第13話 結婚したことになっていた!?
さりげなく僕が言うと、目に見えてマルちゃんが照れだす。
「う、うそだぁ。あのオヤジに限ってそんな」
「でも、キミをそこまで強くしてくれたんでしょ? だったら、愛されている証拠だよ」
戦闘マシーンとして育てたなら、もっとストイックな性格にさせる。
組織ってのは、そういうもんだ。
でも彼女の親は、そうしなかった。
彼女の優しさ、人間性を優先して育成したんだろう。
「きっとさ、殺人兵器として生きていてほしくなかったんじゃないかな? 最低限自分を守れるくらいの力は与えてさ、あとは好きに生きなさいって思っていたのかなって」
「えへへ。そうかな?」
「そうだよ、マルちゃん。キミは愛されているんだ」
なんだかんだいって、身内ってそんなもんだ。家族に甘いものである。
「そうだわ、アユム。ずっと聞きそびれていたんだけれど」
エリちゃんが、唐突に切り出した。
「勇者の人となりって、どんな感じなの?」
「普通の男だよ。ゲームのことしか考えていないけど」
少なくとも、悪人ではないことは確かだ。
「ゲームの腕は、僕も敵わないよ。とにかく最速クリアして次のゲームをやるやつだった」
反対に、僕は一本のゲームをやり込む。世界観を考察し、作り手の意図まで考えたい。
「あんたの強さの秘密が、なんとなくわかってきたわ」
エリちゃんが、カレーを食べ終えた。
「アユムは特別強いってわけじゃないけど、いろんな難局を突破してきたじゃない? でも、勇者は本当に超然としているような印象を受けたわ」
「ああ。ギルマスも同じことを言っていたね」
悪徳貴族逮捕の後、勇者ユウキのウワサを聞いたことがある。
剣の一振りで山を斬り裂いたとか、もう魔王級の魔族を七体潰しているとか。
僕も、証拠の写真を何枚かもらった。写真技術があるってことでもすごいが、その画像にド肝を抜かれる。
島を覆い尽くすほどの巨人が、頭を破壊されて横たわっている姿だ。怪獣映画のようにウソくさく、災害ノンフィクションのように生々しい。
「初級魔法で敵の一団を消滅させたって、本当かしら? だとしたら、おっかないわね」
『今のはメテオじゃない、ファイアーボールだ』ってか。
「魔王ってすごい数がいるんだね?」
「この世界って、どうもいろんな魔族から狙われているらしいわ。別の世界となんらかの魔力的ななにかでつながっていて、ここさえ押さえれば他の世界も攻め放題なんですって」
魔術学校の偉い先生が、教えてくれたという。
「うごお、すっげえ。こんなことができるやつと、友だちなのか?」
マルちゃんが、興味深そうに写真を眺めた。
「まあね」
「すごいぞ、アユム。さすがマルの旦那さんだ」
「え?」
さっき、すごいことをいったぞ。この子は。
「ねえマルグリット、今なんて」
声を震わせながら、エリちゃんがマルちゃんに尋ねる。
「アユムはマルのお嫁さん!」
「ちょっと待ちなさい。意味が違うから! ってそういう場合でもないわ! あなたがアユムと!?」
「そっか、マルがアユムのお嫁さんなんだった」
「どうしてそうなるのかって、聞いているのよ!」
「ぼうちゅーじゅつってヤツ」
房中術? 僕はマルちゃんに、なにかされたっけ?
「馬乗りになったとき?」
「そうそう! ちゅーしたら、ニンシンするんだろ?」
マルちゃんの両親は「子どもができるから、異性との過剰なスキンシップは避けろ」と忠告したという。
「アユム。あんたこの子と『ちゅー』したの?」
「してないよ!」
怖い顔で睨まないでくださいエリちゃん!?
「未遂だよ! ほっぺたに何度もキスされたけど、口づけはないから!」
「だとしたら、いいとして」
いいの!?
「マルグリットはどうして、捕まっていたの?」
そういえばそうだ。
ドワーフのギルマスを押しのけるほど強い魔族を、マルちゃんは一撃で倒した。
とても盗賊なんかに後れを取るとは。
「強い魔族に捕まったんだ」
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