5
side.Subaru
「やだぁ~久し振り!元気してた?あんな小さくて可愛かったのに、すっかり大きくなったわね~。」
「え、と…」
「私の事覚えてるかしら?ほら、良くお菓子とか上げたりして~。一緒に遊んだりもしたのよ~!」
感動の再会とばかりに、
ハイテンションで円サンに頬擦りする忍サン。
上司…しかも女性で円サンとも知り合いみたいだったから、表情には出せないが…
内心はかなり、複雑だった。
けれど当の円サンは、
彼女の事を全く思い出せない様子で。
困ったように眉根を下げ、
オロオロと言葉を濁していた。
「あ!…そっかそっかぁ~、そうよね~解んないわよね~。」
そこでハッと何かに気付いたよう、忍サンはぽんと手を打って。
自分だけ納得して、
ウンウンと頷いた忍サン。
更に何か言おうとして、口を開きかけたんだけど───…
「オーナー、ちょっとこっちお願いしま~す。」
「…あらら呼ばれちゃったわ。ごめんなさいね、円ちゃん。また今度ゆっくり話しましょうね~。じゃあ、昴くんも頑張ってね。」
店の奥からスタッフに呼ばれ、
残念そうに苦笑すると…
忍サンは去り際、
俺に向かってこなれたウィンクを飛ばし…
優雅に去って行った。
そんな一連の行動に、暫し茫然とするものの。
俺は気を取り直し、
もう一度円サンの方へと向き直った。
「そう言えば円サン、何か用があったんじゃ…」
けれど円サンは、
更に表情を曇らせていて…
「あ、ううん…今日はもう…帰るねっ!」
そう告げると、俺が制止する声も聞かず。
まるで逃げるかのように…
何気に後ろに立っていたゴミを無理やり引っ張って、レジへと向かってしまった。
去り際にゴミ虫が、
何か円サンに耳打ちしていて。
「もうっ、うるさい!」
「あだっ!」
珍しくも円サンが、怒ったようにソイツをグーで殴り飛ばしたかと思うと…
一度も俺を振り返る事も無く、
足早に店を出て行ってしまった。
「まどか、帰ったのか?」
「え……あ、ああ…」
奥から顔を出した晃亮に、
曖昧な返事をするも落ち着かず…
(…なんだ、今の……)
モヤモヤと蠢く、黒い感情。
気のせいだって思いたい。
けど今の円サンの態度は、明らかにおかしかった。
帰ると言い出した時、
一度も目を合わせてくれなかったし…。
体調でも悪かったのかもって…色々考えてみるが。
ゴミと話してた円サンは、そんな風には見えなかったし…。
俺が初めて好きになった人。
自分がこんなにも欲深いと知ったのは…
貴方と再会したあの日から。
(円サン…)
解ってる、
そんな気にするような事じゃない。
ダチとのやり取りも、
さっきの忍サンとの接触も。
日常的に、当たり前な事…
いちいち気にしてたらキリがないんだ。
(こんなんで、耐え切れるんだろうか…)
俺だけ見て、俺だけ感じて
誰にも触れないで、
触れさせないで─────…
そんな邪な心に、
支配されそうにな自分が…怖い。
初めて貴方に目を逸らされただけで俺は…
こんなにも、心乱されてしまうから。
その日バイトから帰宅した後、
円サンは普通に接してはくれてたけど…
よそよそしさは、拭えなくて。
ぎこちないまま、
同じベッドで背を向けられて…
重く永い1日が…いつの間にか、終わりを告げた。
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