第二話:唯一の繋がり
リンロが景色を眺め自身の命に
突如広場へと足を踏み入れ、リンロのいる方へ近づいてくる影があった。
ザッ
「おっ、いたね!」
そう言ってやってきたのは半袖の丈の短い羽織を
「お~いっリンロ~っ!!」
「……カウリか」
今俺を呼んだこの黄色髪・ショートバング・高い位置で結んだヒマワリのようなちょんまげ・俺の真似をし長いもみあげをしたコイツの名前はカウリ────
俺がこの世で唯一仕方なく繋がりを保っている人間だ。
もちろん……始めはカウリも例外じゃなかった……。
関係性を
だがその度にカウリは俺を見つけ、どこまでも追いかけてきた。
コイツのは嗅覚は以上だ。
それにいくら俺が運動不足とはいえ、リャンガであるこの身体のポテンシャルは
にもかかわらず、カウリは俺の動きに余裕でついてこられた。
運動能力においては、人間観で言えばおそらくバケモノや天才と言われるレベルだろう。
んである日こいつからは逃げきれないと悟った俺は逃げている最中何度かカウリに触れちまいそうな危険な場面もあったため、それも踏まえ不用意な行動をとるのをやめることにした。
カウリのためにも自分のためにも俺は観念して、一定の距離を保つのを条件にカウリとの繋がりを承認した。
それからというものの、なぜか分からんがカウリはずっと俺の生活の手助けしてくれている。
そんなカウリの行動が全くもって理解できなかった俺はある時、なんでこんな俺みたいなこの世で最も最低な命にここまでするのか何一つメリットもないのになぜ関わろうとするのか直球で聞いてみたことがある。
その時のカウリ答えは同様に理解できないものだった。
結局どうにもならないままその日々は続いた。
いつ恩を仇で返すやも知れぬ俺にひたすら恩を恵んでくれるカウリとのこの不公平な関係性は、俺にとっては正直むず
だから今は少しでもそのむず痒さを抑えるために、俺はカウリのことを余程のお人好しなのだと割りきるようにしている………。
リンロは立ち上がりカウリの居る方へと歩みを進め始めた。
日がもう間もなく沈む頃────
距離をとって広場を後にする二人のことをリンロがさっきまでいた所からは、一匹のペンギンのような身体をした二足歩行の虎が見ていた。
ロコイサ王国内西端────
そこにはリンロが暮らす
櫓の建つ崖の中には、かつて噴水や人工滝とされていたとされる跡が残っている。
そして崖下に広がるのは、今でも随分濃い面影が残る豪華な庭。
日が沈み辺りが暗くなる中、その庭の一角で焚き火を囲み座る二人の間には沈黙が流れていた。
「………………」
俺がさっきから黙っている理由は、この目の前に置かれた謎のケーキのせいだ。
《俺とカウリらしき二人の顔と3という数字が描かれたロールケーキ》
そしてカウリは、ケーキを見た俺の反応を黙って伺っていた。
よって二人の間に沈黙が成立した。
沈黙の中で俺が(ケーキを見たのなんていつぶりだろうか)なんてことを考えていると、見かねたカウリは沈黙を破り謎のケーキについて説明をし始めた。
「つい最近知ったんだけど、それはねっケーキっていう食べ物らしいんだ。
世間では主に、祝い事やおめでたい時によく食べられるものみたいなんだけど……ってリンロは知ってるか。
とまあ、この前僕にケーキの存在を教えてくれた人にケーキの作り方教えてもらったんだ。
でねっ! 今日で僕と君が友達になってから丁度3年目だったから、これはおめでたい日だなって思ってせっかくだから作ってみたんだ。
よかったら食べてみてくれないかなっ」
そう言われた俺は、ケーキの手前に置いてあったフォークへと手を運んだ。
「い……ただき……ます」
はむっ
(……全然気付かなかった…………3年………もうそんなにたってたのか。カウリは3年もずっと、俺のこと支えてくれていたのか……)
俺が一口目を食べた時に感じていたのは、味よりも知らない間に過ぎ去っていた3年という月日の重みだった。
「どうかなっ!!」
ハラハラドキドキした様子でカウリがリンロへ感想を求めると、リンロはフォークを置いて言った。
「……ごめん」
「エっ!?」
まさかの返答に衝撃を受けるカウリ。
なぜならカウリにとってこのケーキは自身が全身全霊丹精込めて何度も作った内の最高傑作のケーキであったばかりに、いって少しは美味しいと言ってもらえる自信があったからである。
見事に打ち砕かれたカウリの心の中はすごく動揺していた。
(えっ!? うそっ!? そんなにっ!? 謝まられるくらいっ!?
