第11話 教えられたこと
朧げな意識で目を覚ました蒼は、おそらくそこが病室だと気づいた。
「ぐっ、、、」
全身に激痛が走る。
左腕は無い。
無いのに、なぜか左腕の手先まで痛みを感じる。
俺は、藤村を仕留め損ねて、橘が俺を庇ってそれで...どうなった。
そうだ、橘は?
意識が朦朧としている。
視界もはっきりせず、声もうまく出せない。
「目が覚めましたね。よかった」
「...ぁ......ちばなは。みんな...は」
「待ってください。落ち着いて。大丈夫です。全員生きていますよ」
よかった。
答えてくれたのが誰かは分からなかった。
しかし、みんなが生きていることに、深く安堵した。
「とりあえず今は休んでください。さぁ、目を閉じて」
猛烈な睡魔に襲われ、蒼は再び意識を失った。
次に目が覚めた時は夜だった。
あれからまた何日も経ったらしい。
なんとか痛みを我慢して、上体を起こした。
ここがどこかわからなかったが、窓の外を見ると見慣れたオンタリオ首都の風景が見える。
「その身体で生きていることは奇跡ですよ」
看護士が主治医を連れてきた。
「任務は...雷と再生のエリクシルは無事回収できましたか?」
「ご安心を。あなたのご活躍でどちらも回収できましたよ」
「よかった...」
どちらも回収達成。
そして全員が無事。
奇跡だ。
あの怪物を相手に、全員が任務を達成して生還した。
正直、誰か死ぬことを内心で覚悟していた。
「私は軍医ではありませんが、それだけは伝えるように言われました。医療従事者として、心から感謝しています、宗方さん」
「そうだ、妹は。すぐに家族と連絡を取りたいんですが可能でしょうか」
「少々お待ちを」
主治医は優しく頷き、奥の部屋へと歩いて行った。
すると、聴き馴染みのある声が聞こえてそれはすぐに部屋へと入ってきた。
「蒼!!よかった。アンタ、心配かけて!」
「兄さん...よかった。生きてる」
「母さん、茜。病院に運ばれたと聞いたが大丈夫だったのか?」
「見ての通り、元気よ兄さん。いや、私のこと心配してる場合じゃないでしょう...」
蒼の母と妹は泣いていた。
蒼の見る限り、茜の体調は良さそうだ。危篤状態だと聞いていたのだが。
「病院に運ばれて次の日に、茜すぐに元気になったのよ。お医者さんも理由はわからないって言ってたんだけど」
「そしたら今度は兄さんが重体だって言うから、すぐに飛んできたの」
「...そうか。よくなったのなら、良かった」
茜の容体が良くなったのは、神獣を倒したからなのだろうか。
神獣が蒼の家族を雷の火傷によって苦しめていたのなら、可能性はありそうだった。
蒼はオンタリオ軍が再生のエリクシルを確保したことを、家族にまだ告げることはできなかった。
軍人である以上、任務の守秘義務が存在するため内容は言えないのだ。
そもそも自分が死ぬことを覚悟して神獣に挑んだ。
帰ってきた時のことは全く考えていなかった。
散々母と妹に怒られて二人を家に帰したあと、蒼はその後会いにきた小野田副長補佐に状況の説明を求めた。
「オスカ01部隊のみんなは...?会えませんか?あの後どうなったんですか」
橘の無事をこの目で確かめたい。
そして、オスカのみんなに会いたかった。
「宗方、よくやってくれた」
小野田副長補佐は入ってくるなり謝辞を述べた。
「身体は大丈夫か?」
「小野田中佐。状況を知りたいです。橘は...オスカのみんなはどうなっていますか?」
「説明する」
その後、小野田副長補佐はあの後何が起こったのかを語った。
「オスカ第01部隊は重傷者3名、軽傷2名。第02部隊は死傷者1名と重軽傷者1名。第03部隊は死傷者1名と重軽傷者3名だ」
01部隊に死者はいない。
しかし、02、03部隊では死者が出ていた。
切藤と宮永たちは生きてるだろうか。
