかもっ】な一突きが当九郎に炸裂さくれつした。


 「うっ………………う? 

 ガッ、ガシャうわぁ~~~~んっガシャうわぁ~~~~んっボク~~はっよろいを脱いだ泣き虫さ~~~~んっ」


 痛くもないくせに堂々と嘘泣き混じりに歌い始めた当九郎。


 「やぁっ! 泣き虫さんっこんにちはっ!」


 演劇のようにその歌に被せてロコイサ王の背後から謎の声が発っせられるが、ロコイサ王は見向きもしないまま即座にダンボールを当九郎の頭に被せ音を遮断しゃだんする。


 ガバッ


 「───────」


 ダンボールを被せられてすぐ止まった嘘泣きは只の暴言へと形を変え、勢い良く縦に振られ上半身からすっぽ抜けたダンボールとともにロコイサ王へ飛ばされた。


 ひょいっ


 ロコイサ王はそれをあっさりとかわし、その後ろでズボッ!という音が鳴る。その音にロコイサ王が振り返えるとそこには前ならえをした両手でダンボールを突き刺さしている150センチ程の背丈のがたいの良い【ひげケーキ】と書かれたポロシャツ・黒ロングパンツ姿の黒髪ロケットヘアーの少年が立っていた。彼は【丹喜鉢たんきばち 点弾人テンダント】当九郎の実の兄だった。


 「はぁ~っせっかく年一回聴けるかどうかの当九郎の貴重な泣き歌いだったのによ……いやでもそれよりまず当九郎の心配だっ。ふんっ!」


 ベリしゃッ!!


 突き刺さた両手を広げダンボールを破壊し、当九郎へと駆け寄る点弾人。


 「大丈夫か当九郎っ。誰にやられたっ?」


 「ンッ! ンッ! ンッ! ンッ! ンッ! この角砂糖だよっ!」


 ロコイサ王を何度も指を指し当九郎が点弾人へ訴えかける。


 「それで? 当九郎はこの角砂糖をどうしたいんだ? 帰ってホットミルクに溶かして飲むか? それかこの間当九郎が無くしてた【砂糖体型さとうたいけい機長きちょうシュガロボボーン】の四角い心臓の穴に代わりにこの角砂糖はめ込むか?」


 点弾人の提案に当九郎は横に大きく首を振った。


 「いっやだーどっちもいっやだーっ! だって今日はダゴラッゴビートルを捕まえに来たんだからさっ、この角砂糖は絶対にダゴラッゴビートルのエサにしてやるんだッ!!」


 「……という訳だ角砂糖。お前は弟泣かし、それから滅多に聞くことのできない弟の泣き歌を止め俺から感動を奪った───」


 ガシッ


 ロコイサ王のマントが点弾人の思い切り力を込めた右手にぐしゃりと握り込まれる。しかしロコイサ王は微動だにせず。


 「?」


 「だからこうなるんだよぉぉーーーーっ!!」


 ばっ!!


 そしてそのままロコイサ王は冒テントイ録の正面にあるゆるやかな傾斜地けいしゃちに立つ木へ向かい投げ飛ばされた。飛ばされた瞬間ロコイサ王が殺気混じりに木の枝を投げ、当九郎の立っている横の地面に突き刺さす。


 ビュッ!  どズッ!!


 突き刺さった枝の横で当九郎は棒立ちのまま肝を冷やした様子を見せダラダラの冷や汗を流していた。先程とはうって変わった震え混じりの勢いのない口調で当九郎が言葉をこぼした。


 「あぁ~っ……でもぉ~やっぱりさぁっ……。あんなムカつくぅ~……角砂糖で引き寄せたダゴラッゴビートルなんかぁ……いらないかもぉ~っ………」

 

 「えっ? でももう、あんなとこまで飛ばしてはっ付けちゃったぞ?」


 (どうしよう……。とはいえ弟にとって目障めざわりなもんを視界に入れさせちまう訳にもいかないしなぁ……んっ?)


 どうしたもんかと悩み周りを見回し視界に入ってきたのは必死な顔で口をあけたトゥーチョだった。点弾人から見えたその姿は飢えた獣だったのだろう。


 (おーっ、なんかちょうど良さそうなヤツいたわ)


 おいっそこの青い……青いお前っ、何か腹減ってそうだなっ! 今丁度あんな所に弟を泣かせた挙げ句に俺達がこれから捕まえるダゴラッゴビートルのエサになる資格さえ失った残念な角砂糖があるんだけど、食いたいかっ?」


 「チョガウッ! チョガウッ!」


 「ハハっ! きのいい角砂糖かくざとう粉砕獣ふんさいじゅうだなっ! ウンショイっ!!」


 ガシッ 


 ずテンッ!


