第四.五話:デマ情報ご苦労さん

《翌日午前10時》

 ハレタカヨ中心区域【ワツトイ】──────


 ここワツトイは、ハレタカヨの中でも2番目に発展が進む大きな街だ。

 この広大こうだいな土地にあまる空き地は少なく、土地はほとんど超難関迷路ちょうなんかんめいろのような道と多くのビルやタワー・数多あまたな職種のお店・宿や温泉など人工的じんこうてきなものでめつくされている。

 どこを見ても興味がかれるようなおもしろい造りをしており、見ていてきない楽しめる外観がいかんだ。

 そんなこの街は人口も多く、ワツトイに初めて来る人のほとんどがここでの日常をよくお祭りの日か何かと勘違かんちがいするくらいだ。


 今日もワツトイはいつも通りのにぎわいを見せていたが、ただこの日はその賑わいの中によく目立つ慌ただしさが混ざり混んでいた。

昨晩トンロワラグの惨劇跡さんげきあとを発見した人からの通報があり、ハレタカヨに存在する警兵組織けいへいそしき【アガリテンバツ】がハレタカヨ各地に警福隊けいふくたいを配備し犯人の捜索そうさくへと乗り出していたのである。

 


 「ぬおーいっ!! こっちだぁーすっ! 犯人はんにん捕獲完了ほかくかんりょうしましたぁぁあっ!!」


 そう狂ったように叫んでいるのは赤いツンツン頭の上から白いキャップ・水色のYシャツの上に自身よりもオーバーサイズの白いパーカーを羽織はおった、二重ふたえまぶたのいかにも陽キャ顔といえる【赤品染あかしなぞめソモ】というよわい16の少年だった。


 そしてソモに犯人呼ばわりされて捕まっているのは、首もとが隠れる長さの黒髪に全身黒い制服を着た【時君天ときくんてんスレチサ】という少年。昨晩トンロワラグにいた青年とはまったくの別人である。


 二人は幼い頃からの旧友であり、いわばこの状況は友達同士ののおふざけ真っ最中という感じだ。


 「おいバカっ、やめろって」


 ソモが嫌がり抵抗するスレチサの腕をつかみ遠くからやってくる警福隊へ手を振り猛アピールしていると、それに気付いたらしい警福隊の車両しゃりょう道路脇どうろわきに寄って二人の目の前に車を止めた。


 ウィーン

 

 ゆっくりとリアドアガラスが下がる。


 そこから顔を表したのは顔面に大小様々な傷跡をつくり全ての歯がサメのように鋭く尖っていて、表情だけで人を殺せかねない鬼のような顔面凶器がんめんきょうきを持った短髪たんぱつの20代後半の男だった。

 男の名は【劇川げきかわ タママ】

 

 タママが二人を一瞥いちべつし言う。

 

 「デマ情報ご苦労さん、クソガキ共」


 空気にえられず、とりあえず声を出すソモ。


 「………………ヒャッ」

 

 全身を震わせたスレチサが深く頭を下げ謝る。

 

 「………………本当にすいませんでしたっ!!」


 

 一瞬二人にとって地獄のような空気が流れたが、タママはそれ以上何も言ってくることはなかった。

 

 ただ、去る直前までタママは顔面をリアドアガラスに押しつけて二人をじっと見てきた。

 ガラスに顔を押し付けた場合、常人なら変顔になっているところだがタママの場合は違った。まるで恐怖を越えたその先のような顔をしていた。 

 

 その後タママを乗せた車が完全に見えなくなると二人は、溶けかけのアイスのような安定しない足を精一杯動かし近くにあったベンチへと腰を下ろした。

 二人は目をつむり、急いでタママの存在を記憶から抹消まっしょうすべく楽しい妄想もうそうを始めた。


 これにより、二人の想像力は驚くべき進化をげたのだった。


 結局タママを記憶から抹消するのは不可能だったが、とりあえず落ち着きを取り戻した二人は再び歩き出していた。


 スレチサが大きなタメ息をつく。

 

 「あーハズっ。お前のせいでめっちゃ睨まれた……」


 「まぁそう落ち込むなって。

 今のはな、冗談じょうだんという名の俺達の友情だけに許された禁断きんだんの遊びってやつだ。

 だからあのオニンケンシュタインのことなんてただの遊びの中のスリルだと思ってればいいんだよっ。気にすんな。


 ところでさ、今朝からずっと気になってたんだけど………こりゃ一体何事だ?」


 スレチサが感情のない目をソモに向ける。


 「…………。

 お前さ、一回自首して無知罪むちざいとかで捕まってきてくれ」


 スレチサがそう言葉を放つと、ソモはひざから崩れ落ちわめき始めた。


 「ふぃっ!? ふぁっ!? ふぅっ!?