実力者の彼らが死ぬとは思えないが、01部隊はやはり幸運だったのだろう。
「作戦参加の陸軍全体180名中、死傷者42名、重軽傷者125名。オスカ02、03部隊では計2名の死者が出てしまった。しかし、本来300名以上で対処しなければならない敵を、この人数で撃滅できたことは、紛れもなくオスカ部隊のおかげだ」
ことの顛末はこうだ。
蒼が一人で藤村たちを追いかけた後、橘から陸軍へ報告が入り、全軍にヘルメス旅団の裏切りが共有された。
橘はその後すぐ、動ける自分一人で蒼を追いかけ、橘の現在地を辿ってオスカ残り部隊と陸軍が支援に来るように要請した。
GPS機能のある蒼の通信機が壊れており、目視ですぐ追う必要があったのだ。
後藤は重傷のため陸軍の医療班に任せ、治療を終えた羽瀬倉とエルンストはオスカ02,03部隊と共に橘を追った。
蒼と橘がヘルメス旅団と戦っている時に羽瀬倉たちが到着し、すぐに長距離狙撃を行った。
爆炎のエリクシルで威嚇射撃を行い、その間に瀕死の蒼と橘をエルンストが回収。
その間、オスカ第02部隊が逃走する影村とヘルメス旅団員たちを確保。
そこで所持していた雷と再生のエリクシルを回収した。
「あとは羽瀬倉伍長、そして残った第03部隊と陸軍で、藤村軍曹とヘルメス旅団員たちを鎮圧。今、捕らえた彼らを尋問している」
小野田副長補佐は早口で状況説明を言った後、静寂が訪れた。
蒼は自分の行動が恥ずかしかった。
結局、橘の機転によって自分の命、そして雷と再生のエリクシルは確保されたのだ。
「宗方大尉。君の行動はいささか軽率だったな。普段冷静な君が、逸脱した行動をとるのは私としては少し不可解だ」
「申し訳ありません。自分でも、なぜあそこまで熱くなっていたのか分からず」
「もし後続の部隊が間に合っていなかったら君たち二人は殉職し、再生と雷のエリクシルは回収できていなかったかもしれない」
小野田副長補佐は鋭い目で蒼を睨んだ。
しかし、それは一瞬のことで、すぐに優しい目つきに変わった。
「...と、まぁいろいろと反省点はあるが、お前たちが神獣を倒した功績は皆から称賛されている」
「死ぬかと思いましたよ」
小野田副長補佐はそこで目を丸くした。
あれ、こいつってこういう冗談を言うやつだっただろうか、と言う目をしている。
「宗方大尉と橘中尉はその後医療班に運ばれ、なんとか助かった。もう少し遅ければ2人とも死んでいたそうだ」
蒼はそこで顔を伏せた。
自分が様々な人間に命を救われた事実がそこにはあった。
「橘は、無事ですか?腹部を超酸の槍で貫かれて、致命傷だったはずですが…」
「なんとかな。腸と腎臓が破損しており、その治療が3日続いた。医療班に感謝だ。正直なところ、助かる見込みは少なかった」
「……」
「彼女の生命力、そして医療班の迅速な対応が功を奏した。かろうじて、貫通時にFOSが少しだけ働いていたのも大きかったらしい。今は治療が終わり、脈拍は安定してるが意識が回復していない。とにかく、2人とも無事で本当によかった」
蒼は心底安心した。
橘が生きていることが、本当に心の底から嬉しかったのだ。
そして同時に、強く自分を恥じた。
彼女が自分の身を犠牲にしてまで、蒼を守ったことに、強い後悔を抱いた。
私が絶対に仲間を守る、という言葉を橘は証明した。
しかし、あいつだって自分の命を捨てる覚悟だったじゃないか。
彼女にとって、自分は守る価値のある人間ではなかったはずだ。
蒼はそう思わずにはいられなかった。
「オスカ部隊が、山頂中央の神獣と戦っていなければ、周囲に発生したクリーチャーたちに陸軍が対処できていなかっただろう。それにしてもまさか、第01部隊だけであの神獣本体を倒すとは私には想定外だった。軍の中でも激震が走っている」
小野田副長補佐はさらに淡々と続けた。
