第3話

 名前も決まった事だし、どう暮らすかだよね。最後の人生楽しまないと。と言っても、この世界の事もわからないし、鞄の効果がわからないから普通に使うしかないし。


 「我々に危害を加えないのならここに留まってもかまわない。よいだろう、マテ」

 「はい。ただ、人間どもが何も事を起こさなければよいのですが」

 「うーむ。そうだな」


 人間? 一応普通の人間もいるんだ。敵対関係なのかな?


 「そういうわけではない。ただ我ら妖精族とエルフ族は共存し、我の力で結界を張っているのでこの付近には魔物がいない。だが、他の場所にはいるのだ」

 「え? いるの」


 クロバー様とマテ様、その他エルフ達が頷いた。


 「人間達は、モンスターと呼んでいるがな。稀に神のお告げが降り、勇者や聖女が現れる。その者達は、いつも黒い髪をしているのだ。だから人間達にお告げが降りている可能性がある。その者達が、強力なモンスターを倒したり、人間達に力を与えたりしている」


 なるほど。じゃ、僕がここに居たら迷惑がかかるのではないだろうか。マテ様の言葉に僕は考える。と言って、人間達の地域に行けば、勇者だと祭り上げられモンスター退治をさせられるなんていうのも嫌だなぁ。

 あ、もしかして、ここって人が来れない所だったりして。だったらここに居た方が安全? うーん。でも最後の人生悔いのないようにしたいからなぁ。

 かと言って、命がけで世界の旅ってのもなぁ……。


「凄い考えこんでいるな。髪色の事なら何とかなるが?」

「え? 本当?」


 俯いて考え込んでいた僕は、クロバー様の言葉に顔を上げた。目が合うと頷く。


 「ツティー」

 「はい。クロバー様」


 呼ばれて現れたのは、銀色の毛並みがフッカフカの碧い瞳の猫! 何これ、めちゃかわいい。


 「猫ではない、妖精だ」

 「妖精! この世界の妖精はこんなに可愛いの!」

 「あらあなた、私の魅力がわかるのね」

 「ごほん。で、ツティーと契約を結び髪色を変えるといい」

 「なるほど、それなら絶対バレないわね」


 ツティーちゃんとクロバー様だけがわかっても。僕はどうしてそうなるのかわからないのだけど。契約って何? 髪色を変えるのってツティーちゃんの能力?


 「そうだな。契約する事で魔力の共有などが行われる。お互い居場所もわかる。契約するのに何かを交換するのが条件だ。そこで、毛色・・の交換を行うのだ」

 「……け、毛色ですか? な、なるほど。そんなので契約できちゃうんだ……」

 「で、どうする?」

 「それで契約できるなら、お願いします。それに髪色が黒でなくなれば、世界を旅する事も可能になりますよね?」

 「もちろん! 一緒に行きましょう!」


 なぜか、ツティーちゃんが食いついた。


 「そういうと思って、ツティーを選んだ。彼女は、外の世界を見ていたいと言っていたのでな。契約者が居れば大丈夫だろう」

 「そうか。お互い得するって事で! で、どうやったら交換できるの?」

 「掌を合わせて、互いの名を呼び合うの」

 「へえ、それだけでOKなんだ」


 って、ツティーちゃんが手を上げ、肉球を僕の方に向ける。あぁ、ムニュムニュしたい!

 僕も手を開き、その肉球に合わせる。


 「ツティーちゃん」

 「コクターン」


 合わせた手の間が光ると、僕達二人の全身も光を帯びた。それが治まるとツティーちゃんが漆黒の黒色に大変身! なんだろう。このしっくりくる色は。銀色もよかったけど、黒の方が断然いい。


 「ツティーちゃん」

 「ちょっと何!?」


 我慢できずに僕は、ツティーちゃんに抱き着いた。もとい、抱き上げた。

 フワフワモフモフ。むぎゅー、すりすり。


 「やめて~!」

 「ふぎゃ」


 思いっきり顔を引っ掻かれた。痛い……。


 「そんなに妖精が気に入ったのか」


 あきれ顔でクロバー様に言われた。どうしてなのか、凄く満たされた気分になったよ、さっき。


 「すぐそこに妖精達がいる場所があるが行ってみるか?」

 「え? はい! ぜひ!」


 クロバー様の言葉に、速攻二つ返事で返す。苦笑いをするクロバー様の後を僕はついて行った。本当にすぐ近くに広がる草原に、動物の様な姿をした妖精たちが楽し気に走り回っている。


 「何ここ! 天国?」


 キツネ、リス、ワンちゃんにアライグマ。ウサギに大型だとトラとか後は見た事がない姿のモノまで。

 あぁ、見ているだけでも心が和む。もうここで、この妖精さん達と住んでもいいかも!


 「何ですって!」

 「え? 君も僕の心を読めるの!?」


 さっきまで何も言わなかったのに、ツティーちゃんが、クワッと目を見開き怒っている。そうだった。彼女、外の世界に行きたかったんだった。


 「契約者の強い感情は伝わってくるのよ!」

 「そ、そうなんだ……」

 「外の世界に出て行った妖精達もいる。その者を探す旅も楽しいのではないか?」

 「え? 外にもいるのですか? モンスターがいるのですよね?」

 「あぁ。エルフ族の者も外に出たいと言う者がいる。その者と一緒に出て行った妖精達だ。ただ、契約者なしでは、結界内に入れないのだ。それを覚えておいてほしい」

 「わ、わかりました」


 それって、僕になんかあったらツティーちゃんは、この場所に帰って来れないって事か。そうだよね。別に追い出すわけじゃないのだから、満足したら戻って来たいよね。


 「はい。寿命が尽きそうになったら戻って来ます」

 「ずいぶんと長い旅になりそうだな。では、一つお願いがある」

 「お願い?」


 こんなヨワヨワな僕に何を頼む気なのだろう。


 「はぐれ妖精達を連れ帰って来てほしい」

 「え? どうやって?」

 「君なら多重契約が可能だろう」

 「あ、そうやってね。なるほど。それなら僕にもできる。うん。わかりました」

 「じゃ、さっそく出かけましょう!」


 ツティーちゃんが、目をキラキラさせて言った。

 僕的には、皆さんに『こんにちは』と『またね』の挨拶をしたいのだけどなぁ。

 チラッと僕らを見る妖精達を見る。


 「もう。いいわ。明日、旅立ちましょう」

 「やったぁ。じゃ、ちょっとご挨拶に行って来る」

 「待って、私も混ぜて」

 「クロバー様、大丈夫でしょうか」

 「何、心配はいらない。彼は、ちゃんと役目・・を果たすだろう」


 僕を見つめる二人が、不安と期待の眼差しを向けている事など知らなかった――。

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