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side.Madoka




「忍サンは、円サンとキス…した事が、あるんですか?」


いつから聞いてたんだろうか…

昴クンはキスの件にもの凄い形相で食いついて。


そのあまりの気迫に、

忍サンは困ったよう首を傾げる。





「キスっていっても~円ちゃんが小学生の頃の話よ~?」


忍サンが必死に弁解するも、

今度は兄ちゃんが意地悪く一笑し…




「コイツ円が気に入って餌付けしてさ~。円のヤツもその気になっちまって“忍クンと結婚する~”とか言ってたっけか?」


兄ちゃんの余計なひと言のおかげで、更に逆上する昴クンは。



今度はオレを振り返り、ズンズンと迫ってきて。

「本当なんですか…?」と、肩を掴まれ問い質されるのだけど…





「はは~…いや、その…全く身に覚えがなくって…」


そう、無いのだ。

兄ちゃんの友達ってかなりの個性派揃いだったから。

記憶に残ってそうなのになぁ…。



特に忍サンみたいに、綺麗なお姉さんの記憶が無いだなんて…どうも腑に落ちやしない。



…と、オレが途方に暮れ、言葉に詰まっていると。

徐に兄ちゃんと忍サンが顔を見合わせる。



それから何か思い出したよう、ふたり同時に

『あっ!』と声を上げた。






「そういえば、こないだ話そうとして…忘れてたんだわ~。」


うんうんと頷くふたり。

…てかそこだけで納得されても困るんですけど…と。切実に目で訴え掛ければ。


またもやうちの兄ちゃんが、あくどい笑みを零した。






「円、ホントに覚えてねぇのかお前?」


ニヤニヤと楽しそうに聞いてくる兄ちゃん。

昴クンまで「どうなんです?」と凄んでくるから、

オレは必死で何度も頷く。




「いいか?俺と忍は同じ高校だったんだ。で、良く帰りに制服のままチームのヤツらと家に転がり込んでただろ?」


そうだっけ?…と、

兄ちゃんの高校時代を思い浮かべる。


……んん?






「そうそう。始めは遥に一目惚れしちゃって。私ったら素直になれずに、ついタイマンとか仕掛けたりしたのよね~。」


あの頃は若かったわ~と忍サン。


忍サンが兄ちゃんに惚れて、た?

あれ…あれ?





「コイツにはビビったよ…付き合ってくれとか言いながら、回し蹴り食らわせてくっからさ~。」


「あの頃の私はウブだったのよ~。まだカミングアウトする前だったし?」



ついて行けないオレを置き去りに、

ふたりは互いの思い出話に花を咲かせ始め…


オレと昴クンはただ茫然としながら、

成り行きを見守るしかなかったんだけど…。





「ちょ、ちょっと待ってよ…」



多分、間違いじゃないと思う。


忍サンの台詞の端々で感じた違和感といい、

兄ちゃんの通ってた学校出身て話といい───…


今はっきりと解ってしまった。




どうりで忍サンの記憶が無いはずだよ…。


だって目の前の美人さんは、

オレの知ってる人とは、かけ離れてるんだもの…。







「つまり、忍サンはさ…」


妙な緊張に苛まれながら、恐る恐る口を開く。





「おっ…おとこの人……?」


「ウフフ、やっと思い出してくれたのね!」


ぱぁっと目をキラキラさせ、

ギュッと力強く抱き付いてくる忍サン。



目の前の昴クンはあまりにビックリし過ぎて、

反応出来ずにいたけど。





「忍はチームの副総長だったんだ。今はこんなナリだが…中身はガッツリ男だかんな。」


気をつけろよ~と兄ちゃんに言われ納得。

どうりで抱き付く力がハンパないなと思ったんだよ。


てか、かなり痛いです…。

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