「オスカ部隊は英雄視され、これからオンタリオ社の求心力となっていくだろう。なにせAクラスを倒したのだからな。周囲の援護があったにせよ、世界的にもたった5名の小隊がAクラスを討伐したのは前例のないことだ」
「オスカ部隊長、宗方蒼、切藤冴子、宮永善英は1階級特進。また、01部隊の橘涼香、後藤剛昌、羽瀬倉やよいも1階級特進だ。君は少佐だ。おめでとう」
なかなかの大盤振る舞いだ。
しかし、それだけの任務だったのだろう。
蒼はもはやどうでもよかったが、仲間が昇進することは素直に嬉しかった。
「再生と雷エリクシルは技術省のエネルギー技術開発局が回収し、早速この2つのG5クラスのエリクシルの解析が進んでいる。どちらも、膨大なエネルギーを内包している。今朝聞いた話では、都市の電力ですら半永久的に
「半永久的…」
「自分たちがどれだけの偉業を成したか、これで少しは伝わったかな」
小野田副長補佐は、蒼に誇らしいと言わんばかりの微笑を浮かべた。
「我々の企業は世界的にも大きく一歩リードしたというわけだ。まぁ、この辺りはこのあと色々と話を受けるだろう」
そこで小野田副長補佐は椅子から立ち上がり、軍帽を被り直した。
「状況は以上だ。ひとまず、今は休んでくれ。よくやってくれた。本当にありがとう」
それから数日後。
蒼にようやくベッドから起き上がり、面会して良いという許可が降りた。
日付を見ると、もうすでに神獣討伐任務から14日が経過していた。
1週間眠り続け、さらに身体が動かせるまでに1週間かかった。
やっと仲間の顔をみれる......。
とにかくまずは一刻も早く橘の顔が見たい。ちゃんと自分の目で無事を確かめたい。
彼女に命を救われた。
早く会って謝罪と感謝を伝えたい。
蒼は、この1週間ずっと我慢していたその衝動に突き動かされていた。
「宗方少佐!インタビューを!!話をぜひ聞かせてください」
意気込んで病院のロビーへと向かった蒼に、急に見慣れない光景に遭遇した。
そこには数十ものインタビュアーとカメラが殺到していた。
「え…」
「Aクラスのクリーチャーをオスカ部隊が討伐したと言うのは本当でしょうか!?隊長のあなたが大活躍だったと!」
「部隊はたったの5人小隊。一体どうやって倒したのですか?」
「G5の再生と雷のエリクシルはどういったものなのでしょう!?」
答える間も無く押し寄せるマイクの群れに、蒼はゲンナリした。
その群衆の対応で、小一時間ほどをそれから取られてしまった。
人の群れをなんとか後にして、橘の病室についた時はすでに夕方になっていた。
病室の扉には面会謝絶と書かれており、施錠がされていた。
蒼は主治医になんとか顔を見るだけでもできないか、と頼んだ。
しかし、今は親族以外を会わせられない、と拒否の一点張りだった。
今は絶対安静。意識が目覚めるまでは我慢して欲しい、と説得された。
「隊長〜!!よかった、ちゃんと生きてた!」
「宗方隊長。ご無事で何よりです」
真っ先に橘の下へと向かっていた蒼は、病室の前で羽瀬蔵と後藤に面会した。
「お前たちこそ、本当に無事でよかった…」
羽瀬蔵は頭に包帯を巻き、後藤は両腕をギブスで固定されていた。
特に後藤の怪我が酷かった。両腕の完治はかなり時間がかかりそうに見える。
神獣から受けた爪の攻撃は、両腕の骨まで抉っていたそうだ。
以前とは違う感情的な蒼の様子を見て、羽瀬蔵と後藤は目を合わせた。
「副隊長は…まだ目が覚めてないんですよね。うん、けどきっと大丈夫ですよ」
「…」
「隊長、あまりご自分を責めてはいけません」
「そうですよ。副隊長が、隊長の命を守ったんですよね?しっかりしないと!」
「俺は隊長として、ふさわしくない行動をとった。その代価を、橘が支払ったんだ」