 「ぐへっチョッ!」


 点弾人に両足を引っ張られ上半身を地面に打ちつけ、そのままジャイアントスイングをされるトゥーチョ─────

 

 グルングルングルングルングルングルングルングル────

─バッ!!!!


 「ほぉ~~らッ! 弱糖じゃくとう強食きょうしょくぅ~~ッ!! 糖に飢えた獣よ~~っ食ってこォ~~いッッ!!」


 ロコイサ王へと完璧な狙いを定められ投げられたトゥーチョが大口を開け一直線に矢のように飛んでいく。


 「チョガ~~~~ウッ!!」


 トゥーチョが肉食獣のような声をあげると木にセミのように抱き付いていたロコイサ王が振り返り軽蔑けいべつの眼差しを送った。


 「我の後ろ姿に発情でもしたかっ! この獣めっ!!」


 カッ!


 足で腰後ろの鞘を蹴り上げるとそのまま背伝いに口元まで運び鬼気迫る勢いでロコイサ王は短刀を抜く。


 バッ!!!!


 「ッ!!?」


 目の前に絶命の文字が見えたトゥーチョは急ぎダンボールをぐるぐる巻きにした長いつっかえ棒生成し、木の根元へと斜めにつき立てロコイサ王から自身の軌道を反らした。


 ぐいんっ!


 「チョほぉぉッッ! そんな目でオレを見ないで下さいっチョぉぉ~~~~ッ!!」


 ゴンッ!!  


 危機は免れたものの勢い止まらずトゥーチョは木に激突。


 「ぐべッチョッ!!」


 その様子を自業自得と言わんばかりの無表情で見た後、ロコイサ王はもう一度足で腰後ろの鞘を蹴り上げ短刀を鞘に納めた。

 

 「フンッなんとか自力で理性を取り戻したか」


 「うッ……いや……違いますっチョ……ロコイサ王……様……誤解ですっ……チョ……。今のは……」


 「?」


 「お~~い何してんだよっ~~!! 早く食っちまえよ~~ッ!!」


 「…………。

 なるほど、そういうことだったか。勘違いをしてすまなかったなトゥーチョよ、続けるが良い」


 ズルり  ズルり  ズルり ズルッ


 ロコイサ王の許可が降りるとトゥーチョは怯えた小動物のような表情と警戒心でゆっくりと木からずり落ちてきた。

 

 「失礼致しますっチョ…………チョがぶッ!! チョがぶッ!! チョがぶッ!! チョめぇぇぇ~~ッ!!」


 食べるフリをしながらウーポシュックスでロコイサ王を超小型ダンボールへと変化させ終え、トゥーチョが振り返り当九郎と点弾人の様子を伺うと─────


 そこには、まるで憧れのものを見るかのようなキラキラとした輝かしい二人の眼差しがあった。

 

 「うおぉぉ~~っ!! 我らがシュガーグッバイビーストの誕生だぁぁーーッ!! 世界中の甘味達かんみたちぃぃ早く逃げてくれぇぇーーッ!! トウ喰万歳ショクバンザイッ!! トウ喰万歳ショクバンザイッ!! トウ喰万歳ショクバンザイッ!!」


 「…………」


 「うしっ! どうだ当九郎っ、これで気分良くダゴラッゴビートル採集に向かえそうかっ?」


 「うんっ! ありがとうっ! 点兄のおかげでもう絶好調だよっ!! あっ! なんか急にどこにダゴラッゴビートルいるのか分かる気がしてきたっ!! よしっ! 点兄あっちに行こうっ!!」


 「…………」


 ダゴラッゴビートルがほぼいないと言ってもいいであろう木々の少ない住宅街方面まっしぐらに走っていく丹喜鉢兄弟の様子をトゥーチョが呆然として見ていると。


 「君っ! 大丈夫かいっ!?」


 さっきまで二人がいた奥、荷車の中で大きく裏返ったモチャオーチの声が響いた。その声にびくりと反応を見せたロコイサ王とトゥーチョは緊張した面持ちで木に張り付いたまま様子を伺う。二人には実際その様子は見ることができなかったが、荷車の中では気絶した配送員を発見したモチャオーチが彼を介抱かいほうする姿があった。トゥーチョだけはその状況を理解することができていた。


 (あー……この距離だっチョもんね、効果が切れて元の姿に戻ってたんだっチョな……)


 タッ 


 木から降りトゥーチョがロコイサ王を元の姿に戻すと、二人は共に配送員へ謝罪と感謝の意味を込め手を合わせその場をあとにした。こうして二人は無事に冒テントイ録及びモチャオーチからの脱走に成功したのであった──────




