第20話 職業を決めた

 昨晩見た黒い影は、きっとユウキだろう。


 あの巨大な怪物を倒せるだけの力を持つのは、ユウキ以外に考えられなかった。


 確証はない。影が、僕を見たわけでもなかった。でも、あれはユウキな気がしてならない。


 あれだけ強いんだもん。その上、敵を倒してはいさよならという塩対応ぶりも、ユウキの無愛想ぶりを想定させた。


 でも、黙っていよう。話したところで、誰も信じてくれないだろうからね。


 ユウキには、パーティがいるはずだ。いざとなったら、彼らが全部話してくれるさ。


 それより、僕たちの問題だ。


 みんなで朝食を食べながら、レベルの上昇率をみんなで確かめ合う。


 別の街へ出発も考えたが、まだ孤児たちが怯えている。

 これでは、仕事にならない。

 話し合いの結果、「今日一日は、ずっといっしょにいよう」となったのだ。

 

 外に出たところで、仕事もないし。


 念のため、ギルドに「街の復興作業を手伝おうか」と聞いてみた。


 けれどギルマスから、「最大の功労者は休んでろ」って釘を刺されたのである。


「エリクサーを薄めた甘酒よ。ショウガも、内側から体を温めてくれるわ。気持ちが休まるわよ」


 孤児たちの気分を落ち着かせるために、エリちゃんが甘酒を用意してくれた。

 エリクサーを飲みやすいように、薄めてみんなに飲ませる。


 出会ったときにエリちゃんが持っていた瓶の中身って、ショウガだったんだよね。


 さて、レベルアップの確認だ。

 今日一日は、ステータス表とにらめっこかな?

 ソレも楽しいよね。


 この世界のステータスは、「能力値に自分でポイントを振っていく」スタイルである。

 レベルが上がると三ポイントもらえて、能力値に振っていくのだ。

 洋ゲーみたいな操作法だね。


 能力は、「腕力」「体力」「魔力」「素早さ」、最後に「運」と分けられている。


「エリちゃん、めっちゃ強くなっているね」


 僕はエリちゃんのステータス表を見て、目が飛び上がった。一〇ほど、レベルが上がっている。


「毒ポーションで、宇宙人とかいうのを大量にやっつけたからでしょうね」


 魔力に、エリちゃんはポイントを振り分けていく。


 マルちゃんは元々強いから、あまり伸びていない。

 それでも、パワーアップした僕たちより強く、各能力値もトップクラスである。


「僕、こんなに強くなったんだ」


 ステータスを見ると、僕は恐ろしく強くなっていた。

 力、耐久力、素早さ、どこにも振り放題じゃないか。


「あんたって、【運】だけがやたら高かったのね?」


 そうである。僕の能力値は、運だけカンストに近い。

 全ステータスがハイレベルな、マルちゃんよりも高かった。

 女神からもらった恩恵があるからだろう。

 なので、別の能力に振り分ける。まんべんなくでいいか。


「そろそろ僕も、魔法を覚えよう。オススメってある?」

「治癒か、補助魔法は? たいていの攻撃魔法は、わたしが覚えているわ」


 なるほど。ヒーラーとして生きるのもありだな。


「あんた、職業もろくに決めてないでしょ? そろそろ方向性を決めないと詰むわよ」


 ちなみにエリちゃんは基本職が【メイジ】で、副業が【ハーバリスト】だ。役割としては、戦闘員というより学者さんに近い。所属も元々、魔術系の大学だとか。


 マルちゃんは、【クノイチ】である。隠密とワナよけ、戦闘などなんでもござれだ。まだ見たことはないが、魔法を手足に込めて攻撃もできるという。頼もしい。


「僕は、そうだね。惹かれるとすると、【ルーンナイト】かなぁ」

 魔法と剣術を併せ持つ、複合職だ。【魔法剣】って特殊スキルもあるらしい。


 回復魔法を使う【パラディン】とどっちか悩んだけど、攻撃手段が欲しかった。


 ウチは今後、火力不足になりそうで怖い。


 宇宙人が敵になる可能性が高い以上、手数があると有利だろう。


 よって、攻撃手段を増やす方向で行く。


 この日は完全オフのはずだった。けど、お風呂にマルちゃんを筆頭に孤児たちが入ってきて、心までは休まらない。


 なんでみんな、お風呂に乱入してくるのかなぁ。

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