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side.Subaru




「えと…ごめんねっ、まだ忙しかったでしょ?」


「いえ、ピークは過ぎましたから…。食事もされますか?」



水の入ったグラスをテーブルに置き、

メニューを差し出して。


円サンは顔をほんのり上気させながら、

楽しそうに注文を選び始める。






「じゃあ、日替わりランチにする~!」



あれこれ迷いつつ満面の笑みで告げられ、

メニューを受け取ると。





「まっ…円ぁ~、さらっと置いてくなよ~!」



復活したゴミ虫がこちらにやって来たので、

円サンに恭しく一礼すると…俺はすぐにその場を後にした。





「え…俺の水、ないの…?」


「あっ……え~と、あはは…」



そんな普通のやり取りさえ、腹立たしいことこの上ない。



無視を決め込んだら、

ゴミは俺じゃない他の店員を捕まえて…

円サンと同じものを注文していた。



アイツの存在そのものが、ウザくて仕方なかったが…

円サンの友達なんだからと、そこはぐっと堪えた。







円サンが来店して30分程…時刻が午後2時を回った頃。




「頑張ってるわねぇ、昴くん。」



この店のオーナー、忍サンが颯爽とやって来た。





「どうも…。」


バイトを始めて二週間、

この人と会うのは面接を入れて3回目になる。



遥サンとは古くからの友人で。

どうやらこの人も同じ筋…ようは不良仲間だったらしく。


遥サンからは『怒らせると怖ぇから。』と…意味深な笑顔で忠告されたのが、ちょっと気になる所だった。







ぱっと見は、

スタイルが良くモデルみたいに背の高い美人。


腰まで伸びる黒髪が、

知的さの中に色気も持ち合わせていて。

キャリアウーマンと言った…『出来る女』の印象を思わせる。



女性としては、ちょっとキツそうな雰囲気だし…

元暴走族だった遥サンのように、元レディースだとか言われたら。充分納得できるかもしれない。






「貴方バイト未経験って聞いてたけど、しっかりしてるじゃないの。晃亮くんはちょっとぽや~としてて…まっ、そこが可愛いんだけど~!」



…晃亮を可愛いとか言う辺り、

この人はだと思う。



とはいえ今の晃亮は、随分大人しくなったし…

黙っている分には顔も良いから。


強ちその表現も、外れてはないだろうけど…。






「最初はダントツ顔で採用したんだけど~。今じゃこの店の看板ムスコよ、貴方達!これからも宜しく頼むわね~。」


そう言ってガシリと手を握られた。

地味に握力強くて、痛い…




かなり個性的な女性で、悪い人じゃないんだけど…


取っ付きにくいと言うか…

その後も解放されず、延々と話に付き合わされてしまうので。


仕事中なのに、いいんだろうか…?






なんだかんだと、15分程捕まっていたら───…




「すっ…昴クン……」



遠慮がちに円サンから声を掛けられ、

慌てて振り返る。





「円サン、どうしたんですか?」



何故か元気がなく…しゅんと俯いたままの円サンが気になり、顔を覗き込む。と…




「あら?…あらあらあら!もしかして円ちゃんじゃないの~!」


「えっ…?」



突然騒ぎ出したオーナー、忍サンに話し掛けられて。

あからさまに動揺する円サン。



そんな様子を気にも止めず、

忍サンは少女のようにはしゃぎ出すと… 


思い切り円サンへと、抱き付いていた。

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