最終話 結末

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!①⑦がない!どこにもない!①⑧はあるのに、①⑦がない!何故だ!」

 岸和田競輪場のホームストレッチで地面に崩れ落ちるアリサ。絶妙な加減で2車単を外した。

 すると、それを見て大笑いする競輪の神様。

「まあ、こんな日もあるさ」

 項垂うなだれたままのアリサに声をかける競輪の神様。

「わっ、私はどうなるの・・・?」

 まさか、元の世界線に戻してもらえないのか?そう言えば、外したときの条件確認をしていなかった。何か要求をされるのではないのか?急に不安になるアリサ。

 が、彼女の不安は即座に解決される。

「楽しかったよ。狙いは悪くなかったと思うよ?また、会おう」

 美少年・競輪の神様がそう言った瞬間だ。アリサは光に包まれた。


「はっ・・・!」

 気がつくと、そこには

「ここは・・・?」

 アリサは起き上がり周囲を確認する。間違いなかった。そこはアリサが暮らすアパートの一室だった。

「助かった・・・」

 全身の力が抜けるような感覚になるアリサ。どうやら、勝負には負けたが、元の世界線には戻してもらえたようだ。



 その夜、アリサは妹・見事に電話をしていた。

「そういうことがあったのよ!私、並行世界の岸和田競輪場に行ったのよ!」

「・・・」

 アリサは今日の出来事を、慎重に、記憶に誤りがないか、ゆっくり確認しつつ、妹に話した。しかし、その妹からは何も反応がない。

「ねえ、見事ちゃん!聞いてるの?ラジオだと、何も言わないままだと放送事故になるよ?」

「いや、何も言えないわよ・・・」

 口調から見事が呆れている様子が伝わってきた。


「見事ちゃん!また信じていないのね!お姉ちゃんが嘘を吐くような女に見える」

「・・・」

 再び無言の見事。このままだと、ラジオなら放送事故だ。

「ちょっと!見事ちゃん―」

「お姉ちゃん。私、お風呂に入りたいから、もう切るね?」と、言い残し電話が切れた。

「見事ちゃん!見事ちゃんってば!」

 アリサの呼びかけも空しく姉妹の会話が終了した。


「もう!私、嘘ついてないのに・・・」

 アリサは拗ねながらスマホをテーブルに置く。と、その瞬間、スマホが振動した。

 今度は誰かから電話が来たのだ。透かさず電話に出るアリサ。

「もしもし、見事ちゃん!」

「あの、静所さんですか?」

「えっ・・・?」

 アリサは電話の相手の声に聞き覚えがあった。中年男性の声で、いつも聞いている声。間違えようもない。アリサの勤務先・ステーキハウスの店長だ。

「静所さん、今日のシフト2だよね?いつ来るの?体調不良?」

 アリサは部屋の壁時計に目を向ける。日本標準時JSTで、19時48分だった。

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!バイトのこと、忘れてたああああっ!」

 アリサはスマホを落としそうになった。



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