「それなら目が覚めた副隊長に、守ってくれてありがとう、ってそう言えばいいじゃないですか」
羽瀬蔵の回答はシンプルなものだった。
確かにその通りだ。
目が覚めたら、ありがとうと素直に言おう。蒼はそう思う他なかった。
しばらくして、蒼は退院が許された。
左腕がなくなってしまったので、機械の義手が取り付けれた。
最新技術のおかげで、精密に動かすことのできる義手の着用は珍しくない。
四肢が欠損したとしても体の一部を機械化して復帰する軍人は多く、蒼もその一人となった。
しばらくはまだ医者に通うことになるが、蒼の身体は驚くべきスピードで回復した。
Aクラスクリーチャー討伐は世界的にも大きなニュースとなっていた。
テレビではその話題で持ちきりだった。
自分のインタビュー動画までもが流され、蒼は心底うんざりした。
ヘルメス旅団・藤村の処遇や、今回の任務による報酬と昇進。
毎日様々なニュースが入ってきた。
蒼にはどれも耳に入らなかった。
ただ橘の無事を祈っていた。
隊長として不適格な自分を、どうして身を呈して守ったのかを聞きたかった。
どうしてもっと早く橘の助言を聞き、彼女に素直になれなかったのかを悔やんだ。
頭が橘涼香の安否でいっぱいだった。
もしかしたら、このままずっと目を覚まさないかもしれない。
オスカ部隊長としての雑務をこなした後、蒼は毎日橘に会うため病院に通った。
1週間は家族以外、面会謝絶が続いた。
それでも、病院の受付の待合室に座って待っていた。
何時間も、閉館になるまで。
そして蒼の祈りが届いたのか、6日後にようやく橘の意識が回復し、面会が許された。
「...」
橘の病室に入る前、蒼はずっと会って話したかったのになぜか病室に入れずにいた。
様々な思いが胸中で入り混じり、扉を開けるのを躊躇った。
何を話せば良いか。
一人で勝手にヘルメス旅団を追いかけてしまったこと。
彼女の言うことを聞かずに今まで部隊を率いてきたこと。
迂闊な行動で、彼女の命を危険に晒したこと。
それでも身を挺して自分の命を守ってくれたこと。
蒼は自分の今までの判断が、そこまで間違っていたとは思ってはいなかった。
しかし、今になってようやく今までの自分の行動を顧み始めていた。
本当はもっと橘の助言に耳を傾ければ、もっとうまく行っていた場面があったように思う。
ここのところずっとそんな考えが頭を反芻していた。
そういった複雑な想いを、どう伝えればいいのか頭の中が整理しきれていない。
その時、急に病室のドアが開いた。
「あら?あなたは...涼香のお知り合いかしら?」
「え、えーと」
「
蒼は心の準備ができずに、つい流されるまま病室に入ってしまった。
ドアを開けてすぐに仕切りがあり、その向こうにゆっくりと近づいた。
そこには、身を起こしてベッドからこちらを見る橘涼香がいた。
「た、隊長。どうしたんですかそんな顔をして」
「橘、よかった...無事だったか.....」
顔を見た瞬間、蒼は崩れ落ちるようにベッドの縁に手をついて床に膝をつき、顔を伏せた。
蒼が心の底から安堵した様子を見て、橘涼香と母である
「----ふふふ。涼香、また明日来るわね」
「ち、ちょっとお母さん------!」
橘の母が病室を出て、しばらく静寂が続いた。
橘は困惑していた。
オスカに入隊して同じ部隊となってから、蒼のこんな様子を見たのは初めてだった。
ここのところ、蒼の初めての一面を見ることばかりで、驚いてばかりだ。
「隊長。宗方隊長。大丈夫ですか?顔をあげてください」
「すまん....俺がしっかりしていれば。お前を死なせるところだった」
「何をおっしゃるんですか。私たちは軍人ですよ。ずっと前から死ぬ覚悟はできています」
そんなことより、と橘は続けた。
「ひどい顔をしていますよ。私より病人みたいです」