 無事冒テントイ録から脱出したトゥーチョは、ロコイサ王の案内によりロコイサ王国メデ王宮にやってきていた──────────


 「見事な大功たいこうであったぞトゥーチョよ」


 「身に余る御言葉を頂き、至極光栄ですっチョ」


 ロコイサ王は辺りを見回し少し考えた様子を見せると。


 「すまぬトゥーチョよ、ここで礼をと思ったのだが生憎あいにく我は今手持ち無沙汰ぶさたの状態だ。その為今すぐに我がお主に与えられる褒美はこの国の中での永住権及び自由権、それとそこらに生えている木の実程しかない。これからお主の進んで行く道には要らぬものかもしれぬが、もしここに立ち寄ることがあればその時は自由に使ってくれて構わぬ。無論ロコイサ王国再興させた後に改めてお主には此度こたびの対価に相応ふさわしい珠玉しゅぎょくの褒美を贈らせてもらう」


 「あ……ありがとうございますっチョ。

 恥ずかしながらこの身体になってからは自分の進みたい道などというものはなくずっと途方に暮れながら毎日食べる物だけを探しながら生活していましたので、正直今の自分にとっては食と住を頂けることは願ってもいないことですッチョっ」

 

 「そうか……であれば追加で一つ提案しても良いか?」


 「チョい?」


 「これはお主の才を見込んでの頼みだ。トゥーチョ、お主我の臣下としてこのロコイサ王国の再興を手伝う気はないか? 勿論只でとは言わぬ。再興を遂げた暁には、命を掛けてでもこの国での地位も褒美の賽も不自由なくお主が生涯最高の生活を送れるよう我が保証しよう。


 ……とはいえ、今のこの国の状態を見てもらえればそれが難儀なことはお主にも明白だろう。道は長く気が遠退く程の労力も要す。だからお主が良ければで強いるつもりはない、後で気が向いたら答えをくれ」


 「………………。

 

 ……オレは……一度全部なくしてしまいましたっチョ………。正直これからの自分の人生なんてお先真っ暗としか思わなかったっチョ……。ですので……そんな0になったオレのこの生きる道に過去の栄光にも勝るそんな目標を頂けるのであれば、それはオレにとって本望でしかありませんッチョッ!! ロコイサ王様っ! こんなオレなんかでもよろしければっ、是が非にっ! 貴方様に忠誠を誓わせて下さいっチョッ!!」


 「そうか……その言葉を聞けてこの上ない限りだ。感謝するトゥーチョ、では向後万端こうごばんたんこれからよろしく頼むぞ」


 「はいっチョッ! それではまず手始めに先程ロコイサ王様にご無礼のオンパレードを働いていた、将来ロコイサ王国にあだをなしそうなあの不穏分子共ふおんぶんしどもからこの調教ダンボールでしっかりとしつけて参りますっチョッ!!」


 「待つのだトゥーチョ、そうまでせずとも良い」


 ロコイサ王の言葉にトゥーチョがピタリと足を止める。


 「お主が我を思い怒ってくれるのは嬉しいが、あ奴らのような道を分からぬ童子を許してやるのもまた王の務めなのだ。

 そうだな……あの童子らはダゴラッゴビートルを好いていたようだったからな、国を再興させた後にでもあの者達の住む家をダゴラッゴビートル1万匹付きの角砂糖でできた家に建て替えてやるとしよう」


 パチペチパチパチポンガンキンカッパチパチペチトンッ!! 


 その言葉を聞いてすぐトゥーチョは、ロコイサ王に拍手ならぬ全身を使った【拍全身はくぜんしん】を送った。


 「なんとですかっチョッ!! 許しを与えたうえで更に下賜かしまでなさるとは………ロコイサ王様のお器は寛大極まりないですっチョッ!! こんな王様一生ついていきたいですっチョッ!!」


 「フンッその我のあがめ方………やはりお主は才があるなっ!」

─────────────────────────────────────────



 

 「あ~思い出したら、ロコイサ王様を救出したすぎてたまらなくなってきたッチョなぁ~っ!! 早く寝て夢の中でロコイサ王様救出シュミレーションしまくって明日に備えなければいけないッチョッ!! 

 リンロっ! 明日はお互い死力を尽くしてロコイサ王様を絶対に救出するッチョよッ! チョれじゃあっ、おやすみッチョ!!」


 (……いや、最後のは確実にロコイサ王がその兄弟のこと根に持ってる発言だと思うんだが……。

 それにこうも執拗しつようにモチャオーチさんがロコイサ王に執着しゅうちゃくする理由は一体何なんだ?)


 「ん……ああ、おやすみ……ってあらっ?」


 チョ~~かぁ~チョ~~かぁ~チョ~~かぁ~


 俺に話を聞かせるだけ聞かせたトゥーチョは自分の心に溜まっていたよどみを出しきって安心したのか、俺を置き去りにして眠りについていた。


 秒で寝ちまってるし……。

 んでこれはー……話が終わったってことで……いいんだよなっ?



 「ふぁ~あ。んじゃ、俺も寝るかなっ」


 


 

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