おかしいなっ……何度も味見もしたんだけどなっ……。もしかして僕って味音痴なのかなっ!?
ヤバい、きっとここから怒涛の批評の嵐がくるんだ……覚悟するんだ僕っ!! 酷いものを食べさせてごめんっリンロっ!!)
カウリが緊張に包まれる中、リンロが口を開く。
「ごめんカウリ。俺……三年もお前の時間奪っちまった」
そのリンロの言葉を聞いたカウリは自身の勘違いに気付き、ホッと一安心した。
それからカウリはポケットから数取器を取り出し、一回分加算した。
カチッ
798→799
この799という数字は、リンロが今までカウリにとってどうでもいいことで謝った回数を表している。
「も~またそんなことで謝って。いつも言ってるじゃんか。
僕は好きで君のことを支えてる、だから謝まる必要はないってさ。
それに、君が本当に謝まらなくちゃいけない人は他にいるだろう?」
「…………」
「ミハリちゃんはさ……生きているかもわからないずっと探しても見つからない君のこと、ずっと生きてるって信じて待ってるよ。
君に言わないでくれって頼まれてるから、ミハリちゃんには君のことは内緒にしてるけど。会う度にあんなに君を信じる姿見せらちゃうとさ、同情だって隠せなくなりそうにもなるよ。
もうそろそろ、生きてるってことくらい伝えてあげてもいいんじゃないかな?」
「だめだ」
俺はカウリのその意見を即否定した。
「ずっと支えてきてくれたお前の意見を否定すんのは、本当に申し訳ないと思ってる。
でも、それだけはどうしてもできない……。
仮にミハリに本当のことを言ったとして、その後アイツがどんな行動に出るか分からない。
もしそれでミハリに見つかるようなことがあって、その時万が一俺があいつに一瞬でも触れでもしちまったら俺は一生後悔する。
取り返しのつかないことになるくらいなら、止まったままでいた方がいいんだ…………。
だからこのままの状態を保ったままでいさせてほしい……頼む」
そんな俺の
「そっか………。
でもまあ、そうするならそうするでミハリちゃんの気持ちくらいはちゃんと汲み取ってあげなきゃダメだよ」
「ああ……分かってる………」
それからまた二人の間に少しの沈黙が流れたが、今度はその間満月が優しい光で二人を包みこんでいた…………。
「さてとっ。それじゃあ僕はそろそろ、ここらでおいとまするとしようかなっ」
そう言って立ち上がったカウリの滞在時間は、いつもよりやけに短かった。
「……もう帰んのか?」
「うん……ちょっと明日は早くてねっ。ミハリちゃんにお買い物の付き添いを頼まれたんだ」
「そうか……そんじゃ気を付けてな。ケーキめちゃくちゃ美味かったよ……ありがとな」
俺がそう言った後、カウリは帰ろうとせず何故か立ち止まったまま俺のことをじっと見てきた。
「?」
どうしたのか聞こうとしした次の瞬間、俺の顔から拳一個分の距離にカウリの顔があった。
「ぬおっ!!? おいっ!! 急に近づくなよっ!! 死ぬぞバカっ!!!!」
予期せぬカウリの行動に俺はくそビビっていたが、目の前にいるカウリは違った。
触れたら即死するのは自分の方なのに、こいつは至って冷静でそこから堂々と面と向かい俺に言った。
「君がどんな道を歩もうと僕は君のこと全力で支えるよ。君が変わりたいって思ったのなら、その時ももちろん全力でね」
その言葉に俺は、何も言葉を返すことができなかった……
どんな表情をしたらいいのかもわからなかった……
ビビった衝撃が残ってたのもあってか、心臓がバクバクしたまま頭がよく回らず少しボーッとしていた。
鼓動が落ち着いて俺が思考を取り戻す頃には、既にカウリの姿は見えなくなっていた。
「…………」
(変わりたい………か)
あの頃なら、まだそうすることができたのかもな……………
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