第18話 宇宙人と遭遇した

 紫のゴスロリ服は、この世界を支配しに来た宇宙人だった。リゴス星人という。


 元々の肉体が、ベッドに横たわっている。ピクリとも動かない。死んでいる?


「マジで宇宙人だ。ところで、服を着ていた女性は無事?」

「ああ、この実験体?」


 やはり、自身を装着した身体を侵食するタイプか。


「会話だけなら、この姿でもできるのよ。でも、怪しいでしょ?」


 この少女は、やはり貴族の肉親だったという。病気だったそうで、リゴス星人は「身体を治してやる」とウソを付いた。取り憑いて肉体を手に入れて、野盗や貴族をもろとも操っていたとか。


「この家具類は? まさか転売で食べてますとか言わないですよね?」


 野盗を使って麻薬を生成するような輩が、転売ごときで食いつなぐはずがない。これもなにかあるのだろう。


「こいつらも、リゴス星人よ。我々リゴスは、【付喪神宇宙人】と呼ばれているわ。このメイドも、リゴス星人が操っているの」


 適切な道具に身体を預け、人々を観察してから乗っ取るの。


「そうか、じゃあマルちゃんも!」

「誰よソレ?」

「あなたが捕まえた、獣人族の女の子ですよ」


 奇妙な術で金縛りに遭ったといっていたが、取り憑かれそうになっていたのだろう。


「ああ。鎖で繋いでいた子ね? 鎖を介して、身動きを取れなくしたの」


 それでもいうことを聞かないから、拘束してじっくり支配するしかなかったそうだ。いくら他人に取り憑くことが得意でも、侵食度合いがあるようだな。


「どうして、この世界を支配しようと?」

「この世界の連中が呼んだのよ? 悪事を働くために」

「召喚って、そんなに普及しているんですか?」

「地球人を呼べるのは、女神だけよ。我々は、悪党が呼び出すの。魔王とかいう連中が」


 この世界の住人は基本的に、他力本願だという。


 自分たちが動くより、よその世界の住人にすべて押し付けるらしい。ミスしても、すべてをなすりつけられるからだ。悪党どもは、そこを付け込まれたに過ぎない。


「私たちだけじゃないわ。他の星の連中も、ゾクゾクと召喚されているから」

「あれか。ゲームのコラボイベントみたいな感じだな」

「あなたの世界で言えば、そういう理屈でしょうね」


 どうして僕たちが呼ばれたか、なんとなくわかってきた。収集がつかなくなったので、魔族も侵略者も一網打尽にしろと。 


「では、捕まえた人たちも!」

「ええ。装備に取り付いて、乗っ取るつもりだったの」


 しまった。それじゃあ。


「アユム!?」


 エリちゃんとマルちゃんが、冒険者たちに捕らえられていた。


「こいつら変だぞ! 助けようとしたら掴みかかってきた!」

「彼らの装備に、宇宙人が取り憑いているんだ!」


 冒険者たちからも、悪意は感じない。渋々従っている、といった感じである。


 リゴス星人が、愉快そうにノドを鳴らす。


「形勢逆転ね。さあ、武器を捨てなさい」

「くっ」


 僕は、抵抗する。


「操られた人たちは、どうなるの? この人みたいに、死ぬのですか?」

「精神を侵食されて、死ぬわ。モノを介さないといけないし、侵食にも時間がかかるけど。さあ、お仲間をあんな姿にしたくないでしょ?」


 星人に言われて、僕は剣を投げ捨てた。


「さあ、あなたたちの装備も全部捨てなさい」

「言う通りにしようエリちゃん。ポーションを捨てるんだ」


 僕は、エリちゃんに指示を送る。


「え、でも……」


「いいから! 『今まで大量に作った』からもったいないけど、『毒ポーションの中身』を『優先的に』捨てるんだ!」


「……わかったわ!」


 エリちゃんは率先して、ポーションを床に叩き割った。ドバドバと、中身が床に広がっていく。


「こんな大量の毒を……あなた、ハーバリストね」

「副業はね。本業は魔法使いよ」


 ドロドロの毒ポーションが、家具類にまで浸透していった。


「ぐあああああああ!」


 家具類が、突然ガタガタと震えだす。

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