零の無能の無双劇

椎名 アヤメ

第一話:異世界へ転生!

『魔王様。ようやくこの時が来ました。あなた様にお仕えできるこの日が……』


 プツリと通話が切れるような音が僕――ノア・ガヴリエルの脳に響き渡り、目を覚ます。


 何だろう、あの夢。魔王様ってゲームの最終ボスだよね? なぜそんな夢を見たんだろう。


「ノアさん。今は授業中ですよ」

「あっ! すいません!」


 何だ、やはり夢だったんだ。僕が最終ボスになれる訳ないもんね。それに今は授業中だったんだ。でもどうして普段居眠りしない僕が寝てしまったんだろう。

 

 と、僕は考えていると授業の終わりの鐘が鳴る。


「はい、皆さん。授業は終わりにします。来週からのテストまでに課題をきっちり終わらせてくださいね。とくにノアさん」

「わかりました」

「はははは!」


 金城きんじょうくん、やっぱり僕のこと嫌いなのかな? いつもいつも僕ばっかり笑って。


「ねぇねぇ、ノアくん。授業のノート取って無かったよね? これ貸してあげるね」

「あ、ありがとう。南川みながわさん」

「大丈夫だよ。ノアくんは優しいからね」


 南川さんはやっぱり、神様的な存在だな。転校初日、回りと馴染めていない僕の所に来て、学校を案内してくれるし、友達も紹介してくれるし。


「さてと。ノート取ろうかな」


 刹那、僕の真上からピピピピ……と言う音が小さく聞こえてくる。


 何だろうこの音。上からだよね?

 僕は上を見上げると、ガムテープで天井に貼り付けられていた爆弾のようなものを発見する。


「ば、爆弾だ! 皆逃げて……」


 そして僕の人生は終わってしまったと感じる。


◇◆◇

 

 あぁ僕死んだんだ。だから体の感覚がないのかな?


「ってあれ? 目が開いた。それにここは……」


 僕は目を開けるとそこはゲームで似たファンタジー世界が広がっていた。

 辺りにはエルフの森のようなたくさんの木が植えられ、空には小さなドラゴンが舞っていた。


「これって……転生したんだよね?」


 転生という事は一度、神様に魂を拾ってもらわないといけないんだよね? でも僕は一切神様なんかに合わなかったんだけど……。


「まあいいか。転生した事だし、もう勉強する必要が無くなったし、自由気まま生きてみよう! まずは冒険者ギルドに行くんだったよね!」


 転生してからまずやることは、宿泊場所探しと冒険者ギルドに登録することだよね! これはやっぱり転生と言ったら! と言ったところがあるからね。しっかり守らないと。


「ファンタジー世界ならもちろん魔法とか……チート系なものとか使えたり! いや僕に限ってそんなことはないか」


 僕は歩き続けてから数時間後、冒険者ギルドと書かれた建物を発見した。


 『冒険者ギルド』って……なんか不思議だな。まさか本当にこんな世界があっただなんて……。


「とりあえず、入ってみよう」


 僕は木の扉を開け、中へ入ってみると、そこはゲートで見た景色ととても似ていた。


 実際にここに来て思ったけど、結構お酒臭いんだ……。


「とりあえず、僕冒険者になりたいんですけど、どうすればなれますか?」

「はい。まずはこの魔力測定器にお手を触れてみてください!」


 緊張してきた。実際にやるとなるとなんか、こう……体が震えてくる。


「行きます」


 僕が手を触れると風が起こり、派手な魔法陣が浮かび上がると、そこに『零』と言う文字が描かれた。


「あらま。これは……《低次元の無能》ですね。一応冒険者になれるのはなれるんですが、商業系をオススメしますよ?」

「えっ……魔力がないって……意味がわかんない……だって僕、一応転生だよね……?」

「それはさすがに意味不明ですけど、どうしますか?」

「……冒険者でいいです」

「ではこちらが冒険者カードですね」


 あぁ、貰っちゃったよ。魔力零とか僕も意味分かんないよ。転生と言ったらチートとか……。


 僕は渋々冒険者カードを手に入れ、猫背になりながらダンジョンへ向かう。


◇◆◇


「はぁ……勢いで来ちゃったけど、僕剣とか持ってなかったんだ……詰んだ」


 何だろうこの気持ち。人にスプーンで心臓を抉られたような感覚は……なんか声が聞こえるな。唸り声かな?


 僕は唸り声の聞こえた後ろを見るとファンタジー世界では、当たり前の可愛い見た目をした凶悪な兎が牙を向けていた。


「やあ、こんちには。僕って転生者だよね?」

「キュッ?」


 ダメだこれ。転生とかに浮かれていた僕、またここで人生終わる気がする。だって魔物のうさぎに話しかけてるんだよ? 絶対人生オワコンやん。


「うさぎさん……食べる時は足の裏からにしてね……さすがに顔からいかれるのは、人間として嫌だから……」

「キュッキュッ!」


 鳴いてるだけだろうけど、こいつの言っていること分かった気がする。『分かったけど分かんない』って。うさぎさん、それ、って言うんだよ。


「あぁ、うさぎさん動いちゃった……僕は食われるんだ……」


 走馬灯を見ようと僕は目を瞑ると、一瞬視界が暗くなる。


 気になってうさぎさんの方を向くと、血だらけになった白銀色の謎の少女を見つける。


「あれ、僕って……こんなか弱そうな少女に守られちゃったよ……もう冒険者する気ないや」


 と、僕は目を瞑り、永遠の眠りの如く、深い眠りにつく。


「見つけましたよ、私の主様!」

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