第12話 エリクサーの原料がわかった

 従業員のお風呂上がりを待ってから、食事に。


 今日は、カレーライスである。田舎で食べるような、具材がゴロッとしたものだ。


「おいしいぞ、アユム!」


 もう三杯目をおかわりしながら、マルちゃんはスプーンを動かす。お皿まで食べてしまう勢いだ。


「雑穀などを多少混ぜて、安価で抑えているけどね」

「でも、うまいぞ!」


 一応、「おいしい雑穀米の食べ方」を伝授したのでクセはそんなに出ていない。社長である僕も食べているから、誰からも文句は出なかった。僕が一番美味しく召し上がっているからかも?


「この世界には、お米があってよかったよ」

「私も、存在は知っていたわ。けれど、身をすりつぶしてちょっと強めのポーションにするくらいしか思いつかなかったのよ」

「まさかこれが、【エリクサー】の原料だったなんてね」


 そう。この世界でエリクサーはお米でできている。

 つまり、エリクサーとは【甘酒】だった。

 それに魔法で調節をして、エリクサーにするのだ。


「そりゃあ森で育てていたら、質のいいお米なんて作れないよね」


 たしかに甘酒って、『飲む点滴』なんて二つ名がついている。

 けど、米自体の製法や育成法はちゃんと考えないと。


 誰も食べ方を知らなかっただけで、雑穀という扱いだった。

 作り方と食べ方を教えると、みんな楽しそうに食べてくれる。


「いいお米は、輸入するの。でも貴族が独占していて」


 とはいえ、家畜の肥料にするくらいだとか。


「そこそこおいしい食べ方」を、市場には簡単に作り方だけ普及しておいた。

 あまりにおいしい食べ方を教えると、ますます貴族たちが買い占めてしまう。

 この子たちに行き渡らなくなる可能性があるから、値段も吊り上げたくない。


「これは、お米が取れる土地へ行って、ちゃんとした育て方を普及させる必要があるかな?」


 みんな、満足げに食べている。

 なにより、一緒に食べてくれる人がいてお腹いっぱいになるっていいよね。


「そうだ。エリアーヌ! お前、アタイに変なの食わせたろ!」


 マルちゃんが、エリちゃんを指差す。


「ああでもしないと、地下の細菌などであんたは死んでたのよ? おまけに口づけなんてしたら、恩人であるアユムに感染していたかもよ」

「うー」


 あれま、獣人を大人しくさせちゃった。


「実際どうだったの?」

「私が言ったことは脅しじゃない。本当よ、マルグリット。あなたは環境の悪い地下に閉じ込められていて、細菌類に脅かされていたの」


 少しずつ菌を殺していかなければ、僕が細菌にやられていたところだったらしい。


 まず体内からキレイにしてから、今のように外側の順に洗い流そうとしたとか。


「あうー。ごめんなさいだ、アユム」

「いいんだよ。ところでさエリちゃん、どうしてポーションに媚薬なんて入っていたの?」


 僕は、さりげなくエリちゃんに話を振る。


「どうして捕まっていたの? あなた【ニンジャ】でしょ?」


 エリちゃんが、スプーンのジャガイモを口へ。


 さっきエリちゃん、ごまかしたよね。


「あー。やっぱりわかるか?」


 マルちゃんが口元を指でなでで、カレーを舐めた。

 口の中は、カレーでパンパンに膨れ上がっている。


「【早着替え】のスキルがあるってことは、あなた、【ニンジャ】よね?」


 そんな便利スキルが、あったとは。確かめてみるか。

 冒険者に支給されるスマホ大の端末を開く。スキル早見表のページを開けた。

 なるほど。たしかに「ニンジャという職業が使える、変装の一種」って書いてある。


「任務があるたびに、『お前は番犬だから、家でお留守番してろ』って親方から言われていたんだよ。でも『アタイは犬じゃねえ。オオカミだ!』って出ていった」


 で、自力で功績をあげようって張り切ったら、捕まったという。


「ニンジャって、ホントは集団行動だからね。スタンドプレーは命取りなんだ」

「痛感したよ。アタイは、ニンジャには向いてねえ。親方も、アタイを苗床と思っていたんだろうな」

「違うよ。その親方は、きっとマルちゃんを大切にしたかったんだ」

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