第28話 宇宙人に、タキシードを着せてもらった
「どこで、おわかりになりましたかな?」
「王女様の治癒魔法です。あなたは、ケガをされていた。『人を一瞬で殺せる』宇宙人を相手にして」
あんなヤツらを相手に、『ケガ程度で済んでいる』ことが不思議なのだ。
あの宇宙人が連れていた怪物を、マルちゃんは一瞬で撃退した。相手が弱かったからじゃない。全力で瞬殺しなければ、自分が死ぬから。それだけ、危険な相手だったのである。
「それで、あなたの導き出した答えは?」
「あなたはもしかすると、王族にとって重要な方なのでは、と」
ひょっとすると、王族よりエラい立場にいるか。
「推理は、ほどほどになさいませんか」
老執事は、にこやかに答えた。
「私は、ただのジジイです。しがない執事が、性に合っておるのですよ」
これ以上は、深く聞けないな。僕は、質問をあきらめる。
「アユムさま、こちらへ」
老執事のクロードさんに、僕は別室に通された。
「こちらをお召くださいませ」
僕が着せてもらったのは、タキシードである。
ふむふむ、いい生地だ。これくらいしか感想が出ないや。
「随分と、初々しい仕草をなさいますなあ」
ヘアメイクしてもらいながら、僕はモジモジしている。
「なんだか落ち着かなくて。タキシードなんて久しぶりですよ。何年ぶりかな? 友人のアツロウとミヨコちゃんの結婚式以来かなぁ? あの二人、職場でデキ婚しましてね。ウェディングドレスも、マタニティ用のを着ていたんですよ。その子どもも今は三歳になって、電話をかけるたびに父親の代わりに取っちゃって大変で――」
「盗聴器の類をお探しですかな?」
「あ、あはは。ご冗談を」
「ご心配なく。私は宇宙人だが、この世界に危害を加えるつもりはございません」
「ですよね」
クロードさんから指摘を受けて、僕は手で服をさするのをやめた。あからさまだったか。
髪の毛もセットしてもらい、冒険者の雰囲気はすっかり抜けた。
よく女性向けの小説やらドラマやらなんかで、別人のようにおめかしした自分を鏡で見て、主人公が「自分ではないみたい」とつぶやくシーンがある。
今がまさにその状態だ。
「アユムどうかしら、こ……」
試着室の扉が開き、エリちゃんが硬直する。
エリちゃんはピンクのドレス姿で、頭にはティアラまで。
後ろのマルちゃんも、僕を見て固まっていた。ブルーのミニスカドレスに身を包んでいた。スカートが短いおかげで、シッポがかわいらしく見える。
「どうしたの?」
そんなに、変かな?
「アユムかっこいいぞ!」
マルちゃんが、フサフサのシッポを激しく振った。
「クロード様!」
騎士の一人が、更衣室に飛び込んでくる。
「何事ですかな?」
「ゴーチエ王子の帰りが遅くて、確認したところ、魔物に襲われていると!」
それは、大変だ!
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