 何だよそれっ! 友達に捕まってこいとか酷すぎだろお前っ!! 

 いくら友達でも言って良いことと悪いことがあんだろっ!!」


 ソモのその様子を見たスレチサは顔をひきつらせ引いていた。


 「ジョーダンに決まってるだろ……。お前がさっき言ってた俺達だけに許された禁断の遊びってやつだよ。

 冗談じょうだん言うくせに、冗談通じないとかめんどいなお前……。

 てか、さっきそれを実際に行動に移したやつに言われたくねえよ」


 「…………そうだったのかよ、まんまと騙されたぜ。

 結構ムズいし、すぐ関係ぶっ壊れちまうなこの遊び。

 たぶんこのまま続けてたら、明日にはお前消えちまうから一回この遊びは封印しようっ」


 (どちらかが消えるんじゃなくて、消える方……俺確定かよ)


 「よしっそれじゃあ、封印の合言葉は【ごめんなさい】でいくぞ。せーので互いに合言葉を言って頭を下げるんだ」


(ふっ、なんだよ封印の合言葉って。恥ずかしがり屋なりの照れ隠しってか。まあ、なんだかんだ言ってソモは……)


 「せーのっ!!」


 「ごめんなさいっ」


 スレチサは封印の合言葉を言って頭を下げた。


 (ん? あれ、おかしいな? 今ソモのやつ「ごめんなさい」って言ってたか?)


 そう不審に思いスレチサが顔を上げると、ソモは勝ちほこった顔であおり散らかしめっちゃガッツポーズしていた。

 目が合うとソモはその接着剤せっちゃくざいでくっついているかのような拳で両頬りょうほほを引き上げ、仏のような笑みをスレチサに見せた。


 「これで封印されました」


 (コイツっ!!)


 

 それから二人は何もなかったように肩を並べて再び歩き始めた。


 「ほら向こうにあるドでけえ空間映像クービー見えるだろ? あそこに映ってるニュース通りだよ。

 昨日の夜、トンロワラグの公園で二人の男の遺体が見つかったんだと。しかも相当酷そうとうむごい状態でな。

 一人は分かんねえけど、もう一人はあのエンクローターズ育成学校の生徒だったらしい」

 

 「えぇっ、まじかよそれ。………犯人はどうなったんだ?」


 「このサイレンパレード見りゃ一目瞭然いちもくりょうぜんだろ? いま逃亡中とうぼうちゅうだよ」


 「そうか…………」


 「なあスレチサ」


 「どうした?」


 「俺さ、正直このまま見てみぬをフリした第三者のままでいようと思ったんだ…………でもそれじゃダメよな?」

 

 「え? 何だよお前知ってて聞いてきたのかよ……うざ。

 無駄口開むだぐちひらかせた代よこせ」


 「いや、悪いがそのお代は払えない。

 状況を今初めて知ったのはまぎれもない事実なんだし」


 「は? ワケわからん」


 「しかし俺が第三者ではないのも事実だ。

 なにせ今お前から聞いた情報と俺の過去と照らし合わせたことで、たった今俺は犯人をみちびきだしちまったんだからよ……。


 これも全部転生てんせいされた前世ぜんせ神探偵かみたんてい】だった頃の俺の頭脳が、現世で開花されて【しん神探偵かみたんてい】へと進化しちまったせい……なのかもな」


 「…………。まあ、そのイタイ発言は置いておくとして。一体犯人は誰なんだ? 証拠しょうこはあるのか?」

 

 十中八九じゅっちゅうはっくソモの言うことを信じてはいなかったスレチサだったが、念のため聞いてみることにした。


 「まあ落ちつけよおバカさんっ、今からゆっくり教えてやるよ。


 《ここから、ソモの喋り方がスローモーションになる》

 しん~の~かみたんてい~って~の~は~な~、いっさい~の~じょうほう~し~で~も~はんにん~が~~か~っち~ま~う~も~ん~な~ん~だ~ぜ~」



 「………………やっぱりか。にしても全然頭に入ってこないな……何倍速だよこれ。

 この分だとおそらく理解できたところで、言ってる内容も意味わからんと思うから別にいいけど」


 (そんなことよりもたぶんお前は前世【妖怪ようかいバカの塊小僧かたまりこぞう】とかでバカの部分だけが全て転生されて、そのバカさを現世で進化させちまった真のヤバいやつだろう)


 「犯人は──────あの鬼ンケンシュタインだぁぁっ!!」


 「違うだろっこの決めつけ星人っ!」


 「じゃあ──────あいつだぁぁっ!!」


 「………………」


 ソモが指を指した先にいたのは、電話中のカウリだった。




 


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