「ん?そうなのか?いや、心配だったんでな、それでかもしれん」
「オスカのみんなは無事なんですよね。隊長なんですから、心配させてはダメですよ。ちゃんと食事をとってますか?」
「すまない...」
橘はこう思った。
明らかにキャラが変わっている、と。
「ち、調子が狂いますね」
いつもならこんな素直に謝らないのに!と思いつつ、橘は俯く蒼の肩に触れた。
「大丈夫ですから。ほら、顔をあげてください」
蒼がベッドの下から顔をあげて橘を見た。
橘は胸が痛んだ。
自分を責め、今すぐ泣き出してしまいそうな顔だった。
何かに縋るような目。
橘はこの目を知っている。
孤児院で何度も目にする。
この目は、自身を喪失している目だ。助けを求める目だ。
目を見た瞬間、彼の心の中にあるこれまでの不幸を覗き込んだ気がした。
この人は、こんな目をする人だったのか。
私がこの人を、知らないうちにこんなに追い詰めてしまっていたのか。
私はただこの人に死んで欲しくなかった。
みんなを守ると約束したのだ。
けれど、自分の行動で、彼に重いものを背負わせてしまったのかもしれない。
気づけばいつも子供にそうするように、蒼の両手を優しく握った。
「ごめんなさい。辛い思いをさせてしまって...けど」
あまりにも深い悲しみを見てしまったせいなのか、橘は自分が病人であることを忘れた。
「隊長が無事で良かったです」
普段は見せない優しい声音で、橘は蒼に微笑んだ。
「ご、ご、ご、ごごご後藤さん、こ、これは....」
「うむ。どうやら間が悪かったようですね。出直しましょうか」
「ですよねーー...」
ヒソヒソと、病室のドア付近では羽瀬倉、後藤が入りづらそうに隠れていた。
二人はそこから静かになるべく音を立てずに退却した。
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橘との面会が許可されるようになってからも、蒼は毎日欠かさず病室へ通った。
「隊長。毎日来なくても大丈夫ですよ。私も困るのですが」
通い続けて5日目で橘にそう言われるも、蒼はそれでもつい気になってしまう。
もはや習慣となって毎日職務が終わると病室へ通った。
神獣討伐の任務以降、休暇もあり、さらに報告書などのデスクワークが多かったのも重なり、オスカ第01部隊は首都ブズワンにしばらく滞在していた。
蒼が毎日夜の19:00に面会に来ると、橘は今日はどんな仕事をしたのかを聞いた。
しばらく話した後に、特に話すことも無くなってお互いに本を読んだりネットのニュース記事を見たりして沈黙が続く。
しかしなぜか二人にとってはこの沈黙は、全く気にならなかった。
何も話していない静かな病室に、開け放たれた窓から穏やかな夜風が入って来る。
木々の葉がサラサラと音を立て夜風に揺れ、虫が鳴き始める頃になる20:00頃。
蒼はそれではまた明日来る、と言い残していつも帰って行った。
意識が回復して1ヶ月経ってから、ようやく橘に退院の許可が下りた。
退院して実家に帰り、自分の部屋に戻ってから橘はふとあることに気づいた。
なんだろう。
別段、毎日会っていたはずなのに、なぜかまだずっと隊長のことを考えている。
どうもモヤモヤしている。
部隊のみんなが無事でよかった。
誇らしい気持ちできっと来週から仕事にまた励むことができるだろう。
私たちは誇れることをした。
モヤモヤするのは、藤村軍曹のことがあったからだろう。
仲間にスパイがいたということは、今でも信じたくなかった。
橘は気を取り直して、軍服をクローゼットのハンガーにかけて壁に吊るした。
次はどんな任務だろうか。
しかしまだずっと、蒼の、あの悲痛な表情が頭から離れなかった。
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