24



side.Madoka





『ふくそーちょーの忍クン』


…うん、確かに。

良くお菓子くれて。オレのコト可愛がってくれてたっけ。



あの頃は確か、ヴィジュアル系の綺麗なお兄さんだったと思う。


そういえば話し方も、ちょっと変わってたかもしれないな…






「あの頃は、円ちゃんに会いたくて毎日通ってたんだからっ。大学でた後くらいから、私もこんなになっちゃって…ご無沙汰だったけどね~!」


「あ~…そうなんだ……」


「円ちゃんなら、お婿さんでもお嫁さんでも大歓迎だからぁ、いつでも私の所に来ていーからね!」



そう一気にまくし立て、頬擦りする忍クンに。

漸く正気を取り戻した昴クンが、慌ててオレの腕を掴み、引き離す。





「待って下さい!円サンは俺の恋人なんですよ!」



忍クンの冗談みたいな台詞に、本気で突っかかる昴クン。




「あら…あらあら~、ふたりってそういう関係?」



忍クンは口元を押さえ、兄ちゃんに向かって問いかけると…呆れながらも肯定的な短い返事が返ってきて。


それを聞くなり忍クンは、ニコニコと満面の笑みを浮かべる。





「そうだったの~。ごめんなさいね、私ったらつい浮かれちゃって…」


邪魔するつもりは無かったのよ、

と申し訳なさそうに手をパタパタさせた。





「え…?オネーサンて男なんスか!?」


「いや土屋、お前はフェードアウトしてていーから。」


今更な横槍を入れる土屋クンに、

森脇クンが空気を読めと鳩尾をひと突きして…

土屋クンは床に崩れ悶絶してしまう。



ちょっと可哀相…。





「賑やかだなぁ~お前のダチは。」


ケラケラ笑い飛ばす兄ちゃんの横で、

晃亮クンも静かに頷くと。





「土屋はあたまが残念なんだ。」


真顔でそう言い放っていた。






「ちょっ…そりゃねーだろよ、晃亮~!」


土屋クンが涙目で食って掛かるけど、

晃亮クンはしれっとしていて。



普段から冗談とか言わない晃亮クンの言葉が、

土屋クンも相当ショックだったみたい…


そんな彼を、なんだかんだ宥めてあげる森脇クン。




ほのぼのとしたその光景を、遠巻きに眺めながら。

オレは自然と笑みを零した。








「円サン、こっち。」


和気藹々と賑わう中、

昴クンに耳打ちされ手を引かれて。





「どうしたの?昴クン…」


ドキドキしながらカウンター席に導かれ、

丸椅子へと座らされる。



昴クンは質問には答えず、

悪戯な笑みで目配せすると。


そのまま軽快にカウンター内へと入って行った。






「約束したでしょう?コーヒーをご馳走するって。」


そう告げて、器用に作業を始める昴クン。

覚えたばかりとは思えないくらいの手際良さで、


凄く格好いい…




程なくして、コーヒーの良い香りが辺りに立ち込めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る